小林一郎『「ガード下」の誕生――鉄道と都市の近代史』

2月1日(土)曇り

 1月31日、小林一郎『「ガード下」の誕生――鉄道と都市の近代史』(祥伝社新書、2012)を読む。「ガード下」の生成・変化を手掛かりに鉄道と都市の歴史をたどろうとする書物である。発想も内容もおもしろいが、日本中の「ガード下」を網羅的に取り上げているわけではなく、著者の取材が及んでいないところもあるので、今後の探究の発展を期待したい。そういう期待を込めて内容の紹介と批評を書いていくつもりである。

 「ガード下というと、思い浮かべるのが、赤提灯。店の前の通路にまでテーブルや椅子をせり出すのがガード下流儀で、なんとも食欲をそそる焼き鳥の香りと煙が漂う。ビールケースを逆さにした椅子に寄り添い詰め合って、電車の騒音のなかで、弾んだ声があたりを埋め尽くす――」(10ページ)とこの書物は書きだされている。このような「ガード下」という魅力的な空間は、いつごろ、どのような理由で生まれたのであろうか。

 我が国におけるガード下は、明治から大正にかけて誕生したのだが、それが店舗(飲食、物販)、事務所、住宅、倉庫、駐輪・駐車場などに利用されるようになった経緯については複雑であり、わからないことも多いのが本当のところである。著者の小林さんは建築関係の雑誌編集に携わってきた方で、建築関連の知識を生かしながら「ガード下」の形成についてわかっていることをまとめている。

 著者は「ガード下」を「戦前に誕生したガード下」、「高度経済成長期に誕生したガード下」、「現在進行中のガード下」と歴史的に分類し、まず第1のカテゴリーに属するものを「生命力あふれるウラ町・ガード下」と特徴づけてJR鶴見線国道駅、JR山手線などの新橋駅~有楽町駅、旧万世橋駅、JR山手線などの上野駅~御徒町駅、JR総武線秋葉原駅、JR山手線などの御徒町駅~秋葉原駅、JR総武線浅草橋駅、JR総武線両国駅、京成本線・JR常磐線日暮里駅、JR阪和線美章園駅、JR神戸線元町駅~神戸駅、阪神本線御影駅の駅下、周辺を実地に探査しながらその歴史と現状を描き出している。この部分が書物の約半分を占め、美章園駅ガード下にはミヤコ蝶々が暮らしていた時期があるなどの興味深いエピソードが満載されている。

 「高度経済成長に誕生したガード下」として取り上げられているのは東京メトロ千代田線綾瀬駅(地下鉄の「ガード下」というのは奇妙である)、JR中央線吉祥寺駅の2例であり、どうも少なすぎる。もう少し他の例を探してきてほしかったというのが正直なところである。「新時代に挑むガード下」としてはJR京浜東北線赤羽駅、小田急経堂駅~祖師ヶ谷大蔵駅、JR京葉線舞浜駅、京浜急行線日ノ出町駅~黄金町駅における試みが取り上げられており、ホテル・保育園などへの利用が進められているという。

 「ガード下」を歴史的に3つに分類しているが、その3つについての記述のバランスが悪いの気になる。全体としてJRの駅周辺の「ガード下」に取材が集中しており、もう少し私鉄の事例も拾い上げた方がよかったのではないかという気がする。東急東横線のガード下など変化が激しく、また系列のスーパーが入っていたりするので面白くないと思ったのかもしれないが、沿線に勤務していた経験のあるものとしては1例くらい取り上げてくれてもよかったと思う。それから新橋駅のガード下の新橋文化・ロマンという映画館について取り上げてほしかったというのもつけ加えておこう。わたしの年代だと宮城まり子さんの「ガード下の靴みがき」という歌を思い出すのだが、小林さんはこの歌を知らない世代のようである。

 さらに言うと、この書物では首都圏と阪神地方だけに取材が限定されているが、他の都市ではどうなのか、それぞれの都市をめぐる鉄道の事情、地下鉄網や路面電車網の発展なども視野に入れてさらなる考察を望みたいと思う。繰り返しになるが、興味深い記事が満載されているけれども、さらなる取材によってこれ以上に興味深い多くの記事を探すことができるはずである。
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