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日記抄(1月22日~28日)

1月28日(火)雨

 1月22日から本日までのあいだに、経験したこと、考えたこと、これまでの記事の補遺・訂正等:

1月22日
 NHKラジオ『まいにちスペイン語』では、登場するアルゼンチン女性とガイド役の日本青年が北海道大学のキャンパス内にあるクラーク博士の銅像の前に立つ。有名な「少年よ大志を抱け」(Boys, be ambitious!)」という言葉を、スペイン語でいうと、”¡Chicos, id lejos, perseguid vuestros sueños!"(青年たちよ、成功をつかめ、夢を追え!)というのがふさわしいが、長くて複雑なので、放送では、英語からの直訳で”!Chicos, sed ambiciosos!"としておいた。というのは、スペイン語のambiciosoには「野心満々の、欲望むき出しの」という、あまりよくないニュアンスが含まれているからだとのことである。
 さて、”Boys, be ambitious!"を「少年よ、大志を抱け」と訳して、その精神を広めたのが、札幌農学校の1期生として、直接クラーク博士の薫陶を受けた大島正健(1859‐1938)で、彼は後に甲府中学(現在の山梨県立甲府第一高校)の校長になった。この学校で留年を繰り返していた生徒の1人が、そのおかげで大島に出会うことができ、彼の人格に触れて発奮し、ジャーナリスト、政治家として大成した。石橋湛山である。甲府第一高校には、石橋による”Boys, be ambitious!"の碑が残っているそうである。
 私の小学校時代の担任の先生の1人が厚木の方で、卒業してだいぶ経ってから先生を訪問した際に、大島正健の話題が出て、大島家というのは海老名の名門なんですよと教えていただいたことがある。

1月23日
 『朝日』の朝刊で、歴史家の樺山紘一さんがイスラム世界の多面性を理解すべきだという見解を示していて、少なくともアラブ、イラン、トルコの3つの部分に分けられると説いていたのは、北アフリカやその他のアフリカ、東南アジアのイスラーム世界をどのように位置づけるのかという問題に答えていないとはいうものの、なかなか説得力のある意見だと思った。英国の歴史家のエリック・ホブズボームがその晩年に、「アラブの春」は彼の生涯で出会ったいちばん大きな出来事だと語っていたのに比べると、歴史の動きを正確に見ている意見ではないかと思うのである。

 同じく『朝日』に「ジャワ原人」についての最近の研究の様子が紹介されていた。われわれが若いころは、ジャワ原人や北京原人は我々の先祖だと思われていたのが、現在では別の種であるということになっている。しかし、だからと言ってその研究が意味がないということにはならないのである。

 NHKラジオ『まいにちスペイン語』応用編「すばらしきラテンアメリカ」で、登場人物たちはベネズエラ西部の町メリダを訪問する。アンデスの山間にあるこの町は、首都カラカスのベネズエラ中央大学とならんで、ベネズエラを代表する学府であるロス・アンデス大学などがある学生の街・文化都市であるという。この日の『朝日』では、「ベネズエラ 続く混迷」として政権の正統性をめぐるグアイド派とマドゥロ派の争いによる混乱が取り上げられていた。メリダの町の現状はどのようなものなのだろうか。

 NHKラジオ『実践ビジネス英語』の”Quote...Unquote"で取り上げられた言葉:
The advancement and diffusion of knowledge...is the only guardian of true liberty. (from Letter to George Thomson)
           ―― James Madison Jr. (4th U.S. president, 1751 - 1836)
 知識の進歩と普及のみが…真の自由を守る。
 マディソンは合衆国建国の父と呼ばれる人々の中で最後まで生きていた人物であり、合衆国憲法の制定に大きな役割を果たした。アメリカ合衆国各地に、彼の名前を付けた地名が見いだされる。また彼の妻のドリーは、彼女を讃えた言葉から、ファースト・レディーという言葉が生まれたといわれるほどに、人気があったそうである。

1月24日
 『東京』の投書欄「発言」・「若者の声」にある高校生の、日本の社会は「遅刻にはうるさい半面、終了時刻を守らないことには”寛容”だ」という意見が掲載されていた。会議をだらだら長引かせることが好きな人というのはいないかもしれないが、知らず、知らず、そうしている人は少なくないかもしれない。

