ロバート・ファン・ヒューリック『紅楼の悪夢』

1月8日(火)

 ロバート・ファン・ヒューリック『紅楼の悪夢』を読み終える。

 ヒューリックの判事ディー(狄仁傑)を主人公とするミステリ・シリーズに興味をもったのは、昨年5月に映画『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪事件』を見てからであるからそれほど古い話ではない。この映画は一部で高く評価されたが、正直、それほど感心しなかった。それでも、オランダの外交官で東洋学者であった作者が中国を舞台として書いた小説の登場人物が中国人による映画の中で取り上げられたことには興味をもった。ヒューリックは日本にも赴任したことがあるが、中国の方が気に入っていたようである。

 狄仁傑(630-700)は実在の人物であり、則天武后(中国では武則天というようである)に諌言をしたことで知られる硬骨漢であった。だからヒューリックの小説がなくても、中国の映画でヒーローとして取り上げられる可能性はあるのである。また映画は、ヒューリックの原作に基づくものではなく、彼の小説の設定を延長して作られたものであったが、とにかく小説を読んでみようという気を起こしたのである。

 それで読んだのがハヤカワ・ミステリ所収の『東方の黄金』であり、以下同じシリーズの中から『江南の鐘』、『寅申の刻』(中編集)、『紫雲の怪』、『螺鈿の四季』、『水底の妖』、『沙蘭の迷路』、『白夫人の幻』と読んできて、これが9冊目で、どうやらこのシリーズの過半数の作品に達したことになる。

 酒場、賭場、娼館が集まる歓楽地の楽園島。部下の馬栄とともに都への出張旅行の帰途この地を訪れたディー判事が宿泊することになった部屋は、かつて自殺が相次いだ不吉な一室、紅色で室内を統一した通称・紅堂楼であった。突如美女が闖入したり、悪夢にうなされたり、判事の周辺で奇怪な事件が起きる。悪友の羅知事(この時代の中国では知事は判事を兼ねていた)から代理を頼まれたディーは事件の真相の解明に尽力する。

 シリーズ全体を通じて謎解きよりも、作品の中で描き出されている雰囲気の方に魅力を感じている。中国の公案小説が素材となっているというが、ヨーロッパの眼を通して描かれた中国の伝統社会の姿は歴史的な実際からは遠いのかもしれない。それでも登場人物の飲食の場面など生き生きとしていて、おいしい中国料理店を見つけるのが巧みだったという作者の特徴が生きている。なお、ヒューリックは日本の花柳界にも通じたプレイボーイでもあったという。中国の伝統的な社会にノスタルジックな愛着を寄せるように見せて、実は批判的な目が向けられていたりもする。それでもこのシリーズを読んで中国が嫌いになるという人はいないだろう。

 この作品で登場するディーの部下は女と酒に目がない馬栄だけであるが、シリーズにはもともとディーのじいやであった洪亮、謎を抱えた元軍人の喬泰、いかさま師あがりの陶侃という面々が登場する。旅行中の事件という設定はこのシリーズに時々見られるものであるが、馬栄の働きだけで事件の解決に至るということで、その性格も推測できるわけである。

 
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