ポール・ギャリコ『シャボン玉ピストル大騒動』

9月4日(水)晴れ後曇り、一時雨

 9月3日、ポール・ギャリコ『シャボン玉ピストル大騒動』(原題 The Boy Who Invented the Bubble Gun, 創元推理文庫)を読み終える。6月28日に買って読みはじめたのだが、登場人物が多く、場面がくるくると変化するうえに、個々の登場人物がそれぞれの物語をもって筋書きの中に入り込んでくるために、読んでいて混乱させられ、かなりてこずった。それでも、最後まで読みとおしてしまったのは、作者ならではのストーリー・テリングと人間観察の巧みさのためであろう。

 アメリカ西海岸のカリフォルニア州サンディエゴに住む9歳半の少年ジュリアンが家出を企てて、ワシントン行きのバスに乗り込む。地元の名士で多忙なあまりに息子のことを構いつけない父親と、過干渉な母親が彼の発明に対する情熱を理解しないので、自分が発明したシャボン玉ピストルの特許を取りに一人で出かけようというのである。バスには初めて外泊する高校生のカップル、ヴェトナム帰還兵、機密をたずさえている米国軍人とKGBのスパイ、殺人犯とあまりにも雑多な人々が乗り合わせ、この少年の旅を波乱に満ちたものにしていく。

 1977年に一度翻訳が早川書房から刊行されているが、今回はそのライヴァル社から翻訳者を変えて刊行された。ポール・ギャリコ(Paul Gallico, 1897-1976)はある人にとっては児童文学作家であり、ある人々にとっては推理小説作家であり、別の人々にとってはファンタジー作家というようにかなり多彩な作品をかき分ける作家であった。映画で言うと『打撃王』(Pride of the Yankees, 1942)、『リリー』(Lili, 1953), 『ポセイドン・アドベンチャー』(The Poseidon Adventure, 1972)の3本の映画の原作者が同一人物であるとはなかなか信じにくいが、そうなのである。今、ギャリコの作品で本屋で最も見つけやすいのは、この『シャボン玉ピストル大騒動』を別にすれば、『猫語の教科書』であろうか。個人的には彼の『ほんものの魔法使い』を読んでひどく感心したことがある。

 登場人物が多いと書いたが、実は最初から最後までその役割を演じるのは主人公の少年ジュリアンとその道づれになるヴェトナム帰還兵フランク・マーシャルの2人だけであり、この本の解説で三橋暁さんが書いているように、一種の「ロードもの」という展開をとる。そしてこれも三橋さんが書いているように、この道連れとの必ずしも順調とはいえない接触によって未熟な天才少年が成長を遂げていく(吃音が治るのはその表れのひとつである)。

 2人はバスの乗っ取り犯に出逢っただけでなく、その取り押さえに成功するが、ジュリアンが家出をしたことがばれてしまうとワシントンへの旅行が中断されてしまうので、姿を隠す。行く先はあくまでワシントンなのである。結末は伏せておくべきであろうが、「ジュリアンにとっては、どの日もどの夜も、この広大な大陸を走り続ける1時間1時間が、幼い少年の思い描く天国そのものに感じられた。自分を1人前の男としてあつかってくれる大人の友情と尊敬をかちえ、仲間としてつきあうひととき」(210ページ)が貴重な経験として思いだされるようになるのである。

 少年の旅が終わってからも物語はしばらく続くことだけ書き添えておこう。最後に、ある出来事からジュリアンの父親に「真実がふと明瞭に浮かびあがるあの瞬間、考えかたのちがい、愚かさ、妨害、無理解といったものをすべて押し流し、ふたりの人間を隔てる壁を打ちこわしてくれるひらめきが」(309ページ)訪れる。ギャリコの人間的な温かさがこもった言葉と、結末が感動的である。
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