1月25日
 『朝日』朝刊の「耕論」:「『上級国民』流行する国」をめぐる社会学者の吉川徹さん、歴史学者の與那覇潤さん、歌人の山田航さんの三者三様の意見の開陳が読みごたえがあった。
 吉川さんの意見で現在の日本では「『上から目線』は冷ややかなのに『下から目線』は暖かいという傾向がある」、「不満や批判を強めるよりむしろ『エリートは頑張って』とお任せ状態で委任を与えているように思え」るという指摘が腑に落ちるところがあった。にもかかわらず、池袋の事件では「下から上層を見るまなざしが、これほど批判的な熱を帯び」たことを問題にしている。
 與那覇さんは「上級国民という言葉の使われ方には、独特のひりひりした感覚が伴ってい」るという。そこにあるのは、単なる階級意識にとどまらない悪意だとさえ言っている。というのは、この言葉遣いには「階級に欠かせない『われわれ』意識がそこにはない」からである。むき出しの『私』が「上級国民」を攻撃している。〔しかし、そういう「私」もある社会階層に属し、その社会的経済的な制約を背負って、自分の意見をぶつけているわけである。〕
 最後に山田さんは、カタカナ言葉が飛び交う中で、「上級国民」などという漢語が盛んに使われることに違和感を感じながら、「現在、さまざまな制度についてコミット(参加)できる、アクセスできる「権利」をもつこと自体が「特権」である、と考える層が増えているのではないでしょうか」と問うているが、その「特権」をもつことができる一歩か二歩手前で挫折した経験を持つ人々が増えているということであるのかもしれない。
 これらの点をめぐっては『日経』の「経済論壇から」で「格差拡大にどう対応するか」という見出しのもとに土居丈朗さんがまとめている民主主義と平等をめぐるアマルティア・センさんと、猪木武徳さんの議論なども合わせ読むといいかもしれないし、さらに同じ『日経』の読書欄で紹介されているマイク・サヴィジ『七つの階級』なども読んでみるといいのかもしれない。

 同じ土居さんの論評の中で、オックスフォード大学の苅谷剛彦さんが現在の大学入試改革をめぐり、「これまでの教育実践の蓄積から帰納して政策を建てるという発想は封じられ、実態把握を欠いたままでも、つぎつぎと教育政策の言説を生産する演繹型思考によって政策立案されてしまった」という洞察を展開していることが紹介されていて、非常に興味深かった。これは、入試をめぐってだけでなく、教育政策全般についてもあてはまる議論ではないだろうか。教育政策の策定に先立って、大規模な調査が行われた例というのをあまり聞いたことがない。
 さらに、中央大学の阿部正浩さんが、現在、敬遠されがちな職業の多くが、イメージだけで判断されているが、実はプロとしての高度なノウハウが求められているし、社会的意義もあるということが求職者に知られていないと論じているという。この苅谷さんと阿部さんの議論は、高等教育への入り口と出口をめぐる議論であって、その間の過程についても議論がもっと深まることを期待したいところである。

 同じく『朝日』朝刊にアウシュビッツ解放75年を記念する式典がエルサレムで開かれたという記事が出ていた。ドイツの大統領が「歴史から学んだと言えたらよかったが…」と複雑な胸中を吐露する発言をしたという。ナチスによる迫害の被害者であったユダヤ人の国家であるイスラエルが、パレスチナ人を抑圧しているという現状をどのように考えるかというのは、重い問いである。

 同じ『朝日』朝刊に、北京大学経済学院の教授である蘇剣さんの中国の人口統計が信用できず、その人口がすでに減り始めているのではないかというインタビューが出ていた。他山の石とすべし。

1月26日
 『日経』の朝刊で宮下志朗さん(このブログでも取り上げたラブレー『ガルガンチュワ物語』の翻訳者の1人である)が、「ある田舎貴族の日記」という文章を書いている。16世紀のフランスを生きたジル・ピコ・ド・グーベルヴィル(c1521-78)というノルマンディー最北部のコタンタン半島、シェルブールの近郊で暮らした貴族で、リンゴ栽培に情熱を注ぎ、日記にはシードルを蒸留した旨の記述があることから、現代では「カルヴァドスの父」とも呼ばれているという。実は、シャルル・ボワイエとイングリッド・バーグマンが共演した『凱旋門』という映画を見て以来、カルヴァドスは親しんできた酒で、このところ、飲んでいないが、機会があったら飲んでみたいと思っている。彼は、自分の館から外に出ることがあまりなく、そのため後世の歴史家から「出不精な田舎貴族」などと言われたが、毎日の出来事をありのままに、経済生活を中心につづった日記は、その目立たない日常のたんたんとした記述のために魅力のあるものになっているという。

 佐藤郁哉『大学改革の迷走』(ちくま新書)について、『毎日』で松原隆一郎さん、『読売』で苅部直さんが論評している。同じ日に同じ書物の書評が2紙以上で取り上げられるのは珍しいことではないが、約50年間にわたって、文部(科学)省が展開してきた高等教育政策がどう考えても〔この間に新設された「新構想大学」が、筑波大学を除いて、世界の大学ランキングの上位に顔を出していないという事実を見れば明らかなように〕、失敗だったというあまり愉快ではない事実と向き合うべき時が来ているということである。
 
