個性と競争

9月26日(木)曇り時々晴れ

 9月24日に届いた葉書で、昔の同僚の急逝の知らせを受けた。その翌日、今度は高校時代に2学年にわたって担任していただいた先生の訃報が届いた。

 亡くなられた先生があるときに、自分は小学校で教育を受けていない、自分たちの時代は国民学校であったというのを記憶している。小学校ではなく、国民学校であったという過去の教育制度を経験した世代が次第に姿を消しはじめている。戦後の教育改革以前の教育制度についての記憶が薄れているので、出来るだけ正確にその内実についての情報を残すことはますます重要になるのではないかと思う。

 大学受験を控えた我々に向けて、先生が言われたことの中で比較的鮮明に覚えているのは、旧制では旧制中学4年(5年制であった)から旧制高校に入学できたのが、新制では現役合格、5年で入学したのが一浪で合格というのに相当するという話である。われわれの世代は父親やその他の縁者に旧制高校出身者が多かったからこの話は結構説得力があったし、余計なプレッシャーを取り除くのに役立ったと思うのである。

 別の先生であるが、天下の秀才が集まっているとされた旧制第一高等学校に学ばれた方がいらっしゃって、授業の折に高校時代の想い出を語って当時は逆トツ(トップ)というのがあったという話をされたのを覚えている。成績が上位に届かない生徒たちがせめてもの自己主張として、落第点ぎりぎりで合格した生徒を逆トツとしてコンパなどの折に優遇したという話である。それで試験の折に60点の合格点ぎりぎりを取ろうとして苦労する。落第してしまっては元も子もないし、60点ぎりぎりで合格するようにできる問題も無視して解答を書く。ところが、先生の方もあまり生徒を落第させたくないので、60点未満の答案でも下駄をはかせて合格させることがある。それが先輩からの申し送りになっているので、60点を狙わずに、60点未満のしかるべき得点を狙うのだが、うっかりすると落第になってしまうのということでスリル満点である。それにしても、自分がどのくらいの点数が取れているかを計算できる自己評価能力は大したものである。わたしが大学で教えていた時代のことを思い出すと、そういう学生は少なかったように思う。今はもっと少ないかもしれない。

 そうはいっても、単位を取る方法というのはあったし、たぶんあるのである。「語学放浪記」でも書いたことであるが、教師には採点の方針というものがあり、それが何らかの形で学生のあいだに伝わっていると、対策が立てやすい。学生は一般に経験に乏しく、思考が雑であるから、教師の採点方針については甘い(仏)であるが、厳しい(鬼)であるかという判断を下しやすかった(あくまで私が教師をしていたころの話、現在は違うかもしれない)、好成績を取るとか、そこまでいかなくても単位を取るためのキーワードとかキー概念はあるし、それを知ろうとすることが勉強の第一歩かもしれないと思うところである。(最近は大学で教える内容の標準化が進んでいるので、教師の個性による単位の取りやすさの違いもなくなってくるかもしれない。)

 もう一つ重要なことは、成績が上位ではなくても周囲に認められる可能性が留保されているということである。つまり、競争の中で勝者ではなくても、何らかの形で自分の個性を認めさせる可能性はあったということである。競争の中での勝ち負けが、全人格的な評価ではなく、学校による、あるいは生徒相互間での別の評価を許容するものである限り、それはむしろ生徒の個性を伸ばす余地をもっている(伸ばすのはあくまで生徒自身の努力である)。

 個性といっても学者や知的専門職に就くための個性もあるし、企業の中で管理職に就いたり、社員として企業を支えるという個性もある。わたしの場合は卒業生がほとんど大学に進学するという高校に学んだのであるが、すぐれた知性と該博な知識を備えながら、著作を世に問うこともされずに生徒たちの教育に献身された偉大なる暗闇ともいうべき先生方に大いに影響を受けたものである。進学よりも就職を視野に入れる生徒が多い学校の場合(あるいは大学に進学した後で会社に就職する生徒が多いということを考えると進学者が多い学校の場合でも)企業や地域社会での世渡りについて経験を積んだ先生がいるほうがよいのかもしれないとも思う。学生・生徒の個性を育てようと思ったら、教師の個性に配慮することも必要である。さらに言えば、学校の特色に応じた教師の個性の配合や、教師と学生・生徒の組み合わせも工夫すべきである。
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