椎名誠『人はなぜ恋に破れて北へいくのか ナマコのからえばり』

2月27日(木)雨

 昨日、椎名誠『人はなぜ恋に破れて北へいくのか ナマコのからえばり』(集英社文庫)を読む。『サンデー毎日』に連載された文章をまとめて、2010年12月に毎日新聞社から発行されたエッセー集を文庫化したものである。椎名さんの本をわたしはかなり多く読んできたが、その理由の1つは著者と私とがずいぶん違った人生を歩んできた、自分がしたくてもできなかったような人生を歩んできたように思えてある種の解放感を味わうことができるということであるのだが、今回、読んでいて変に共通するところを見つけたのはどういうことであろうか。

 巻頭の「隣席の問題」は「列車や飛行機などの指定席で、隣に誰も座らない時というの、なんか嬉しいよね」(13ページ)と書き出されている。私は列車の指定席には乗らないたちであるが、飛行機の場合はたしかに同意見。映画館も隣がいない方が気楽である(隣に誰も座らないように席をとってくれる映画館の人も多い)。隣の席に有名人が座ることがあるということで中島誠之助さんと森進一さんが隣り合わせた経験が書かれていて、なるほどと思ったり、あれっと思ったりする。ベッドから落ちたことはあるが、「ベッド連続墜落」はない。こちらの方が上手でなくてよかったと思う。

 旅と日常生活の経験の他に、面白く読んだ本の内容が紹介されているエッセーもあり、その組み合わせがなかなかよくできている。ご本人が計算していろいろな本を読んでいるわけではないところが凄い。筒井康隆さんの初期短編「おれに関する噂」と同じような話が、ウディ・アレンの映画『ローマでアモーレ』の中のエピソードとして出てきたなと思う。これは偶然の一致であろう。

 椎名さんは次第次第に旅、特に海外の旅から遠ざかり、自宅に引きこもって原稿を書く生活に親しむようになっているらしいが、それでも経験と思いでは豊富だから「逃亡するならどの国か」というテーマでいろいろな国について論じることができる。こちらが出かけたことがない国の話題が多いので、おもしろがって読んでいくだけだが、逃亡の理由によって行き先も変わるのではないかという気がする。それでも「ポルトガルは日本人の気性でも十分住める『ほどよい緩さ』と演歌的な都市感覚のある国で、海産物の好みなど日本と変わらない。夜11時に開店する酒場には日本のようなガキ文化にはない港町の本当の『大人の男や女』がいる」(113ページ)という推薦理由はなかなかよく書けている(この後さらにブエノスアイレスの方がいいという理由が述べられる)。

 黒沢明の名作映画『七人の侍』で悪役にされている野盗たちの側からの描写をしなかったはおかしいという議論には作家としての眼が光っている。「電子書籍と秘密新聞」は同人雑誌、業界誌、ミニコミ、マスコミの「仕事」を渡りあるいた椎名さん独自の出版をめぐる観察と見通しが語られる。「ドーナツ化する田舎度」は文明批評として面白い。椎名さんは福井県の勝山左義長祭が気に入っていて、仲間とバスをチャーターして見に出かけるほどである。人生の中で何回か福井県の人や出来事に遭遇したが、そういう出会いはなかったなとちょっと残念に思う。

 そういうわけで自分の経験と対比したり、想像力に訴えたりしながら賛同したり、反発したりしながら読むことができる。お互いの老いを確認しながらも、ずっとこの著者の行動と思考の展開と集積を追いかけていきたいと思う。
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