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ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』

12月6日(金)曇り

 12月3日、ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』(創元推理文庫)を読み終え、12月4日に同じ著者の『ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密』(創元推理文庫)を買って、12月5日に読み終えた。引き続き、シリーズ第3作である『ヴァイオリン職人と消えた北欧楽器』(創元推理文庫)を読んでやろうと思っているところである。

 イタリア北部ロンバルディア州のクレモナはローマ時代からの歴史を持つ都市であるが、近世にグァルネリ、アマティ、ストラディヴァリといった弦楽器製作の名匠が現れ(その多くが、一族で製作に携わった)、現在もその伝統を伝えている。
 語り手であり、主人公でもあるジョヴァンニ(ジャンニ)・カスティリョーネはクレモナで生まれ育ち、子どものころにヴァイオリン演奏を習ったが、自分の限界を知って、弦楽器職人のバルトロメーオ・ルフィーノの徒弟になり、彼のもとで9年間修業して独立した。弦楽器を製作する傍ら、古い楽器の修理に取り組み、むしろ修理の方で名声をえるようになった。妻に先立たれ、子どもたちとは別居して、クレモナ郊外の工房で仕事に励む彼の楽しみは、月に一度、仲間たち、同じ弦楽器職人で元はオーケストラのひらのヴァイオリン団員だったトマソ・ライナルディ(第一ヴァイオリン)、アリーギ神父(ヴィオラ)、クレモナ署の刑事である(ジャンニの息子の友だちでもある)アントニオ・グァスタフェステ(チェロ)と弦楽四重奏を楽しむことである。

 4人で演奏と、ワインと、おしゃべりを楽しみ、トマソとアリーギ神父が帰った後、残る2人は会話を続けていたが、そこへトマソの妻のクラーラから、トマソがいつまでたっても帰ってこないという電話がかかってくる。2人(ジャンニとアントニオ)は心当たりを探し、さらにトマソの工房を覗いてみるが、そこで見つけたのはトマソの死体であった。なぜ、彼は帰宅せずに工房に戻り、しかも死体で発見されることになったのか…。

 どうやら、この事件には、トマソがその前から”メシアの姉妹”と呼ばれる幻のヴァイオリンを探していたことと関係がありそうである。「メシア」あるいはフランス語の「ル・メシー」はストラディヴァリがその絶頂期にあった1716年に製作したヴァイオリンで、何人かの収集家の手を経て、オックスフォードのアシュモリアン美術館に収蔵されている。ほとんど演奏されたことはないが、ヨーゼフ・ヨアヒムが1891年に少しだけ弾いたという。それと同じ価値のある、完ぺきで手を加えられていないストラディヴァリのヴァイオリンがあれば、とほうもない値がつけられるだろう。

 事件の性格から見て、ヴァイオリンについての専門的な知識が必要なので、アントニオの仕事をジャンニが手伝うことになる。トマソは、そのヴァイオリンについての何らかの情報を手に入れ、探し出そうとしていた。そして殺される2日前に、ヴェネツィアに住んでいる有名なヴァイオリン収集家のエンリーコ・フォルラーニという人物と接触していたことが分かり、ジャンニとアントニオは、フォルラーニに会いに出かける。フォルラーニはヴァイオリンの収集以外にはほとんど金を使おうとしない奇人であった。2人がもう一度フォルラーニに会おうと彼の家に出かけると、彼は殺されていて、彼が収集したヴァイオリンの中から”蛇の頭のマッジーニ”と呼ばれるヴァイオリンが盗まれていた。他の(もっと高価なものもあるのに)ヴァイオリンが手をつけられた様子がないのも不思議であった。これら2件の殺人事件の犯人は何者なのか。そして幻の名器は見つかるのか・・・?

 「職人仕事の世界はとくに神話づくりをしがちであり、とりわけそれをうながすところである。皮肉な人間なら、そうすれば値段を吊り上げておけるからだと言うだろう。美術品ディーラーは失われたラファエロが、ファン・ゴッホが、どこかの変わり者の老貴婦人の屋根裏部屋からほこりにまみれてあらわれた話をする。音楽学者は未知のシューベルトの交響曲が、長く紛失していたモーツァルトの楽譜が、とある無名のコレクターの書斎から劇的な経緯で見つかった話をする。そしてヴァイオリン職人は”ル・メシー”、すなわち、完璧な、誰も弾くことのない、値段のつけられないストラディヴァリの物語を語るのだ。」(47ページ) つまり、この作品は殺人事件の犯人探しとともに、宝探しの物語でもある。そういう二重の面白さがある(いやそれ以上かもしれない)。
 この二重の捜査のために、ジャンニとアントニオは走りまわる。名前を付けられ、その存在について特定されてきた有名なヴァイオリンが、いつ、だれの手にあり、誰の手に渡されたかを記す古文書を探し、探し当てるとそれを手掛かりとして、また別の文書を探すというような現在と過去の往復が続けられる。これがこの作品(シリーズ)の特色の一つである。歴史的な事実がもとになっているが、適当に虚構が織り込まれている。両者が適当に混ざり合っているところに、この作品の面白さがある。

 作者のポール・アダムは英国人で、イタリアを舞台とした推理小説を書くというのはかなりの知識を必要とするはずだが、イタリアについて、あるいは音楽について、特にヴァイオリンについての知識はなかなかのものである(本当に詳しい人が読んだら、どんな感想を持つか、聞いてみたいところがある)。二重の捜査と書いたが、あるいは三重かもしれず、語り手が徒弟として弦楽器造りを習ったルフィーノという職人は、実は名器の贋作づくりという裏の顔を持っており、そのことがこの作品にもう一つのスリルを与えているところがある。謎が謎を生んで展開していく読み応え十分なミステリーである。
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