ウィルキー・コリンズ『月長石』(24)

1月27日(月)晴れ後曇り

 悪名高い軍人であったハーンカスル大佐が英国にもたらした黄色のダイヤモンド<月長石>は、彼の遺言で姪に当たるレイチェル・ヴェリンダーに贈られたが、その18歳の誕生祝いのパーティーが開かれた翌朝に紛失していた。レイチェルのもとに宝石を届けたのは彼女の従兄で求婚者でもあるフランクリン・ブレークであり、彼は宝石のゆくえに重大な関心を払って、ロンドンからカッフ部長刑事を読んで捜索に当たらせる。しかし彼の推理は事件前後のレイチェルの行動に疑いを投げかけるものであった。カッフの推理に傷ついたレイチェルは(それだけの理由ではなさそうであるが)フランクリンに対する態度を一変させる。ロンドンに移ったレイチェルは、もう1人の従兄であり求婚者のゴドフリー・エーブルホワイトといったん婚約し、その後婚約を解消する。ゴドフリーの行動の背景に金銭目的の動機が見え透いているという一家の顧問弁護士ブラッフの助言に従ってのことである。ゴドフリーには紛失の直後にロンドンに怪しいインド人に襲われるなど、奇怪な事件と噂が付きまとっている。

 事件の第4の証人として現れるのは、これまでのさまざまな証言のなかでも大きく取り上げられてきたフランクリンである。この物語は、事件が終わった後に彼の提案で関係者による証言がまとめられたという体裁をとっており、事件に対するフランクリンを中心とする関係者たちの弁明としての性格を持っている。彼の登場によって物語はいよいよ事件の真相の解明に近づくことになる(はずである)。

 レイチェルの態度の変化により傷ついた心を抱いてフランクリンは東洋に旅立つ。翌年の春に彼は旅行先で父親が死んだという知らせを受け取り、急きょ帰国する。物語の最初に展開されたヴェリンダー家の執事ベタレッジの寄稿からフランクリンの父親が莫大な財産の持主であり、ある公爵家の爵位の正当な継承者であることを主張しながらその主張を認められなかったため、その復讐として跡取り息子を海外で教育させたということが語られていた。フランクリンは金銭的にだらしなく、移り気ではあるが、心が広く、召使に対して差別意識を持たないので、ヴェリンダー家の召使のほとんど全員から親しまれている。

 帰国した彼はレイチェルに対する思慕の念が相変わらず続いていることに気づかされる。彼はレイチェルとゴドフリーがいったん婚約し、その後婚約を破棄したことで安心する。ブラッフからレイチェルが父親(故人である)の妹のメリデュー夫人のもとで暮らしている(母であるヴェリンダー夫人は事件後ロンドンで死んだのである)ことを知らされる。フランクリンはレイチェルを訪問するが、彼女が自分との面会を望んでいないことを知り、彼女の不可解な言動の原因を探るために、あらためて月長石の事件の真相を解明しようと決意する。

 フランクリンはすぐに汽車に乗ってヨークシャーに向かう。ヴェリンダー邸でベタレッジに会い、事件についての捜査を再開しようというのである。フランクリンとレイチェルのあいだが修復されないままであることを知ってベタレッジは残念がり、邸に止まることを勧めるが、フランクリンは別に宿をとることにする。フランクリンは月長石についての捜索を再開すると告げるが、ベタレッジは英国一の名刑事であるといわれたカッフ部長刑事でさえ失敗した捜索が彼によって成功するとは思えないという。カッフは今や引退してバラ作りに専念しているとベタレッジは告げる。彼から月長石の事件の後に邸の使用人で前科があり、カッフによって疑われていただけでなく、事件後自殺したロザンナ・スピアマンがフランクリン宛に手紙を残していることを聞いたフランクリンはまずその手紙を手に入れようとする。

 この作品のなかで事件の解明を妨げている問題の一つが、「階級」である。事件の謎が深まった理由の1つは、カッフが「紳士」ではなく、したがって地主の娘であるレイチェルに対して徹底した調査を行えなかったからである。「紳士」であるフランクリンが自分で捜索をやり直そうと考えて、事件は別の新たな展開を始めることになる。なお、『月長石』で描かれた事件には実在のモデルがあって、その事件の捜索がまさに「階級」的な理由によって難航したことが指摘されている。この件については、機会を見つけて詳しく論じてみたいと思う。

 フランクリンは「階級」的な偏見があまりない人物として描かれているが、これはコリンズ自身の考えの反映であろう。しかし、「階級」よりも個人の性格や素質を重視する考え方は当時としてはまだ孤立しがちであったことにも留意していく必要があるだろう。次回ではロザンナの手紙の中味に触れることになるが、彼女が目撃した事件の一端と事件を複雑なものにしている「階級」の問題がこの手紙によって明らかになる。
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