宇治拾遺物語(4)

10月25日(金)雨が降ったりやんだり、依然として台風のゆくえが心配である。

 NHKカルチャーラジオ「文学の世界」『むかしがたりの楽しみ 宇治拾遺物語を繙く』(講師:伊東玉美白百合学園大学教授)の第4回「序文の謎」を、24日(木)の夜の放送で聴き、本日(25日)また聴きなおした。これまでの放送分に比べると格段に面白かった。野球で言うと4番打者登場というところであろうか。

 『宇治拾遺物語』は今日、手書きの写本と主として江戸時代に刊行された版本とによって伝えられている。ところが、両者の序文を比べてみると、写本の序文には空白の部分が多いことがわかる。版本の場合は、空白があったのでは体裁が悪いので編集者が適宜空白部分を補っていると考えられる。空白は虫食いなどの影響によるものではなくて、何か意図的に設けられているようにも思われる。

 序文はその内容をめぐっても謎が多い。宇治大納言と呼ばれた源隆国がその別荘に人々を呼び寄せてさまざまな昔話を集め『宇治大納言物語』という書物を編纂した。それが面白いので、広く伝わったが、もとの本は侍従の俊貞のところにあった。本がひろまるとともに後の人がいろいろと書き加えをしたが、中には隆国の死後のことまで書いたものも出てきた。

 そんな中、現代(鎌倉時代の初め)にまた、宇治大納言物語に物語を書きいれたものが出来上がった。宇治大納言物語に漏れたのを拾い集め、高国没後の物語をかき集めたものだ。名を宇治拾遺物語という。

 ここで読者は納得するはずだが、序文の書き手はさらに不思議な文言をつけ加えている。宇治拾遺物語に入っていないものを拾った、という意味でつけた書名だろうか。また、侍従の唐名を拾遺というので、侍従大納言がいるのにならって(  )というのかわからない。(  )なのだろうか、はっきりしない。

 つまり、物語の題名の由来ははっきりしないと言っているのである。結局、物語の題名の由来も、序文を誰が書いたかもはっきりとしない。ところが、この末尾と違って、序文の前半は、本当らしい内容に満ちていることも否定できない。宇治大納言物語という書物は実在したと考えられるし、源隆国の系譜も正しく、彼の行動も時代の習俗に合致している。隆国が人々の話を聴いて書きとめたというのは『古事談』の中の小野宮殿が自分の邸の板塀の一部に穴をあけ、果物などを置いて京童たちにそれを食べさせながら、町中で話題になっていることを聴いた。その中には立派な意見もあったという逸話が引き合いに出される。序文の前半には本当らしい内容が満ちている。また隆国の玄孫には「侍従俊貞」と思われる人物=俊定が実在した。

 序文は『宇治大納言物語』にはインドのこともあり、中国のこともあり、日本のこともある。その中には、尊いことも、おもしろいことも、怖いことも、しみじみすることも、汚いこともある。少しは作り話や当意即妙のやりとりだけの話もある。まさにいろいろさまざまだったと記している。この内容は『宇治拾遺物語』にそのままあてはまる。またその昔物語の中には「少々は、空物語もあり、利口なることもあり」と書かれていることが重要で、ここに本来説話は、作り話(空物語)ではないし、当意即妙な答えだけの、地口落ちや言語遊戯(利口)だけがポイントの話でもないという考えが現れている。説話は本来、何らかの事実を語り伝えるものであるというのである。

 説話集のあいだには類似した内容をもつものが多く存在し、その類似の程度によって分類がされていることは既にふれた。『宇治拾遺物語』が『古本説話集』『世継物語』『今昔物語集』『打聞集』などと多くの同文的同話をもつことから、これらの説話集の共通典拠が散逸した『宇治大納言物語』ではなかったのかという推定もなされてきた。現在では、もっと複雑な成立事情が背景にあると考えられているようである。

 いずれにしても、序文の虚実のあいだを巧みに遊泳する茶目っ気は、本文の内容とも共通する性格であると伊東さんは指摘している。高校までの国語(古文)の知識では、『宇治大納言物語』と『宇治拾遺物語』の関係についての序文の語りについてここまで深くはよみとれなかった。この物語について読む際の有力な手掛かりを得た気分である。

 伊東さんは小野宮殿について説明しなかったが、藤原実頼(ふじわらのさねより、900-970)のことである。有職故実に詳しく日記『水心記』を書いたが、現存しない。彼の孫実資(さねすけ、957-1046)は日記『小右記』や「小野宮年中行事」を遺した。伊東さんは、放送の最後で四納言について触れたが、その1人である『和漢朗詠集』の作者藤原公任(ふじわらのきんとう、966-1041)も実頼の孫の1人である。

 説話は歴史や民俗と比較・対照して考察することによりさらに新しい事実の世界を切り開く可能性をもっているとあらためて思っているところである。
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