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ベーコン『ニュー・アトランティス』(15)

2月19日(水/雨水)晴れ

 この書物の著者フランシス・ベーコン(Francis Bacon, 1561-1626)はイングランドの政界・法曹界で活躍した政治家・法律家・文筆家であったが、今日では主としてその哲学的な著作によってその名を知られている。『ニュー・アトランティス』は彼の死後、未完の原稿として残された作品で、彼の理想とする自然科学研究のための施設とその研究成果を実用に移す施設の構想を描き出すこと、また理想的な法律・政治・経済体制をもった社会の見取り図を示すことであったといわれる。前者の構想は作品中の「サロモンの家」の描写によって果たされているが、後者については著者の死によって十分な形ではまとめられなかったとされる。
 物語は一人称で語られ、語り手はペルーから太平洋を渡って中国・日本にむかおうとして途中、強風に流されて未知の島にたどりついたというのが発端である。ベンサレムの島と自称するこの島の人々は、ソラモナ王による改革以来、鎖国政策をとっている一方で、「サロモンの家」という機関を設けて世界のあらゆる事物を研究し、研究成果の応用可能性を探っている。そして秘密裏に、外国の事情も探っているという。語り手は、「サロモンの家」の長老から、この施設の概要と仕事ぶりを聞くが、どのような施設があるか、研究員たちの任務はどのようなものかについて語られ、話も終わりに近づく。

 長老は、「サロモンの家」の目的、施設・設備、研究員たちの任務に加えて、そこでの法令と儀礼について語ると約束していた。他のことを語り終えて、いよいよ、最後の法令と儀礼について語ることになった。儀式と儀礼について言えば、サロモンの家には2本の長い、立派な回廊(galleries)がある。川西進訳では、「展示と礼拝に関して言えば、たいへん長く立派な会場が2つある」(64ページ)となっている。川西が「展示と礼拝」と訳しているのは、原文では”ordinances and rites"で「儀式と儀礼」の方が適切ではないか。
 回廊の1つには優れた発明品の模型と見本とが陳列され、もう一方の回廊には主要な発明家の像が飾られている。主要な発明家の中には、コロンブスや、「大砲や火薬を発明したお国の修道僧」(川西訳、65ページ、your monk that was the inventor of ordnace and gunpowder, 伝統的に火薬の発明者だと考えられていたロジャー・ベーコン(Roger Bacon, 1210 -1292)のことだと考えられる)、「印刷術の発明者」…なども含まれている。列挙されている発明の中には、金属工芸、ガラス工芸、養蚕と絹など発明者を特定できる性格のものではない事柄が含まれているのが奇妙である。
 とにかく、価値ある発明をした人々は、その像を建て、また多額の名誉ある報酬を与えられる。〔科学技術の歴史を振り返ると、そのような報酬を与えられなかった人々が少なくないことに気づくはずである。
 「サロモンの家」の人々は、毎日、彼らのやり方で聖なる歌を歌い、祈りを唱える。

 最後に、「サロモンの家」の人々は、研究成果の普及のために全国の主要都市を巡回する。また病気、悪疫、有害動物の大量発生〔そういえば、現在東アフリカでイナゴが大量発生して被害が出ているとのことである〕、飢饉、嵐、地震、洪水、彗星〔も災厄の一つだと、ベーコンは考えていたらしい。なお、エドモンド・ハレー(1656‐1742)がハレー彗星の軌道を計算してその出現を予言したのは18世紀のことである〕、年間の気候、その他さまざまなことがらについての予報を行い、それらの予防と救済のための助言を与える。

 ここまで言うと、長老は話を終え、語り手は彼に対して跪いて敬意を表した。長老は、島の外の世界の人々の利益となるように、この島で見聞したことを発表することを許すと述べる(これは、島の慣行を改めることである)。そして、彼は出て行き、語り手たち一行に約2,000ダカット(ducats ,むかしヨーロッパ大陸で流通していた金貨)の贈与金を与えてくれた。
 〔残りは未完〕

 初版本をはじめ多くの『ニュー・アトランティス』の刊行本は、この後以下の研究課題のリスト゚を付け加えている。表題の「自然の大いなる業」(magnalia naturae)は、「神の大いなる業」(magnalia Dei =奇蹟)と区別されると川西さんは書いているが、つまり、加賀の力で実現可能だと考えられる課題ということであろう。列挙されているものの中には、「サロモンの家」で研究されているものもあるので、その点に注意する必要もある。

 自然の大いなる業、人類に益となるものを中心に
寿命の延長
ある程度の若さの回復
老化の遅延
不治とされる病の治療
苦痛の緩和
不快感の少ない楽な下痢
体力、行動力の増進
苦しみ、痛みに耐える力の増進
体質、肥満体、痩身体の変更
身長の変更
容貌の変更
知的能力の増進と高揚 
生体の転換
新種の創造
異種間の接木
戦争、毒薬などの破壊道具
精気の活性化とその良好状態の保持
他人あるいは自分の身体に影響を及ぼす想像力
成熟の促進
清澄化の促進
煮出しの促進
発芽の促進
豊かな堆肥による土地の肥沃化
大気圧の影響と人工嵐
硬度、柔軟度などの大変更
水分を多量に含む原料から油性、脂肪性への物質の変化
現在用いられていない材料から新食料の抽出
合成繊維と紙、ガラスなどの新素材の製造
自然な方法による予知
感覚の錯誤
より大きな快感
人工の鉱物とセメント

 研究課題が実生活、社会での利用と結びついている点がいかにもベーコンらしい。その一方でベーコンが科学とその応用を、研究・開発に携わる人々と、その成果を利用するだけの人々という風に2つの社会層を想定して論じていることにも注意しておくべきであろう。

 以上でベーコンの『ニュー・アトランティス』の紹介を追える。繰り返しになるが、科学技術の応用による社会の改造という彼の志は興味深いし、よく伝わって来るけれども、理想の政治・法律・社会についての記述がなされないまま著者が死んでしまったのは残念である。この面でおそらく、ベーコンがモアやカンパネッラのような画期的な提言はしなかったと思われるけれども、それでもやっぱりどんなことを考えていたのかは知りたいのである。

 
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