ウィルキー・コリンズ『月長石』(14)

11月5日(火)

 今日は英国ではガイフォークスデイGuy Fawkes Day (ガイフォークス捕縛記念日)の行事が行われる。1605年に国会を爆破してジェームズ1世と議員たちを殺害しようとした陰謀事件(火薬陰謀事件Gunpowder Plotという)の主犯であるガイ・フォークスという人物が捕まった日であり、昔は彼の奇怪な像をつくり、町をひきまわし夜になると焼き捨てたのであるが、現在ではかがり火をたいたり、花火を打ち上げたりすることが習わしとなっている。この行事には子どものお祭りという意味合いがあって、シーラ・ディレーニーの戯曲で、トニー・リチャードソン監督により映画化された『蜜の味』(Taste of Honey)の幕切れの場面がガイフォークスデイを背景としていたのを、この映画におけるリタ・トゥシンハムの演技とともに思い出す。英国ではガイフォークスデイが盛んになったためにハロウィーンがあまり祝われなくなったといわれてきたが、最近ではハロウィーンも勢いを盛り返してきたという話も聞く。地方によっても違うかもしれない。この時期に英国に滞在したこともあるが、ロンドンの街中では経験したことがない。(なお、『蜜の味』の舞台はマンチェスターである。)

 さて、『月長石』について、また間が空いてしまったが、書き続けることにしよう。ヨークシャーのヴェリンダー家の令嬢レイチェルの誕生祝いに贈られたインド起源のダイヤモンドが、彼女の誕生日の翌朝に行方不明になる。地元警察の捜索に不信をもったレイチェルの従兄で求婚者のフランクリンはダイヤモンドを運んだ人物でもあるが、ロンドンから敏腕で知られるカッフ部長刑事を招く。彼は邸の下働きの女中で前科のあるロザンナ・スピアマンが邸の誰かの指示を受けて事件を起こしたのではないかと推理する。その一方でロザンナはフランクリンに思いを寄せているらしい。捜査のなかでロザンナが行方不明になり、行方を追った結果自殺した疑いが強くなる。カッフの捜索に全く協力しないままレイチェルは邸を去って伯母のもとに赴き、ヴェリンダー夫人はカッフを解雇しようとする。

 いったんは激しい言葉を口にして、カッフを解雇するといったヴェリンダー夫人であるが、落ち着きを取り戻して(物語の第1の語り手である執事のベタレッジを同席させて)カッフと再び話し合う。ヴェリンダー夫人が前言を詫びたことを受けて、カッフはロザンナ・スピアマンが自殺したことは彼の捜査とは関係がないという(フランクリンから冷たいことばをかけられたためであるというのである)。しかし、彼女はダイヤモンドについて何かを知っており、おそらくはレイチェルのためにダイヤモンドを盗み出したのだという彼の推理を述べる。

 「ここ二十年間というもの、わたしは主として家庭の内輪問題に、秘密調査係として働いていまいりました。今わたしが手がけています事件と、何らかの類似点をもった事件に立ち入った調査をしてただ一つわかりましたことは、・・・上流階級の若いご婦人方は、ときには、親しい親戚や友人にも打ち明けたくない、内密の借財があるものだということです。・・・」(中村能三訳、271ページ) それだけでなく宝石紛失後のレイチェルの興奮した態度は彼女への疑いを抱かせるものであるという。ダイヤモンドの紛失は、レイチェルが秘密の借財を返すためにどこかに質入れされたのではないかと彼は述べる。ヴェリンダー夫人はそんなことはないとはねつける。しかしレイチェルが捜査への協力を拒んでいるのは自分の推理の何よりの証拠であるとカッフは続ける。

 カッフはロザンナ・スピアマンの挙動に不審を抱いたこと、彼女が更生する以前に際立って腕のいい泥棒であり、「ロンドンでも数少ない人間の一人(金貸しを業としている)関係があったはずです」(278-9ページ)という。そして自分の推理を裏付けるために①レイチェルを監視すること、②ロザンナの代わりに内偵役の使用人を邸に入れること、③ロザンナと関係のあった金貸しのところにカッフの同僚を派遣することを提案するが、ヴェリンダー夫人に拒否される。それで彼はレイチェルにロザンナが死んだことを不意を突いて告げれば、彼女の性格から考えて本当のことを言うのではないかと提案し、ヴェリンダー夫人は承諾する。そして自分でレイチェルにあって話をすると言って、辞去しようとするカッフに屋敷に留まっているように言い、娘のもとに馬車を走らせる。

 ここまでの経緯で注目すべきなのは、カッフがレイチェルの性格を嘘つきだと判断しているのに対して、ベタレッジは嘘をつかない性格だと考えていることである。この点についてベタレッジがヴェリンダー夫人の発言を支持するようなことを言わず、他にもあまり発言していないのは、彼が執事としての職分をわきまえているからだと自分では語っているが、話してもいいことがあったはずである。このブログでは書き落としてしまったが、レイチェルの誕生日の前の6月16日にフランクリンのもとに外国なまりの英語を話す来客があったことをベタレッジはカッフに話をしていない。借金を抱えているということからいうと、レイチェルよりもフランクリンの方を疑ってよいのではないかとも思われるが、この点でベタレッジは沈黙を守っている。レイチェルがフランクリンに対する態度を変えたこと、捜査に非協力的なことは、彼女が何かを隠していることを示すが、その何かはわからないままである。
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