1月27日
 『朝日』朝刊に同紙が河合塾と共同で実施している日本の大学を対象とするアンケート調査の結果が発表されていて、多くの大学人が私立大学が多すぎると感じていることが示されていた。

 『東京』の連載漫画・青沼貴子さんの『ねえ、ぴよちゃん』は本日でちょうど1000回を迎えた。小学校から下校するぴよちゃんと、それについてきた猫の又吉。風が強いので、又吉が風よけになろうとすると、風に飛ばされてしまい、結局、ぴよちゃんのランドセルの中に入れてもらうというもの。この漫画、登場人物が笑いの質が他愛のないものが多く、登場人物が笑顔で描かれている場面が少なくないところが好きである。さらに、連載が続くことを望む。

 『日経』朝刊に青山学院大の耳塚寛明さんが日本の子どもの読解力の低下の問題について書いていたのが、論点整理に役立つ論考であった。要するに、PISA調査で問題にされているのは一般的な読解力ではなく、IT時代に必要な読解力であるということで、この点を混乱して解釈してはならない。

1月28日
 『東京』の「本音のコラム」でルポライターの鎌田慧さんが「生活保障なき経済大国」という文章を書いている。最近、財界のえらい人たちが「生涯雇用」(終身雇用の方が一般的な言い方ではないか)、「年功型賃金」による「家族主義」的な経営=「日本的経営からの脱却」を唱えているが、そのなかで、「日本的経営」のもう1つの重要な柱であった「企業内組合」も変質を余儀なくさせられているが、それでいいのだろうかという論旨である。これは見落とされがちな論点なので、あえてここで注目を喚起しておきたい。

 『日経』に短期連載中の「装いがまとう意 十選」第7回は、藤沢の清浄光寺(=遊行寺)所蔵の後醍醐天皇の肖像を取り上げている。この図は、網野善彦の『異形の王権』の表紙にも使われたりして、『太平記』と南北朝時代の歴史に関心のある人々にはおなじみのものであるが、後醍醐天皇の即位灌頂の印明伝授者は関白・二条道平であったという記述が印象に残った。道平は、このブログにしばしば登場する二条良基の父親である。
 このブログで取り上げようと思って、機会を見失っていたのだが、1月17日に国文学者の岩佐美代子さんが亡くなられていた。京極派・北朝の歌人の研究者として独自の境地を築かれた方である。『太平記』や『増鏡』に関心を持つものとして、その業績については詳しく論じるべきなのであるが、浅学のためその域にいたらない。まだまだ努力を続けなければならないし、残された寿命の中で、なんとか頑張っていくつもりである。 
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大島正健先生

22日の日記にある大島正健先生は、わたしの恩師(高校時代に出合った)飯田利行先生の恩師であった。飯田先生は漢文の教師であったが、授業の中でか個人的にだったか忘れたが、飯田先生の研究、中国語音韻学(飯田先生はこの研究で博士号を授与されている。)の先生が大島正健だったことを話され、ボーイズビーアンビシャスの件も話されたのであった。飯田先生は心から大島先生を尊敬されていた。(ウィキペディアで確認できたが、飯田先生と大島先生の出会いは文理科大学(東京教育大学の前身)だったようだ。ところで面白いことを一つ。飯田先生は何度も言われたが、研究で必要なのは、「運」「鈍」「根」だと。「ビー・アンビシャス」ではなかった。「運」はもちろん、大島先生との出会いであろう。「鈍」は自分も君たちもということであったろう。「根」はご自分の根気よくつづけた研究を言ったのであろう。私も運鈍根に恵まれているなあと思っている。

アラブ、イラン、トルコ

23日の日記で言われているイスラム世界の捉え方について、もう少し言わせてください。本当に、3流とまでは言われずに2流くらいの大卒でさえ中東すなわちアラブとしか頭に無いようなおバカが多いと思われます。ここでイスラム教的にもアラブだけではないという認識が重要なのは、コーラン(クルアーン)は、アラビア語のままであってこそのものであって、一般のムスリムがコーランを読むというのは、アラビア語のものを意味も分からずに唱えることを意味します。日本のキリスト教徒が聖書を読むのとは全然違います。イランはペルシャ語、トルコはトルコ語であって、アラビア語とは全然違うので、アラビア語を話し読み書きするアラブ人がイスラム教に接するのとはだいぶ違うはずです。アフガニスタン・パキスタン・インド・バングラデシュ・マレーシア・インドネシア等、そういう意味でトルコやイランと同質性があるはずです。
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