アメリカの影

2月7日(金)晴れ

 渋谷のユーロスペースで「映画祭 チェコアニメのすべて」のなかからイジー・トルンカ監督の『チェコの古代伝説』(1952)、その後オーディトリウム渋谷で「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ」特集上映から『アメリカの影』(Shadows,1959)を見た。特集上映の最終日になって1作品だけを見たというフットワークの悪さは自慢できるものではないが、それぞれ映画史上記念すべき作品を見たことで多少の補いにはなるだろう。前者は人形アニメの巨匠トルンカがチェコの建国に関わる伝説を描いた大作で、戦乱をさけて平和な土地に移り住んだ人々がであうさまざまな出来事が描かれている。人形たちの見せる多彩な表情が強い印象を残した反面で、物語になじみがなく、説明が中途半端で(チェコ人にはわかっていることだから省いたということだろうが)どうもわかりにくさが残った。

 ジョン・カサヴェテスの監督作品を見るのは実はこれが初めてである。俳優としての彼はポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』のローズマリーの夫役とか、親友であったピーター・フォークの人気シリーズ『刑事コロンボ』の犯人役とか、何度か見かけてきた。彼がニューヨークを中心として独立系の映画作家として活動してきたという知識は持っていたが、やっとその作品を見ることができたということである。

 『アメリカの影』はマンハッタンに暮らす3人兄弟の日常を中心にその周辺の出来事を即興的な演出で描き出している。あらかじめ決められた筋書きなしに映画がつくられたというが、どの程度信じていいのかは分からない。長兄はあまり売れない歌手で仕事のために地方に出かけたり、気の進まない司会の仕事までさせられたりしている。次兄は長兄に金をせびってはその金でビールを飲んだり、女性を追いかけたりしてその日暮らしを続けている。末の妹は20歳になったばかりで画家を自称しているが、小説も書いているらしく、要するに芸術家気取りである。問題はこの3人の兄弟の父親と母親は姿を見せないけれども、どちらかが白人でどちらかが黒人だということである。長兄は色が黒く、あとの2人は白い。そのため周辺の人々との人間関係は微妙である。

 物語のなかで末の妹が白人の青年と仲がよくなり、彼女が遠まわしに深入りを避けようとしているのに青年が気づかず、一夜を過ごした後でやっと事態に気付き、騒ぎが起きる。長兄だけが事件を収拾しようとして、次兄を遠ざけるのだが、それを彼は面白く思わない。結局次兄も役割を果たすことになる。が、問題が解決したかどうかは疑問である。長兄は仕事のためシカゴに旅立ち、次兄は女性の取り合いをきっかけとする乱闘で傷ついて自分の生活を変えようとする。だが、彼らが直面する現実は厳しいままであろう。

 おそらくは映画の大部分がロケーションで撮影され、演出は即興的、若者たちの生活が現実に近い形で再現されている。ハッピー・エンドにも、悲劇的な幕切れにもならず、結末はいわば保留された形になる。映画の主題においても手法においても、その後の新しい映画の方向を開いた作品である。と同時に、やや控えめな形でではあるが、人種問題についても観客の目を向けさせようとしている点も注目される。オーディトリウム渋谷での上映は7日で終わりになるが、機会を見てカサヴェテスの作品を追いかけてみていこうと思う。
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