FC2ブログ

ルーカーヌス『内乱――パルサリア――(上)』(4)

11月16日(土)晴れ、三ツ沢グランドの陸橋付近から富士山が見えた。

 紀元前1世紀のローマ、カルタゴとの戦いに勝利するなど、軍事的な勝利によって国家の規模が拡大する中で、強力な指導者を求める動きが強くなって、共和政が動揺を始めていた。そのなかで、東方での戦争に勝利した閥族派のポンペイウス、スパルタクスの反乱を鎮圧した大富豪のクラッスス、名門の出身ながら民衆派の指導者であったマリウスの義理の甥にあたることから民衆の支持を集めているカエサルの3人が第一次三頭政治を組織して(紀元前60年)、ローマに安定をもたらす。しかし、クラッススがパルティアとの戦いで敗死した(紀元前53年)ことから、残る2者の対立が激化する。ガリアの地にあるカエサルに対し、ローマにあったポンペイウスはカエサルを警戒する元老院への同調を強める。このような背景から、この叙事詩の主題となった「内乱」が始まる。
 詩人は「内乱にもましておぞましい戦、正義の名を冠された犯罪」(第1巻第2行、17ページ)とこの叙事詩の主題を示し、彼の時代の皇帝であったネロに叙事詩の完成への助力を求めたあとで、内乱の原因についてあれこれと探索する。その中で、「同輩を許容せぬ」権力に焦点が当てられ、過去の英雄ポンペイウスと、日の出の勢いのカエサルという両雄のあり方が、「樫の古木」、「雷電」に譬えられて描き出される。
 ガリアにあったカエサルは、警告、制止するローマの幻影を振り切って、ルビコン川を渡る。境界の都市であるアリミニウムに侵攻したカエサルに、ローマを追われた「舌を金で売る」蛮勇クリオが合流する。

 クリオは、(もともとは閥族派であったが、莫大な負債で窮地にあったところをカエサルに助けられ、その味方に転じたのである)自分が元老院でカエサルに有利な提案をしたものの、追放されてしまった次第を語り、ポンペイウスと元老院がまだ十分な準備を整えていないうちに、ローマに侵攻して支配権を奪おうと勧める。
「・・・兵乱で法が沈黙を強いられた今、
我らは祖国の家居(いえい)から放逐され、追放の憂き目をみている。もっとも、
それは望むところ。あなたの勝利が我らを(再び)市民にしてくれよう。
敵の一派が、いまだ兵力の増強も叶わぬまま、戦戦恐恐としているうちに、
遅滞を断ち、ただちに行動を。備えある者には、遷延(せんえん)は禍(わざわい)となるのが常。
(第1巻277行‐281行、35ページ)
 ガリアにおける連戦連勝の勢いをそのままに、ローマに進軍・陥落させることは容易なはずだ。ポンペイウスと権力を二分することなどできない。
・・・もはやあなたには
世界を二分し、分かち合うことはできぬ。あなたにできるのは、
ただひとりそれを支配すること」。(第1巻290‐292行、36ページ)

 この言葉を聞いて、兵士たちは騒ぎ始めるが、カエサルは決意をいっそう固め、兵士たちに静粛を命じると、彼らに向かってその決意を述べ、兵士を鼓舞する演説を行う。カエサルの軍は、ガリアにあって、ローマのために戦ってきた。しかるに、ローマは彼らを追放処分にした。ローマにいるマルケッルス、カトー(小カトーである)、ポンペイウスらは恐れるに足りない相手である。特にポンペイウスは、閥族派の頭領としてローマを恐怖によって支配したスッラの弟子である。いまこそ、正義を取り戻すために、ローマに進軍するのだ。
「・・・我らには、
必ずや神々も味方したまおう。武器を取り、我らが目指すのは
鹵獲の品でもなければ、王権でもないからだ。
我らは排撃するのだ。隷属へと靡く都から、暴君を。」
(第1巻352‐355行、40ページ)
 「鹵獲」というのは敵の軍用品などを奪い取ることであり、カエサルはローマ攻略が正義をとり戻すことを目的としていて、略奪や権力への野望によるものではないという。この辺りは真意が測りにくいところがある。

 兵士たちはさすがに、ローマに進軍するというカエサルの決意を聞い躊躇の色を見せるが、百人隊長ラエリウスが忠誠と、ローマの破壊をも辞さぬ覚悟を語って兵士たちを煽る。
「・・・我らには、当然のことながら、
あなたの命に従いたいという誠の願いもあり、命を遂げる、
それに劣らぬ大きな力もある。あなたが討てと命じる喇叭(ラッパ)の合図を聞けば、
討つ敵が誰であれ、わが同胞(はらから)とは思わぬ。・・・
(第1巻377‐380行、42ページ)
・・・
あなたがどの城壁を毀(こぼ)って地に敷くのを望もうと、
この腕で破城槌を押し進め、石壁を瓦解させて見せよう、
破壊せよとあなたの命じるその都が、よしローマであろうとも」。
(第1巻389‐391行、43ページ)
 このはげしい言葉に、兵士たちは全員歓呼して鬨の声をあげた。

 こうして、兵士たちが自分の決意に同意したことを確認したカエサルはガリア全土に展開する部隊を呼び寄せる。
 カエサルは、戦が兵士らにそれほどまでに歓迎され、
運命が順風を送って後押ししていると見て取るや、
フォルトゥナの歩みを優柔不断で遅らせまいと、
ガリア全土に展開させていた部隊をただちに呼び寄せ、
八方から旗幟を前進させて、ローマを目指した。
(第1巻398‐402行、なぜか、下段の行表示が400の後、415になっている)
 本来ならば、ガリアの地で戦うべき兵隊たちが、ローマに進軍しようとするカエサルの軍に合流するために大挙してひきあげてくる。フォルトゥナ(Fortuna)は「運命の女神」(運命という語が女性名詞だということによる)であるから、「運命…フォルトゥナ…」というのはどういうことかと思って原文と英訳とに当ってみたが、大西さんが「運命」と訳しているのは、一般的な名詞としての運命であり、「フォルトゥナ」と訳しているのは、運命の女神という意味であるので、この訳詩わけは適切なものであるようだ。
 申し遅れたが、ガリアというのは、大体、現在のフランスにあたる(この叙事詩を読んでわかるように、北イタリアも含まれている)。フランス人はガリア人Gauloisの子孫だと思っている。ガリア人はケルト系の民族であったと考えられているが、フランス語はローマ人の話していたラテン語の流れをひいている。 
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR