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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(22)

12月8日(日)晴れ

 エリザベスがサー・ウィリアム・ルーカスとその娘マライアとともに、ケント州のハンズフォードの牧師館のコリンズ夫妻(コリンズ夫人シャーロットは、サー・ウィリアム・ルーカスの長女であり、この物語のヒロインであるエリザベスの親友である)のもとに到着した翌日、コリンズ氏の庇護者であるレディー・キャサリン・ド・バーグから晩餐への招待があった。コリンズ氏はこの招待が早々となされ、しかも晩餐への招待であったことにいたく感激して、そのことをほかの人々に吹聴した。そしてコリンズ氏はこの招待に応じる際の心得について入念に話して聞かせたのである。

 天気が良かったので、一同はレディー・キャサリン・ド・バーグの邸宅であるロウジングズ・パークの庭を半マイル(0.8キロ)ほど歩いて、屋敷に向かった。こういう訪問になれないマライアは緊張のあまりおびえた様子を見せ、サー・ウィリアム・ルーカスでさえ完全に平静な状態ではいられなかったようであるが、エリザベスは落ちついていた。レディー・キャサリンが地位と財産を持っているだけの人物であるならば、それほど恐れるような存在ではないと思ったからである。

 玄関広間(the entrance hall)に入り、召使たちに案内されて一同はレディー・キャサリンと令嬢とジェンキンソン夫人が座っている部屋に入った。「令夫人は大いに気さくなところを見せて椅子から立ち上がり、皆を迎えた。紹介の役目はミセズ・コリンズが引き受けることに夫婦相談の上で決まっていたので、皆の紹介はいたって簡潔かつ適切になされた。」(大島訳、281ページ) もしコリンズ氏が紹介していたら、紹介は必要以上に長引いていたであろう。

 サー・ウィリアムはセント・ジェイムズ宮殿に伺候した経験があるのに、豪勢な部屋の様子にすっかり圧倒されてしまい、かろうじて一礼しただけで、一言も発することなく席についた。マライアは茫然自失の体(てい)であったが、エリザベスは目の前の3人の婦人を冷静に観察することができた。
 レディー・キャサリンは背の高い、大柄な女性で、かつては綺麗だったろうと思われる、くっきりとした目鼻立ちをしていたが、口のきき方が高飛車で、尊大な性格の持主であることがすぐにわかった。エリザベスは、ウィッカムの発言を思い出し、レディ-・キャサリンが彼の言うとおりの人物であると思った。また、その表情や挙動がどことなくダーシー氏に似ていることにも気づいた。
 一方、令嬢の方は母親にまるで似ておらず、痩せて小柄で、病弱な感じで、目鼻立ちも目立ったところはなく、ほとんど口もきかなかった。ただ、ときどき、ジェンキンソン夫人に何か話しかけるだけであった。ジェンキンソン夫人は令嬢の話を聞き、その健康に気を遣うことに専念していた。

 晩餐はきわめて豪勢なものであったが、食卓の下座について主人役を務めることになったコリンズ氏はこの扱いに満足して、さもうれしそうにいそいそと皆に肉を切り分け、自分も食べ、褒め言葉を口にした。「どの料理もまず コリンズが褒め、次にサー・ウィリアムが褒めた。サー・ウィリアムも今では娘婿の云うことを何でも鸚鵡返し出来る程度には落ち着きを取り戻していた。こんな褒め方をされてレイディー・キャサリンはよくも我慢が出来るものだとエリザベスは不思議でならなかった。だが令夫人はどんな褒め過ぎの言葉にもご満悦の体で、特に食卓に出た料理がみなにとって大変珍しいものであることが判ると、いかにも嬉しそうににこにこしていた。食卓の会話はあまり弾まなかった。」(大島訳、283ページ) エリザベスは話の糸口があれば口をききたいと思っていたが、座っている場所も、会話の内容も、彼女が口を利く機会を与えるようなものではなかった。〔会話を楽しむタイプの性格であるエリザベスには、形式的な追従だけのやりとりが満足できなかったということである。〕

 「晩餐が済んで、婦人たちは客間へ戻ったが、レイディー・キャサリンの話を拝聴する以外に何もすることはなかった。令夫人は珈琲が出るまでのあいだ片時も口を休めず、どんなことにでも決めつけるような口調で意見を述べた。それは、日頃自分が何を云っても反対されることのないひとの物云いであった。」(大島訳、284ページ) シャーロットによる牧師館の家事について彼女は細かい助言を与えた。「エリザベスには、この貴婦人が、他人に指図する機会を与えてくれるものなら何一つ見逃さない人であることが判った。」(大島訳、同上)
 レディー・キャサリンはコリンズ夫人(シャーロット)との話の合間にときおりマライアとエリザベスにも話しかけ、特にエリザベスにいろいろと質問した。彼女はエリザベスがどのような成り行きでこの一座に入っているのかほとんど知らなかったが、エリザベスについては「たいへん淑やかで綺麗な娘さんだ(a very genteel, pretty kind of girl)」(大島訳、同上)と、コリンズ夫人にその印象を語った。この発言を、小尾訳では「たいそう礼儀正しい、きれいなお嬢様」(小尾訳、292ページ)と訳していて、大島訳と大差はないが、齋藤秀三郎の『英和中辞典』によるとgenteelは「(賤しき身乍ら)上品な、人柄好き、紳士(貴女)らしき」ということで、レディー・キャサリンがエリザベスを見下していることが読み取れる。

 レディー・キャサリンはエリザベスに向かって、姉妹は何人いるか、彼女よりも年上か年下か、姉妹の中に結婚しそうな人はいるか、姉妹たちは美人か、教育はどこで受けたか、父親はどんな馬車を持っているか、母親の旧姓は何というのかなどと質問をした。エリザベスはずいぶんと不躾な(原文はElizabeth felt all the impertinence of her questionsで、指図好きのレディー・キャサリンは本来ならば質問を差し控えるような立ち入った事柄にまで質問しているということである)ことを聞くものだと思いはしたが、冷静に答えていた。〔以上第2巻第6章=第29章の途中まで〕

 詳しく展開をたどる必要があるので、今回もあらすじは省略した。大島訳はladyをレイディー、mistressをミセズなど、英語の発音に忠実に移そうとしていることがお分かりいただけたかと思う。噂だけでご本人が姿を見せてこなかったレディー・キャサリン・ド・バーグが登場し、まだのこっている人物はいるが、主要登場人物はほぼ顔をそろえた。この後、レディー・キャサリンはエリザベスとその姉妹たちの教育をめぐってさらに質問をして、自分の意見を述べる。ペンギン・クラシックス叢書のヴィヴィアン・ジョーンズの注によると、その内容は当時(19世紀初頭)における女子教育をめぐる主な問題に触れるものだというので、次回、少し詳しく見ていくことにしようと思う。この物語に登場したビングリー姉妹は学校(seminary)で教育を受けているが、レディー・キャサリンは学校教育には賛成していないようである。そういうことを含めて、また、次回。
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