FC2ブログ

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(36)

3月22日(日)晴れのち曇り

 母親の弟であるガードナー氏とその夫人とともに旅行に出かけたエリザベスは、叔母が昔住んでいたダービーシャーに滞在することになり、その間、この地方の名所であるペムバリー邸を訪問することになったが、この邸の当主は、彼女が結婚の申込を断ったダーシーであった。彼との鉢合わせを避けたい彼女は、訪問する日に、まだ彼が帰館していないことを確認したうえで、叔父夫婦とともに邸を見学する。邸を案内しながら、女中頭は当主が地主として、またこの邸の主人として立派な人物であり、妹にとってよい兄であることを誇らしげに語る。その一方でウィッカムについては、先代に眼を掛けられたものの、現在は軍隊に入り、だいぶ生活が乱れているようだともいう。邸の中を見ながら、エリザベスは、ダーシーの趣味の良さに感嘆し、彼に対する認識を改めることになる。

 「館内の一般に公開されている所を全部見おえたので、皆は階段を下りて一階の玄関広間に戻った。そこで女中頭にお礼の心附を渡して別れを告げると、あとは玄関の出口で待っていた庭師が庭園の案内を引継いだ。」(大島訳、425ページ)
 エリザベスは芝生を横切って邸内を流れる川の方に向かいながら、もう一度邸を眺めた。この邸はいつ頃建てられたのかと考えていると、突然、この邸の当主が建物の裏手の厩に続いている道から姿を現した。
 二人(エリザベスとダーシー)の間は20ヤード(約18メートル)と離れておらず、それも彼が不意に現れたので、エリザベスは自分の姿を隠すことができなかった。「すぐに二人の眼が合い、見る見るうちに二人の頬が真赧になった。」(大島訳、425ページ、何も「赧」などという難しい字を使う必要はないだろう。なお、原文ではTheir eyes instantly met, and the cheeks of each were overspread with the deepest blush. Austen, Pride and Prejudice, p.241) それでもダーシーの方は一瞬、その場に立ちすくんだけれども、すぐに気を落ち着かせて、エリザベスに近づき、丁重な言葉で彼女に話しかけた。

 エリザベスはその場から逃げ出したかったけれども、相手が丁重に話しかけてきたのでそうするわけにもいかず、戸惑いを抑えきれないまま彼の挨拶を受けた。叔父夫妻は、ダーシーの姿を見るのは初めてであったが、彼の姿を見た庭師の驚いた様子でそれと察した様子である。エリザベスは自分がここに来たことが露見してしまった恥しさと戸惑いで、上の空になっていたが、ダーシーの方も同じ質問を繰り返すなど、思いが乱れていることは明らかであった。そして話すことが無くなったので、気を取り直すと、一礼して去っていった。

 ガードナー夫妻、つまりエリザベスの叔父と叔母はダーシーの様子が立派なことを褒めていたが、エリザベスには叔父夫婦の会話は耳に入らず、とにかくここで彼と会ってしまったことが恥しく、腹立たしかった。そしてダーシーが予定よりも1日早く帰還した不運を嘆いた。しかも彼の方から彼女に、それも鄭重な言葉づかいで話しかけてきたことが驚きであった。
 一行は川沿いの美しい遊歩道を進んで行ったが、その見事な景観もエリザベスにはほとんど眼に入らず、彼女の視線はペムバリー・ハウスの一箇所、ダーシーがいる場所に向けられていた。彼女が知りたかったのは、彼が彼女のことをどのように考えているのか、そしてどうしてあのような態度をとったのかということであった。エリザベスが上の空の状態であることに、叔父夫婦も気づいて、どうしたのかとたずね、彼女は我に返って、もっと普段の自分らしい態度をとらなければならないと思った。

 広壮な庭園の全部を回ることは無理だとわかったので、一行は一般観光用に指定された順路をたどることにして、先へ進んだ。そしていよいよ先に進むことが難しくなったところで、邸の方に引き返した。ところが釣り好きなガードナー氏が、邸内を流れる川がよい釣場だということに気づき、あちこちで立ち止まったので、なかなか先へ進まなかったのである。
 そうやって一行がのろのろと歩いていたところに、ダーシーまた現れた。エリザベスは、彼が自分たちに用があるとは思っていなかったが、それでも心の準備をする余裕があったので、彼にまた丁重に話しかけられたときに、自分も礼儀正しく答えることができた。ただ、多少のぎこちなさは残っていた。

 ダーシーがエリザベスに彼女の連れを紹介してほしいと頼むので、エリザベスは2人が自分の叔父夫婦であることを話す。上流階級の人士であるダーシーにとって、ロンドンのシティーで実業にたずさわっている商人のガードナー夫妻は彼の自尊心からいって付き合いかねると言っていたはずの人種なのだが(そして、ダーシーがエリザベスの姉のジェインと、自分の友人のビングリーの間の交際に水を差したのも、もともと中流階級出身のジェインとエリザベスの母の下品な言動がもとになっていたのだが)、ガードナー氏の趣味の良さや礼儀正しさに、ダーシーはすっかり感服した様子であった。
 そして彼は叔父を滞在中はいつでも釣りにおいでください、道具はお貸ししますと釣に招待する。エリザベスはダーシーのこのような変化に目を見張るのである。エリザベスは、このような彼の変化が自分のために起きたことが内心、得意であったが、彼がまだ彼女を愛しているとはどうしても思えなかった。

 二人で並んで歩くことになった時に、エリザベスはダーシーに予定では翌日に戻る予定だったのにと問うと、その予定だったが、執事に用があったので、予定を早めて戻ってきた、ビングリーとその姉妹も翌日に戻る仲間の中に入っているので会えば喜ぶだろう(喜ぶとは限らない)、さらにもう一人、自分の妹のジョージアナがいるので、ぜひ会ってほしいという。
 叔父夫婦がゆっくりと歩いてきたので、二人はエリザベスの旅行の経験などをしばらく話し合った。そして叔父夫婦が戻ってくると、エリザベスと叔母が馬車に乗るのを助け、そして邸の方に去っていった。
 帰りの馬車の中でエリザベスは叔母とダーシーのこと、ウィッカムのことを話し合い、これまでの彼らに対する認識に誤解があったことを認める。その日の残り、エリザベスはダーシーが自分に丁重な態度をとり続けたこと、また妹を彼女に紹介したがっているのはどういうことかを考え続けていた。

 法善寺一皮むけてめぐりあい(桑原狂雨)という川柳が好きである(私自身はあいにくとそういう経験はなかった)。まだ両者ともに、それほど気持ちの整理がついていないときに、再会してしまった。それでも、第2巻第11章で、無思慮かつ唐突にエリザベスに求婚して拒絶された時に比べて、ダーシーが思慮深くなってきていることは、再会後の彼の態度で分かる。なお、ここでダーシーはかなり唐突に出現するが、執事に用があったので、仲間の一行と離れて急いでやってきた、つまり馬を走らせてやってきたので、その馬を厩につないで、他の人から見れば思いがけない場所から姿を現したということである。

 これで第3巻第1章(第43章)を終り、次回はいよいよエリザベスがダーシーの妹のジョージアナと対面することになる。彼女が才芸をことごとく身に付けた完璧な令嬢なのか、高慢な存在なのかなど、これまで噂だけでしか登場してこなかった人物がいよいよその姿を現すのである。
 
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR