ウィルキー・コリンズ『月長石』(27)

3月5日(水)雨が降ったりやんだり

 またしても前回(2月17日の第26回)から間が空いてしまったが、コリンズの『月長石』の紹介を続ける。

 1年前に起きた<月長石>と呼ばれるダイヤモンドの紛失事件を調べ直そうと思ってヨークシャーを訪れたフランクリンは、叔母のヴェリンダー卿夫人の邸で働いていて、事件後に自殺したらしいロザンナ・スピアマンが残した自分自身のナイトガウンと手紙を手に入れ、愕然とする。ナイトガウンには彼が夜、従妹のレイチェルの部屋の扉に触れたしるしであるペンキのあとがついていた。そして、<月長石>を盗んだ犯人はペンキのついた衣服をもっているはずだと、事件を捜査したカッフ部長刑事は推理していた。

 ロザンナはフランクリンが犯人であると考えたが、彼への思いからナイトガウンを隠し通そうとしたと手紙は語っていた。ヴェリンダー家の執事であるベタレッジとともに彼女の残した手紙を読んでいたフランクリンの前に、エズラ・ジェニングズという名前の異様な風体の男があらわれて、彼らの作業を中断させる。彼はヴェリンダー家のかかりつけの医師で、病気のために仕事ができなくなってしまったキャンディーの助手である。

 ジェニングズが去った後、フランクリンはロンドンに戻って事務弁護士のブラッフにこれまでの経緯を話して助言を仰ぐこと、レイチェルに直接会うことを決心する。手紙の後半には事件の捜査が進む中でロザンナがどのようにナイトガウンを隠したかが記されている。その一方彼女はベタレッジの娘でレイチェルの小間使いをしているペネロープから、レイチェルが捜査とフランクリンに腹を立てて、邸を出ようとしていること、レイチェルはフランクリンに腹を立てているけれども、フランクリンのレイチェルに対する愛情は変わらないだろうということなどをきかされる。彼女は自分の前歴を知っていて、自分に対してはその様子を見せないカッフの態度から自分が疑われていることを知り、まだ自由に行動できる間にナイトガウンを隠そうと企てたのである。

 フランクリンはロザンナが自分に話しかけようとした時に、それを無視したことを後悔する。ロンドンに戻るために停車場へ向かう途中、彼はベタレッジに2つの質問をする。<月長石>がなくなった夜に、酔っ払ったかという問いに対して、ベタレッジは眠れないという彼にブランデーを飲ませたが、水で割ったので酔うことはなかったと答える(フランクリンはもともとあまり酒を飲まないのである)。それから夢遊病のような癖はなかったかと尋ねるが、それはなかったといわれる。ベタレッジはフランクリンが宝石を盗んだことを認めるにしても、その後起きた出来事は別のことを示しているのではないかと示唆する。そしてブラッフと相談すればよい解決策が生まれるだろうと助言する。停車場で、フランクリンは偶然、またもやエズラ・ジェニングズを見かけ、挨拶を受ける。

 ロンドンに到着した彼は、ハムステッドにあるブラッフの私邸を訪問する(事務所にはいない時間だったのである)。ナイトガウンを点検し、ロザンナの手紙を読んだブラッフはレイチェルがフランクリンを犯人だと信じたことが、彼に対する態度の変化の理由だと知る。もともとレイチェルが証言を拒否していることが事件の捜査を難航させてきた原因であった。ブラッフは何とかレイチェルの口を開かせることが真相解明にとって重要だと考える。ヴェリンダー邸に滞在中、フランクリンは彼から借金を取り立てようとするフランス人の弁護士の訪問を受け、騒ぎを起こしたことがあった。このことで彼はヴェリンダー卿夫人とレイチェルの信頼を失墜させてしまったのである。

 フランクリンは何としてもレイチェルに会って事件について彼女が知っていることを尋ねようとする。あまりに乱暴な提案であるといったんは反対したブラッフであるが、レイチェルがまだフランクリンへの愛情を心のどこかに残していると判断しているために、やってみる価値があると承諾する。一時期、ブラッフのもとで生活していたレイチェルは、現在は叔母であるメリデュー夫人のもとで生活しているが、ブラッフの夫人と娘が招待すれば彼の家にやってくるはずであるとブラッフはいう。その際にフランクリンが予告なしに彼女に近づけばよいというのである。

 レイチェルと会うまでの時間をフランクリンはじりじりしながら過ごす。ベタレッジからの手紙が届き、どういうわけかエズラ・ジェニングズがその後やってきて、フランクリンと話ができなかったのが残念であると記されていた。手筈が整って、フランクリンはブラッフの邸に出かける。レイチェルが一人で引いているピアノの音が聞こえる。そのさびしい音色は彼女の心情を表しているように聞こえた。フランクリンは扉を開ける。

 この作品について恋人同士が誤解がもとで離れてしまうという感傷的なドラマだという評価もあるが、レイチェルは片意地でわがまま、フランクリンは軽率で奇矯なところがあり、読者としては感情移入しにくい性格設定になっている(その分、現実にこういうカップルは存在しそうだと納得してしまうところがある――とくに現代においては)。そしてこの2人の性格が事件の捜査の進展を妨げてきたことも確かであって、そこにコリンズの構成の巧みさを認めることができる。フランクリンとレイチェルは和解できるのか、それとも離れたまま物語は終わるのか、<月長石>のゆくえと、誰がこの宝石を盗んだかの謎とともに物語をめぐる興味の対象となっている。
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