山田篤美『真珠の世界史』

11月7日(木)午前中雨、その後曇り

 山田篤美『真珠の世界史』(中公新書)を読み終える。この著者の『黄金郷(エルドラド)伝説』(中公新書、2008)を読んでいる。この書物の「あとがき」で著者は「本書『真珠の世界史』は、前著『黄金郷伝説』を書いたときからあたためていたテーマだった。『黄金郷伝説』は、南米のテーブルマウンテンをめぐる「探検帝国主義」がテーマであるが、私はそのなかでコロンブスによる南米の真珠の発見とその後の真珠の狂騒についても議論した。そのさい、南米の真珠の歴史的意義は、オリエントに変わる真珠の産地の発見ではないかと思うようになった」(283ページ)と書いている。なるほど、こういうつながり方もあるのか、というのが正直なところである。こちらはもう少し大雑把に、金と真珠、貴金属と宝石というつながりを考えていた。

 11章からなるこの書物は多くの内容を盛り込んでいる。第1章から第6章は天然真珠時代、第7章以降は養殖真珠時代の、それも日本と海外における真珠と自然環境、社会・文化とのかかわりをたどっている。何冊か本が書ける内容を無理やり1冊にまとめたという感じである。

 第1章「天然真珠の世界」ではアコヤガイとそれ以外の貝からどのようにして真珠がどのようにできるかを中心に、jその大きさや丸真珠ができる割合はどのようなものかなど、天然真珠について概観している。第2章「古代日本の真珠ミステリー」は日本の古代史のなかでの真珠の役割を考察している。

 第3章から第6章までは、ヨーロッパ人がどのようにオリエントや新大陸の真珠に憧れたのかをたどっている。第3章「真珠は最高の宝石だった」ではギルガメシュ叙事詩からマルコ・ポーロに至る真珠の歴史についてオリエントに軸足を置きながら概観している。クレオパトラの真珠のエピソードなど、よく知られている話もあるが、このエピソードを伝えているのがプリニウスであるというのは初めて知った(ただし、ここは大プリニウスと書いたほうが分かりやすいのではないか)。『アラビアン・ナイト』には真珠のエピソードがかなりあるのだが、その点について触れられていないのは残念に思われる。

 第4章「大航海時代の真珠狂騒曲」は新大陸とインドへの航路の発見と真珠をめぐるスペイン、ポルトガル、その他の国々の争いをたどり、ダイヤモンドと真珠が二大宝石であった時代があったという。第5章「イギリスが支配した真珠の産地」は19世紀に入って真珠の産地をイギリスが支配するようになったこと、さらにアメリカ、オーストラリアにおける動きについても触れている。第6章「二十世紀はじめの真珠バブル」では19世紀の終わりから20世紀の初めにかけてのベル・エポック期の真珠の価格が高騰したことを中心に述べている。

 このような真珠の地位に変化をもたらしたのは日本における真珠養殖の発展であった。第7章「日本の真珠養殖の始まり」では御木本幸吉や見世辰平という真珠養殖業者たちの取り組みに焦点を当て、第8章「養殖真珠への欧米の反発」では養殖真珠の品質が素晴らしかったため(価格の下落を恐れたこともあり)起きた欧米における反発を、第9章「世界を制覇した日本の真珠」では、日本の養殖真珠が世界を席巻するようになったことを記している。

 しかし、第10章「真珠のグローバル時代」では、日本以外の諸国における養殖の発展により日本の地位が低下したこと、第11章「真珠のエコロジー」では海洋汚染により真珠の養殖業が危機に直面していることが述べられている。

 あまり興味のないところはごく簡単にしか紹介しなかったが、面白い部分は夢中になって読むことができた。『黄金郷伝説』で新大陸の発見者を詐称した「アメリゴ・ヴェスプッチには詐欺師、ペテン師という言葉が何世紀にもわたって浴びせられた。正義と公正を標榜するアメリカ合衆国のアメリカとは、人の栄誉を奪おうとした社会的不正を行った人物の名前なのである」(『黄金郷伝説』22ページ)と書いているのに、この本では「この地が新大陸だと気づいたのは、1502~04ごろのアメリゴ・ヴェスプッチだった」(79ページ)と書き方があっさりしているのどういうことだろうか。個人的な興味からはベル・エポック時代における帝国主義とファッションというようなテーマに絞ってまとめていただければもっと面白かっただろうと思う。そうはいっても、日本における真珠の養殖の開発を御木本幸吉1人の功績に帰せず、見世辰平や西川藤吉らの他の功労者たちに焦点を当てている点はやはり評価すべきであろうと思う。
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