ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』

10月28日(月)晴れ

 10月27日、ダン・アリエリー『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ハヤカワ文庫ノンフィクション)を読み終える。9月下旬に買ってから、約1カ月をかけたことになる。不勉強で行動経済学という学問領域があることすらこれまで知らずにきたが、経済行動について心理学的な実験を通じて分析を行うという領域らしい。分析の結果は従来の常識を覆すような結論を導くことが少なくないというが、その一方で、言われてみると確かにそうかもしれないと思うような発見に満ちている。

 伝統的な経済学では、人々は非常に合理的で、完全な情報と計算能力をもって常に自分の満足度を最大にするように行動すると考えられてきた。ところが現実の人間は、情報を十分に利用しなかったり、冷静な計算ができなかったりして、合理的ではなく直感的な意思決定をすることが多い。また、一度決めたことを先延ばししたり、誘惑に負けてしまったりしがちである。行動経済学とは、こうした現実の人間の行動特性を前提とした経済学である。著者はこの書物の目標は「わたしたちがみんなどんなふうに不合理かを追求しようというのがこの本の目的だ」(20ページ)と述べている。では、実際にどのように不合理な行動を起こしているのか。

 1章「相対性の真相」では、「相対性」が「(相対的に)理解しやすい」ものであるが、「相対的には、絶えず私たちの足をすくう要素が一つある」(36ページ)と説き起こす。「わたしたちは物事を何でも比べたがるが、それだけでなく、比べやすいものだけを一所懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向がある」(同上)という。そこで自分の持ち物を他人のそれと比べて欲求を膨らませることをくり返す。「人は持てば持つほどいっそうほしくなる。唯一の解決策は、相対性の連鎖を断つことだ」(53ページ)というのがこの章の忠告である。

 2章「需要と供給の誤謬」は物価がさしたる根拠もなく決められていると論じている。「恣意の一貫性」としてもともと恣意的に決められた価格がそのまま永続するだけでなく、関連する品物にも影響を及ぼすことになるという。さらに他人が前にとった行動をもとに物事の良しあしを判断してそれにならって行動することをハーディングというが、自分がしたことについてもそれをくり返すことが少なくない。これを「自己ハーディング」という。物価は需要と供給の力の平衡によって決められるというが、①消費者はさまざまな品物や経験に対する選好や支払意志額を自分の思い通りには制御できていない。②(供給と需要の力は)実際には…互いに依存している(87ページ)という問題がある。確かに「人間が本当に合理的なら、需要と供給にもとづいた昌つのない自由市場は理想だ。とはいえ、わたしたちは合理的でなく非合理的なのだから、政策もこの重要な要素を考慮すべきではないだろうか」(91ページ)と示唆する。

 3章「ゼロコストのコスト」ではゼロコストはきわめて魅力的だが、そのために厄介なことになることもあると論じられる。「実験」を通して「無料」の意味を調べていく行動経済学的な探求により、タダより安いものを差し置いても、被験者たちはただの品物を買おうとする傾向があることを明らかにする。そして人間は失うことを本質的に恐れているのではないか、たとえ交換が無料であっても、交換よりも何かもらうことを選んでい舞うのではないかとして、アマゾンの無料配達サービスで起きた不合理な判断の事例を引き合いに出している。逆に言うと、何かを無料にして売り上げを増し、さらに社会政策を推進することができるのではないかともほのめかしている。

 わたしたちは、金のためではなく、人の役に立つことが楽しいから何かをするということも多いし、人から尊敬されたいとか、馬鹿にされたくないという動機で行動することも多い。そのようなさまざまな動機は全く独立に存在するのかといえば、そうではないことが4章「社会規範のコスト」と5章「無料のクッキーの力」で気づかされる。金銭的なインセンティブが社会的なインセンティブを押しのけてしまう可能性があることを念頭に置くべきであると説く。さらに6章「性的興奮の影響」では人間が性的興奮状態にあるときに合理的な判断ができないことを実験結果に即して論じている。7章「先延ばしの問題と自制心」では、人間が「いま」の楽しみを重視しすぎるという「現在バイアス」にとらわれて、以前に決めた合理的な計画を実行できないことが多いと論じ、その対策についても示唆している。

 8章「高価な所有意識」では人間が自分のもっているものを手放したくないという気持ちがどれだけの経済的な損失をもたらすかを冷静に計算する癖をもつ必要性について訴えている。9章「扉をあけておく」では「現在バイアス」をめぐる問題を論じている。10章「予測の効果」では人間の味覚でさえちょっとした情報に大きく影響されることを指摘し、11章「価格の力」では、プラセポ効果や高いものがよい品質だと思いこみやすい特性を示している。「プラセボ」は暗示の力で効果を発揮する医療行為についていう言葉だそうである。12章「不信の輪」、13章「わたしたちの品性について その1」、14章「わたしたちの品性について その2」では信用を構築することの難しさや不正行為の特性がさまざまな実験を通じて明らかにされている。15章「ビールと無料のランチ」はあらためて行動経済学のがどのように人間の本性を明らかにしてきたかをあらためて実験例を通じて確認している。

 人間が必ずしも常に合理的に行動するとは限らないことを前提として、新たに経済政策を構築し直すべきであるという著者の主張には同意できる。現在の我が国の経済政策とその効果について考えるためにも役立つように思われるが、その一方では理想主義的で人間性を美化する言辞の方が大衆受けはするだろうなぁという別の心理学的な心配も起きるのである。
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