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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(32)

2月23日(日)晴れ、三ツ沢グランドの陸橋付近から富士山が見えた。

 ハートフォードシャーに戻ってきたエリザベスは、帰宅の翌日、姉のジェーンに、ケントでの経験を語った。ただし、ジェーン(とビングリー)に関係する部分は伏せて、彼女とダーシーとの経緯だけに焦点を当てて話したのである。
 最初、ジェインはダーシーがエリザベスに求婚し、拒絶されたと聞いて驚いたが、妹の魅力をもってすればそのようなことも不思議ではないと、その驚きもおさまり、むしろダーシーの求婚の仕方がいかにも気の利かないものであったことを残念がり、さらに拒絶されてさぞ残念であっただろうと、同情心を示すのであった。〔他人を悪く思わないジェインの性格がよく出ている対応である。〕

 エリザベスは、ダーシーには気の毒なことであったかもしれないが、彼の性格や境遇からすればすぐに立ち直るだろうといい、むしろ驚いたのはウィッカムの正体を知ったことであると話を進める。エリザベスは、ダーシーの手紙に書いてあったことを(ジェインに関する部分は省いて)詳しく語り、ジェインはダーシーについてエリザベスが抱いていた疑いが晴れたことを喜んだが、その代わりに、ウィッカムの正体を知って驚いた。それでも彼女はこのような悪の存在を認めたくはなかったので、一方の無罪を認めながら、もう一方についても潔白であると証明しようとした。

 エリザベスは姉の努力が無駄であるといい、自分としてはウィッカムよりもダーシーの方を信じたい気持ちであり、自分が表面的な観察だけで、ダーシーに偏見を抱いていたことを後悔しているという。その結果、自己嫌悪に陥り、そのときほど姉がいてほしいと思ったことはなかったと打ち明ける。さらに、ウィッカムの正体を人々に知らせるべきかどうかについての姉の判断を仰ぐ。ジェインは、まずエリザベスの意見を聞きたいといい、エリザベスがあからさまに暴露することはしなくてもいいとこたえると、ジェインも同意見であるという。こうして自分が秘密にしていたことを姉に打ち明けたことで、エリザベスの気持ちは落ちついたが、ジェインとビングリーの件については、2人が完全に理解しあうまで黙っている方がいいだろうと判断した。しかし、もし2人が完全に理解しあうことが実現すれば、そのときにはこの件についても2人の間で話し合われ、解決しているだろうから、話してもむだになるだろうとも思っていた。

 「エリザベスは我が家の日常生活に戻って、ゆっくりと姉の本心を観察することができた。ジェインは決して幸せではなかった。」(大島訳、387ページ) ジェインのビングリーへの想いは彼女の年齢や性格に見合った真剣さをもったものであっただけに、彼と離れている哀しみは強いものであったが、そういう内心の苦しみを他人になるべく感じ取らせないように配慮する気遣いも彼女は併せ持っていた。

 しかし、ベネット夫人は(自分がジェインの「失恋」の最大の原因であったことには気づかずに)ビングリーのふがいなさを攻撃したり、エリザベスにコリンズ夫妻の暮らしぶりを訪ねて、八つ当たりしたりしていた。〔ベネット夫人はもともとメリトンの事務弁護士の娘であり、地主階層の出身ではないのだが、浪費家で家事は使用人任せであり、隣のルーカス家(当主は、もともと商人であったのが、メリトンの市長をつとめ、爵勳士の称号を得た。長女のシャーロットがコリンズ牧師と結婚している)のつつましい暮らしぶりに批判的な口ぶりである。〕

 エリザベスがケントから、ジェインがロンドンから帰ってから1週間が過ぎ、次の週になったが、その週のうちにメリトンに駐在していた連隊がブライトンに移動することになっていたので、ベネット家のキティーとリディアをはじめ、近隣の娘たちは元気を失い始めていた。リディアはキティーとともに、ブライトンに一家で出かけることを強く主張し、ベネット夫人までもがそれを後押しした。そんな会話を聞きながら、エリザベスは自分の一家の軽薄さを恥ずかしく思い、ダーシーがジェインとビングリーの結婚に反対したのも無理はないと思いさえした。

 ところが、最近結婚した連隊のフォースター大佐の夫人が自分と仲の良いリディアをブライトンに招待したことで、事態は一変した。リディアは自分のことだけを考えて有頂天になり、招待をうけなかったキティーの不満も目に入らない様子であった。
 エリザベスは何とかこの招待を断らせようと思い、自分が悪役になることも承知で、父親にそのことを申し出た。しかし、意外にも父親はリディアのブライトン行きに反対しなかった。「頭の良さと皮肉なユーモアと無愛想と気紛れが奇妙に入混じった人物」(第1章、大島訳、20ページ)であるベネット氏は、「リディアはいずれどこか公の場で馬鹿をやらかして世間の物笑いに出もならないことには、どうせ治まりはせんのだろう」(大島訳、393ページ)と、ブライトンでリディアがひどい目にあうことを期待するような口ぶりである。

 エリザベスは、リディア(とキティー)の行状のおかげで、すでに家族が不利な立場に立たされているというのだが、ベネット氏はリディアの行状による世間の悪評のおかげで、ジェインやエリザベスに恐れをなすような若者はとるに足りないと〔たしかにこれは正論であるが〕受け付けない。エリザベスは必死になって説得を続けるが、ベネット氏はブライトンで大事件が起きることは予測できないと、エリザベスを納得させようとする〔エリザベスが知りえた様々の情報をそのまま父親に打ち明けるわけにはいかなかったのが、ここでのベネット氏の判断に影響している。実際には、エリザベスがすでに得ていて、父親に黙っていた情報から、予測が不可能ではなかった事件が起きて物語が大きく展開することになる。〕

 エリザベスと父親との会話の内容を、リディアとベネット夫人が知ったら、烈火のごとく怒ったであろう。「リディアの想像では、ブライトンに行きさえすればこの世の幸福はすべて味わえる筈であった。」(大島訳、396ページ) 彼女は、ブライトンで、士官たちと恋愛遊戯に耽る自分の姿を夢想していたのである。〔前回、書いたようにブライトンは、この作品では、19世紀の初めの「摂政時代」の都市的な浮ついた華やかさを象徴する場所として取り上げられている。〕

 連隊がブライトンに移動するということは、エリザベスがウィッカムと顔を合わせることが無くなるだろうということでもあった。ケントから帰った後も、彼女は彼と同席する機会があった。ウィッカムの正体を知ってしまったエリザベスにとって、彼はもはや心のときめきを覚えるような存在ではなくなっていたが、ウィッカムの方ではそうと知らずに、また彼女との関係を蒸し返そうとする様子が感じ取れたので、エリザベスにとっては余計不快であった。「どうやらウィッカムはエリザベスのことを、どんな理由でいくら長いあいだ素気(すげ)ない態度をとっていても、また優しい言葉を掛けてやれば虚栄心(vanity)と自惚れ(preference)からいずれきっと靡いて来る女だとも思い込んでいるようであった。尤もこの点に関しては、エリザベスも相手にそう思い込ませた自分に非があったのだと感じない訳には行かなかったが、ただその思いは飽くまでも胸中に押止めて、表には出さなかった。」(大島訳、397‐398ページ)

 連隊がメリトンに駐在するのもこれが最後という夜に、ウィッカムは他の士官たちとともにロングボーン(のベネット家の屋敷)にやってきて食事を共にした。エリザベスはウィッカムと機嫌よく別れようという気持ちもなかったので〔彼女がケントに出かけた時とは対照的な態度である〕、ウィッカムから(ケント州の)ハンズフォード訪問中のことを聞かれて、ダーシーとその従兄のフィッツウィリアム大佐が3週間ほど滞在していたといい、フィッツウィリアム大佐のことはご存知かとたずねた〔ウィッカムの弱みを間接的に突いたのである〕。ウィッカムは一瞬驚きと不快と不安の表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、大佐は立派な紳士であるといい、ダーシーとは違うだろうと付け加える。エリザベスは、たしかにちがうけれども、3週間一緒に過ごしているうちに、ダーシーについての印象もかなり変わったと切り返す。ウィッカムは自分の苦労話を持ち出して、エリザベスの同情を引こうとしたが、エリザベスは相手にしなかった。その結果、ウィッカムはエリザベスを特別扱いにしようとはしなくなった。「最後に二人は丁寧に挨拶を交して別れた。多分どちらももう二度と会いたくないというのが本音であったろう。」(大島訳、401ページ)

 会がお開きになると、リディアはメリトンに帰るフォースター大佐の夫人と連れ立って家を出た。翌朝早くブライトンに向かう予定だったからである。一緒にブライトンに行けないキティーだけが悔し涙を流していたが、残る家族との別れは何とも騒々しいもので、ベネット夫人は楽しめる機会はできるだけ楽しめと命令口調で言ったのだが、リディアの方は命令されなくてもそうするつもりであったのは明らかである。

 今回は第2巻17章と18章をまとめて紹介した。ちょっと長くなったかもしれないが、これからゆっくりと紹介したい箇所もあるので、急いでみていける部分は急ぐことにした。
 リディアのブライトン行きはなにかの事件の前触れとなりそうである。ベネット夫人の「命令」は非常識きわまりない。ベネット氏はリディアが不行跡をしでかして、反省することを期待する口ぶりであったが、リディアは父親の想定を超えた馬鹿である可能性も残されている…。
 昨夜はパソコン作業の最中に寝てしまい、皆様のブログを訪問することができず、失礼いたしました。これからも、同じようなことが起こりそうですが、どうかお見捨てなきようお願いします。
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