二等車の運命

1月4日(金) 二等車の運命 

 アガサ・クリスティの『殺人は容易だ』の主人公ルーク・フィッツ・ウィリアムがたまたま一等車のなかで乗り合わせた老婦人は「二等車が廃止されたのが残念ですわ」と言い、普段は三等車に乗っているのだが、今回は重要な用件でロンドンに出かけるので一等車を利用するのだという。この老婦人がロンドンで「事故死」することから物語が展開する。
 19世紀以来、英国では客車に一等車、二等車、三等車の区別が設けられ、一般に社会階層に対応するものと受け取られていた。それが二等車が廃止されたことにより、それまで二等車を利用した人々の間に混乱が起きたようである。そういえば、推理小説に二等車が登場する例をあまり見ない。私の知識が限られているだけなのかもしれないが、どうもそういう印象がある。
 この印象は『シャーロック・ホームズ』から受けたのかもしれない。ホームズには鉄道が盛んに登場するが、利用した客車の等級が示されている例を拾ってみると、「<シルヴァー・ブレーズ)号の失踪」で、ホームズとワトスンはエクセター行きの列車の一等車に乗る。「株式仲買店員」でも依頼人とともにバーミンガム行きの列車の一等車におさまる。「最後の事件」でもホームズは大陸連絡急行の一等車を予約している。モリアーティーは2人の上を行って臨時列車を仕立てて追いかけてくる。(そういえばドイルには「消えた臨時列車」という短編小説がある。)二人はカンタベリーで降りてモリアーティーをやり過ごす。現在のカンタベリーには東駅と西駅とがあるが、当時は駅は1つだったらしい。「ブルース・パーティントン設計書」で事故死するウリッジ工廠の職員キャドガン・ウェストは駅で三等の切符を買っている。「引退した絵の具屋」でワトスンは吝嗇漢の絵の具屋と地方に出かけるが、彼は三等で行くと言ってきかない。最後の例では二等を利用した可能性もないわけではないが、ホームズとワトスンは通常、一等を利用しているようである。これに対して三等車を利用するのは二人以外の人物である。二等車という言葉すら使われていない。
 クリスティは作品の数が多いので、また機会を改めて(時間をかけて)考察してみたいが、やはり一等車を利用する例が多いような気がしている。この客車の等級の問題は推理小説の社会的な性格を考える上で面白い手がかりになりそうである。
 なお、ホームズ物について、翻訳を厳密に選んでいないという手抜きをご容赦いただきたい。
 
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