『黒い潮』、『闇を横切れ』、『河口』

3月16日(日)晴れ

 終日、家に居る予定だったのが、昼食を外で食べてくれというので、ついでに足を延ばすことにした。といっても見たい映画が見当たらず、結局昨日に続いてシネマヴェーラ渋谷で「山村聰の世界」を見ることになった。本日見たのは山村自身が監督した『黒い潮』(日活、1954)と増村保造監督の『闇を横切れ』(大映、1959)の2本である。ともにある事件をめぐる新聞記者の動きを描いた作品であるのが共通していて、興味深い2本立てであった。昨日見た中村登監督の『河口』(松竹、1961)と合わせて3本のそれぞれについて思ったことを書いてみようと思う。

 『黒い潮』は国鉄総裁の失踪と謎の死をめぐる下山事件をモデルとした井上靖の同名小説の映画化である。井上自身が所属していた毎日新聞をモデルとしたらしい毎朝新聞という新聞社で、事件のデスクを担当する速水(山村)という記者を中心に、彼らが直面する取材活動における客観性や正確さの重視と、発行部数を増やすために事件をセンセーショナルに取り上げようとする内外の圧力、さらに事件の背後にある社会の動きの葛藤に重点が置かれ、事件の真相究明は必ずしも目指されていない。速水が客観的な報道を心がけるのは、自分自身の過去の体験が影響しているのだが、彼の学校時代の恩師の一家との関係も含めて物語の展開の上では余計な説明になっているようにも思われる。
 
 映画を見ていての興味は、この当時の新聞作りの現場の様子が忠実に再現されていることに向けられる。特に部屋の中に氷をもちこんだりしてしのごうとする夏の暑さの描写は見事である。なお、この作品の助監督は鈴木清太郎(清順)が務めている。山村自身が監督もし、主演もしているので、鈴木の役割も小さいものではなかったと思われて、製作現場がどのようなものであったかにも興味がわく。

 『闇を横切れ』は北九州の地方都市を舞台とする作品で、市長選挙の候補者がストリッパーの絞殺死体の傍らに倒れていたというショッキングな事件が起きる。容疑は候補者にかかるが、現場近くで別の男を見かけたという証言がある。地方新聞の若い記者・石塚は独自の調査に取り掛かる。彼の上司であり、憧れの先輩である編集局長の高沢(山村)はその取材を励ます。石塚は被害者の仲間だった女性(叶順子)から証言を得ようとするが、なかなかうまくいかず、取材の過程で重要な証人たちが次々と消されていく。こちらも事件そのものや、この市の市長選挙のゆくえはどうでもよく、新聞記者の事件への取り組みが前面に出ている。

 同じ増村の『黒の試走車(テストカー)』が最新の技術をめぐる情報の争奪⇒産業スパイとその非人間性を描いていたのに比べると、この作品で描かれている社会の悪はどうも類型的・抽象的である。ただ、この2日間で見た4本の映画の中で、この作品の山村が一番カッコよかったというのは否定できない。山村の扮する高沢がラ・マルセイエーズを口笛で吹いて街を闊歩するというところに時代があらわれている。

 『河口』は『黒い潮』と同じく井上靖の原作小説の映画化であるが、こちらは岡田茉莉子主演の女性映画で、彼女が一番きれいだったころの作品の1つではないかと思われる。財界の重鎮・宮原と別れたまだ若い李枝(岡田)は宮原の相談役・館林(山村)の勧めで銀座に画廊を構える。風貌こそ冴えないが美術について深い知識と鋭い鑑識眼をもつ館林は、男を利用しても生き抜こうとする李枝に期待をかけるのだが、李枝は打算抜きの恋への憧れを捨てきれない。彼女が男にはまるたびに、館林が嫌みを並べるのだが、その一方で彼女に対してひどく憶病なところも見せる。

 画商となる女性が主人公であることも手伝って、美術作品や建築・庭園などが紹介され、また風景やヒロインの姿も絵から抜け出したような描かれ方がされているのが興味深い。昨日の当ブログで取り上げた『女優須磨子の恋』が演劇の世界を演劇的に描いているのに対し、こちらは絵画的といってよい。同じ井上靖の原作小説を映画化した川島雄三の『明日来る人』で月丘夢路と三国連太郎が人ごみに交じって京都の夜の街を歩く場面があったが、この作品では岡田茉莉子と田村高広が京都御苑を2人だけで歩いている。館林は李枝に向かってあなたは人間の方に興味があるらしいというが、美術に興味がある館林は中村監督の分身であるのかもしれない。

 私は、風景よりも人間の方に興味があるし、中村よりも川島の方が好きなのだが、それでもこの作品の終わりごろ、李枝と館林が京都から大阪に向かう場面で車窓からの風景がとらえられているのには感激した。京都と大阪のあいだの電車の窓から、何箇所か捨てがたい場面を拾うことができると思うのである。

 それぞれの作品が、山村聰という俳優のさまざまな演技を引き出しており、この他に彼がどのような演技を見せたかをあらためて知りたくなる。シネマヴェーラの特集上映は3月28日まで続くので、また機会を見つけて身に出かけようと思う。
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