マーティン・ウォーカー『緋色の十字章』

12月21日(土)晴れ

 12月20日、マーティン・ウォーカー『緋色の十字章』(Bruno, the Chief of Police,2008)(創元推理文庫)を読み終える。フランス南西部の小村サンドニの警察署長ブルーノの活躍を描くシリーズの第1作。12月18日に取り上げた同じ作者による『黒いダイヤモンド』は3作目にあたるそうである。フランスを舞台としているが、作者であるウォーカーは英国人で英紙ガーディアンの記者を25年にわたって務めていたという。

名物はフォアグラ、トリュフ、クルミ。人口約3000人というサンドニで、のどかな村を揺るがす大事件が起きる。2つの戦争でフランス国家のために戦い、戦功十字章を授与された英雄であるマグレブ人の老人が殺害されたのである。彼は腹部を裂かれ、胸にナチスの鉤十字を刻まれていた。村の警察署長であるブルーノは、村の人々の助けを得て捜査を始める。

  人種差別に基づく犯罪と考えられたこの事件を捜査するために国家警察がジャン=ジャック・リボ―、通称J=Jを送り込んでくる。ブルーノは事件の捜査から外されるが、村の平和を守るために独自の捜査を続ける。捜査線上に上がったのは村の医師の息子とそのガールフレンドで、ガールフレンドは麻薬を所持していた。事件を担当する予審判事は野心家で、この事件の立件によって脚光を浴びることを望んでいる。ブルーノはJ=Jの助手であるイザベルの協力を受けながら、事件の真相を明らかにしようとする。老人の息子と孫はこの村に溶け込んで生活していたのに、彼らとは離れて生活していた老人は、村に移り住んでからも一家とは距離をおいて住まいを構えていた。

 村の生活はフランスの田園部の縮図であるようで、古い歴史を宿している。村の人々は古くからの生活を変えようとせず、中央政府からのさまざまな干渉には反抗的な態度をとり続けている。しかし、グローバルな変化はこの村にも押し寄せている。人種差別主義者のデモがこの村でも吹き荒れる。マグレブ人の存在には、フランスがこの地域を支配した過去が絡まる。そうかと思うと殺された老人にはサッカーの選手であった過去があり、かつてフランスが国民統合のためにサッカーを利用したことが明らかにされたりする。ブルーノは学者の論文を読んでその歴史について知る:「最初の2ページに書かれているのは、マルセイユの北アフリカ人の生活およびスポーツによる人種の統合について過去の学者たちがどんなことを述べてきたかだった。3度読み返して、やっと理解できたように思った。要するに、統合は異なる少数民族グループのチームがたがいにプレイするときに生まれるのであって、同じ民族内でプレイしているだけでは生まれないってことか。ならば筋が通ってる。だったらなぜストレートにそう言わない?」(257ページ)。ブルーノが行動派であることを示す感想である。

 ブルーノはイザベルと親密になる一方で、村に住みついた英国人のパメラと、休暇でやってきたその友達のクリスティーンともテニスを楽しんだりする。ブルーノが2人と食事する際のメニューが英仏の料理の比較考察になっていて面白い(253ページをご覧ください)。事件は思いがけない展開を遂げる・・・とだけ書いておこう。そしてさらにシリーズは続く。第2作The Dark Vineyard(2009)は『葡萄色の死』という題名で創元推理文庫に入っており、これも入手している。第4作もいずれ翻訳が出版されると思われるので、楽しみに待つとしよう。

 翻訳者である山田久美子さんはマグレブ人よりも北アフリカのアラブ人という言い方を多く使っている。マグレブは北アフリカの西の方の地域を指して言い、同じ北アフリカでもエジプトやリビアは含まれない。フランスが植民地支配していたのは西のほうであることと、私がロンドンにあるマグレブ書店という本屋によく出かけたことでこの呼び方に愛着があるので、マグレブという言い方を使っていることを注記しておく。 
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