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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(34)

3月8日(日)雨

 エリザベスはガードナー夫妻とともに、夏のあいだ、イングランド北部へと旅行するのを楽しみにしていたが、あと2週間で出発というときになって、ガードナー夫人から手紙があり、出発が延期になり、旅の日程も縮小されたと連絡してきた。ガードナー氏が仕事の都合で出発を2週間先に延ばさなければならなくなったのだという。そのため出発は7月に入ってからのことになり、また1か月以内にロンドンに戻らなければならないので、旅行期間は当初予定していたよりも短くなってしまった。それで、ゆっくり旅を楽しむために湖水地方まで出かけるのをあきらめて、もっと切り詰めた日程に変更せざるを得ない。そのため今回の旅行はダービーシャーから北にはいかないことにした。ダービーシャーには観光地が多いから、自分たちの全日程3週間のうちの大部分はそこで過ごすことになるだろうというのである。
 第2巻第2章(25章)に出てきたが、ガードナー夫人はダービーシャーのウィッカムの生まれ故郷の近くに長く住んでいたことがあった。だからこの地は、彼女にとって特別な思いのある州であった。それで「今回はその町に数日間滞在することになっていた。多分夫人にしてみれば、マトロック温泉地やチャッツワーツ屋敷、或はダヴデイル渓谷やピーク丘陵地帯などの有名な景勝地に劣らず、好奇心をそそってやまない町なのであろう。」(大島訳、407ページ)
 マトロック温泉地(Matlock)、チャッツワース屋敷(Chatsworth)、ダヴデイル渓谷(Dovedale)、ピーク丘陵地帯(the Peak)はオースティンが愛読したGilpin, Observations, Relative Chiefly to Picturesque Beautyという書物に取り上げられたダービーシャーの景勝地である。Chatsworth Houseはこの後登場するダーシーのペムバリー邸のモデルとされ、この小説の映画化である『プライドと偏見』のロケ地ともなった。詳しいことはまた、そのときに。

 エリザベスはこれを知った時はがっかりしたが、こういう時の気持ちの切り替えが早い彼女のことなので、間もなくそれもいいだろうと受け入れる気持ちになった。しかし、ダービーシャーと聞くと、思いだされるのはそこにダーシーのペムバリーの邸があるということであった。彼からの求婚を拒否したこと、その際彼女が彼を非難した内容についてダーシーから弁明の手紙をもらったことなど、生々しい記憶であった。しかし、彼の邸の近くに行ったところで、別にとがめだてをされるいわれはないし、埋もれ木のかけらを拾ってきても、それを彼に見とがめられることはないだろうと考えた。
 原文でa few petrified sparsとあるのを大島さんは「蛍石を2つか3つ」と訳しているが、ペンギン・クラシックス版の注では「化石になった樹木」となっているので、「埋もれ木のかけら」と訳しておいた。

 出発が延期されたといっても、やがて時間は過ぎて、ガードナー夫妻は4人の子どもたちを連れてロングボーンにやってきた。子どもたちは8歳と6歳の女の子、それよりも年少の2人の男の子であったが、彼らをロングボーンに残して旅行に出かけるのである。子どもたちの面倒は主に長姉のジェインが見ることになっていた。エリザベスがケントに旅立つ以前から、ジェインはロンドンのガードナー夫妻のところに滞在していたし、それ以前にも何度か訪問・滞在していたので、子どもたちとはなじんでいたし、それに彼女の堅実な良識とやさしい性格も子どもたちの面倒を見るのに適していた。

 ガードナー夫妻はロングボーンに一泊しただけで、エリザベスとともに北の地方への旅行へと旅立った。気の合った3人旅であったと作者は記している。彼らはオックスフォード大学、ブレナム宮殿、ウォリック城、ケニルワース城、バーミンガムなどを訪問した後、ダービーシャーのラムトン(Lambton)という、ガードナー夫人が以前暮らしていた町にたどりついた。彼女の昔の知り合いが今もこの町で暮らしていることが最近になって分かったのだという。一行は州内の主な名所を訪問した後に、この町に向かった。ガードナー夫人の話だと、ラムトンから5マイルも離れていないところにダーシーのペムバリーの邸があるという。ガードナー夫人は以前に邸を訪問したことがあったが、もう一度訪問したいと言い出し、ガードナー氏もぜひ行ってみたいという。ガードナー夫人はエリザベスにも同意を求めたので、彼女は困惑した。
 「オックスフォード大学、…バーミンガム」というのも、前記Gilpinの書物で紹介された旅行のルートをたどっているのだそうである。ラムトンは架空の地名である。

 ペムバリー邸は有名な場所であり、エリザベスの何人かの知り合いにゆかりの場所であるからぜひ行ってみようといわれて、エリザベスは、苦境に立たされた。なんとか自分が行きたくない理由を作って、断ろうとしたのだが、ガードナー夫人に一蹴された。ペムバリーの庭園を見ないで帰ろうということがあっていいのだろうかというのである。
 エリザベスが行きたくなかったのは、訪問している際に、ダーシーにばったり出会うことを恐れたからであった。もしそんなことになったら、恥しくていたたまれないような気持ちになると思ったのである。それで、窮余の一策として、宿屋の女中にペムバリー邸の主人は今、在宅中かどうかを訪ねて、在宅であることが分かったら、叔母にこれまでのことを打ち明けてしまおうと決心した。それで部屋係の女中にそれとなく様子を訪ね、ペムバリー邸の主人がまだ帰館していないと分かったので、安心して出かけることにした。こうして、一行はペムバリーに出かけることになった。

 ここで第2巻第19章と、第2巻全体が終り、第3巻に入ることになる。ペムバリーでどのような出来事が待ち受けているかは、また次回以降に。今回出てきた名所のうち、バーミンガム(イングランド第2の都市である)と、チャッツワースには出かけたことがある。この物語の時代、人々の移動は主に馬車によるものだったから、時間がかかったのである。チャッツワース・ハウスのあるベークウェルから、隣のヨークシャーのシェフィールドまで霧の中を自動車で移動したときのことが忘れられない(タクシー代が随分かかったけれども…)。自動車の運転をされる方は、英国を旅行するのであれば、自動車で移動することをお勧めしたい。
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