FC2ブログ

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(37)

3月29日(日)雪

 叔父であるガードナー氏と、その妻とともに旅行に出かけたエリザベスは、叔母が昔住んでいたダービーシャーに滞在することになり、その間、この地方の名所であるペムバリー邸を訪問することになった。ペムバリー邸の当主は、少し前にエリザベスが結婚の申し出を断ったダーシーだったので、彼女は彼との鉢合わせを恐れて訪問したくなかったのだが、彼が不在であることを確認して出かけることにした。実際に邸を訪問してみると、その広壮な様子や家具・調度の趣味の良さなど当主の性格についての彼女の認識を改めさせるようなものであった上に、女中頭がダーシーの人となりを褒めちぎっていたので、ますます彼女の考えは変わり始めた。
 一行が邸内の見学を終え、庭園を見て回ろうとしたとき、エリザベスは予定を早めて帰館したダーシーに出会ってしまった。ダーシーは彼女と丁重に言葉を交わして別れたが、その後、再び彼女と会って、次の日に彼の妹(ミス・ダーシー、ジョージアナ)が戻って来るので、ぜひ、彼女と会ってほしいという。エリザベスは彼がなぜそんなことを言い出したのか思案する。〔ダーシーとその妹は12歳あまりの年齢差があり、兄妹といっても気持ちの通じないところがある。しかも、ジョージアナはすこし前に、スキャンダルになりかねない事件を起こしたことがあり、そのことをダーシーはエリザベスに打ち明けていた。そのことも含めて、ダーシーが兄妹の中間位の年齢のエリザベスを頼ろうとするところがあったと考えるべきであろう。〕

 第3巻第2章に入り、いよいよ、エリザベスとミス・ダーシー(ジョージアナ)が対面することになる。ミス・ダーシーはこれまでその人物像をめぐっていろいろと噂されてきたが、エリザベス(と読者)はここでようやくその実像に触れることになる。
 「エリザベスは、ミスター・ダーシーが妹を連れて訪ねて来るのは明後日だろう、妹のペムバリー到着が明日だから当然そうなるだろうと決込んでいた。それで明後日の昼間はずっと宿を離れずにいるつもりであった。しかしその思い込みはどうやら誤算であった。自分達がラムトンの宿に着いた翌日に、つまりミス・ダーシーがペムバリーに着いたその日のうちに二人は早速やって来たからである。」(大島訳、439ページ)
 エリザベスはその日の午前中、新たに知り合いになった人たちとラムトンの町を散歩して、彼らとの昼食のために宿に戻って着替えようとしていたのだが、ダーシー兄妹が馬車でやって来るのに気づいた。そして、叔父夫婦は、突然の来訪とエリザベスの落ち着かない様子とから、これはただならないことが起き始めていると察したのであった。
 一方、エリザベスはダーシーが自分の妹に、彼女のことをよく言いすぎているのではないかと思い、自分が彼女の予想を裏切ることが心配になりはじめていた。

 いよいよ、ダーシー兄妹が現われて「恐るべき初対面の挨拶が取交された」(大島訳、441ページ)。自分と同じように、ミス・ダーシーの方も戸惑っていることにエリザベスは気づいた。事前に思っていたのとは違って、ミス・ダーシーは内気なはにかみ屋であることがわかった。ミス・ダーシーは大柄で、身長はエリザベスよりも高く(第1巻第8章で、ダーシーは自分の妹の背丈がエリザベスと同じくらいか、それよりも少し高いくらいだと言っている。ダーシー自身もかなり背が高い男性として描かれている)、16歳という年齢のわりに体つきも大人びていたが、おっとりとして気取りのない態度に好感が持てた。兄のように他人を鋭く観察するというタイプではないらしいということが分かって、エリザベスはかなり気持ちが楽になった。

 一同が席について間もなく、ダーシーは、ビングリーも間もなくやって来ると告げた。エリザベスはこの知らせに喜んで、彼の訪問に備える準備をしていたが、十分な心の準備をする前に、ビングリーがやってきてしまった。ビングリーは以前と変わらぬ調子で、エリザベスの家族の安否を尋ねた。
 ガードナー夫妻にとってもビングリーは興味ある人物であった(ビングリーは、エリザベスの姉のジェインが慕っている男性であり、ジェインは少し前までガードナー夫妻のもとに滞在し、現在はベネット家に預けられている夫妻の子どもたちの面倒を見ているからである)。そして夫妻は、ダーシーとエリザベスの間の感情の動きにも注意を払う。そしてエリザベスの気持ちはわからないが、ダーシーが彼女に関心を寄せていることは確かだと観察する。

 一方エリザベスの方は、自分が相手をしている3人が自分にどんな気持ちをもっているのかが不安で仕方がなかったが、3人が三様のやり方で、彼女に好意をもっていることは明らかに思われた。ビングリーは以前ほど喋らないように思ったが、しかし彼が彼女を見て、彼女の姉を思いだそうとしているのではないかと思ったりする一方で、ミス・ビングリー(ビングリーの妹)が言うように、彼がミス・ダーシーと結婚しようと思っているというようなそぶりはまったく感じられなかったので、その点では安心した。ビングリーはジェインのことを話さなかったが、彼のネザーフィールドの邸で前年の11月26日に開いた舞踏会のことを口にした。日付をきちんと覚えているのは、ジェインのことを忘れていない証拠だとエリザベスは思った。
 エリザベスはミスター・ダーシーの方にはなかなか目が向けられなかったが、ときどき彼の方を見ると、彼が以前と比べて愛想のよい態度をとっていることに気づき、驚いた。そしてその変化が何を意味するのかを不思議に思いながら考えていた。

 一行は30分ほど話していたが、辞去するときにダーシーが妹に声をかけて、エリザベスと叔父夫婦を翌々日に招待したいが、お前の方からも招待するようにといい、ミス・ダーシーはそういうことには不慣れな様子であったが、兄の言葉に従った。そしてガードナー夫妻はこの招待を受け入れた。
 ビングリーはエリザベスとまた会えることを喜び、今度会うときはハートフォードシャーの人たちのことをもっとよく聞きたいといったが、これは自分の姉のことを意味しているのだとエリザベスは受けとめた。

 その夜、エリザベスはなかなか寝付くことができないまま、自分の気持ちをはっきりさせようとした。彼女が、求婚された際に、自分が持っていた偏見も手伝って厳しい態度で拒絶したにもかかわらず、ダーシーが偶然にあった後で、これからも交際を続ける意思を示し、しかも彼女に直接そう伝えるのではなく、叔父夫婦の好意をえようとしたり、自分の妹に彼女とその身内を招待させようとしているのはどういうことかと考えたのである。彼女のダーシーを嫌悪する気持ちは消えて、それは好意にかわっていたが、彼と結婚することが自分の幸福につながるかどうかに確信が持てなかったのである。
 その前に、彼女は叔母と話し合って、ダーシーが妹の到着の直後に自分たちを訪問した好意に答えるために、自分たちも1日訪問を早めることを決めていた。そして翌日の午前中に、ペムバリーを訪問することになった。

 ペムバリーへの訪問はどのようなことになるか、それはまた次回に。
 英国の推理作家で、ダルグリッシュ・シリーズで知られるP.D.(フィリス・ドロシー)ジェイムズ(1920‐2014)の『高慢と偏見、そして殺人』(Death Comes to Pemberley, 2011)はこの、『高慢と偏見』のパスティーシュであり、2012年にハヤカワ・ミステリーから羽田詩津子訳で翻訳・出版されている。この本を書架の整理をしていて見つけ出したので、読み返しているところである。「訳者あとがき」で羽田さんが述べているように、P.D.ジェイムズはオースティンを長年敬慕していたのではないか、そして晩年を迎えて「彼女なりの決着」(同書、345ページ)をつけたいと思ってこの小説を書いたのではないかと思われる。ジェイムズの『高慢と偏見』への解釈と、自分自身の解釈とを較べながら読むと、一層興趣が増すと思う。物語は、『高慢と偏見』の6年後の出来事ということになっており、ペムバリー邸の敷地内で殺人事件が起こる。その真相の解明とともに、今回、紹介した箇所との関連でいうと、成人年齢に達したミス・ダーシーの結婚問題が物語の進行に絡む。興味のある方はご一読ください。 
 
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR