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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(18)

11月10日(日)晴れ、温暖

 19世紀の初めのイングランド、ロンドンの北に位置するハートフォードシャーのロングボーンという村の地主ベネット氏にはジェイン、エリザベス(エライザ、リジー)、メアリ、キャサリン(キティー)、リディアという5人の娘があった。この家系の決まりで、財産は男系相続であったので、ベネット氏の財産は5人姉妹には継承されず、そのため5人のうち1人だけでも裕福な紳士に嫁ぐことがベネット夫人の念願であった。
 ジェインはロングボーンの近くのネザーランドの邸宅を借りたビングリーという北部出身の紳士と親しくなり、その姉妹とも交流するようになる。ビングリーの親友だというダーシーという紳士は、ビングリー以上の大富豪だという噂であるが、その高慢な態度に反感を抱く人々もいる。エリザベスは舞踏会で彼が自分に対し失礼な発言をしたのを聞いていて、偏見を持ち続けている。しかし、ダーシーの方ではエリザベスの美しい瞳と茶目っ気のある態度に次第に関心を寄せるようになっている。
 ロングボーンの財産の相続人であるコリンズという青年が、ケントの大地主であるレディー・キャサリン・ド・バーグの恩顧を受けて教区牧師の地位を得たのを機会に、ベネット一家と和解したいとロングボーンを訪問する。安定した地位を得た彼は、美人で気立てがいいという評判のベネット家の5人姉妹のうちの1人と結婚して、事態を収めたいと考えている。そして、エリザベスに白羽の矢を立てる。だが、エリザベスは、この尊大さと卑屈さが入り混じり、退屈な男性を好きになれない。
 エリザベスはロングボーンの近くのメリトンの町で、この地に駐屯する国民軍の将校であるウィッカムという青年に出会い、好意を持つ。彼はダーシーと子どものころからの知り合いで、牧師になりたいと思っていたが、ダーシーの干渉でその地位を得られなかったのだという。ビングリーの借りているネザーランドの邸で開かれた舞踏会でエリザベスはウィッカムと踊るところをダーシーに見せつけようと思っていたのだが、なぜかその会にウィッカムは現れず、最初の2回分をコリンズと踊ることになる。そして、ぼんやりしていたところ、ダーシーから踊ることを申し込まれ、2人で踊ることになったが、彼の前に立たされてみると、「何やら自分が偉くなったような気がして驚いた」(大島訳、164ページ)。ダーシーのエリザベスへの気持ちと、彼女がウィッカムに惹かれていることを知っているミス・ダーシー(キャロライン)は、ウィッカムの父はダーシーの執事だったのだと彼女に「忠告」する。夕食の席でベネット夫人はルーカス夫人に向かい、自分の上の娘2人が近々結婚することになりそうだと大声で自慢し、さらにダーシーに対して失礼な態度をとり、エリザベスをひやひやさせる。
 コリンズがエリザベスに求婚し、エリザベスは断るが、さらに執拗に迫ってくるコリンズの態度に辟易する。そして父親の助力を借りて、やっとコリンズに求婚を断念させる。メリトンの町でウィッカムにあったエリザベスは、彼が自制してダーシーと会わなかったという言い訳を聞き、ますます彼に好意を持つ。一方、ジェイン宛にミス・ビングリーから手紙が届き、ビングリー家がロンドンに移ったと知らされる。エリザベスの気持ちが自分に向かってこないことを悟ったコリンズは、ベネット家の隣のルーカス家の長女であるシャーロットに興味を移し、そして彼女に求婚して、成功する。親友であるシャーロットから、結婚の話を聞いたエリザベスは驚く。(以上22章まで)

 シャーロットからコリンズと結婚すると聞かされたエリザベスは、家族のものにどのようにしてその話をするか考えていたが、それよりも早く、シャーロットの父であるルーカス卿がベネット家を訪問した。娘に頼まれて彼女とコリンズとの結婚について報告するためである。ベネット夫人と妹たちは耳を疑い、そんなことは起こりえないと言い張ったので、エリザベスはやむなく、シャーロット本人からそのことは聞いたといって、お祝いの言葉を述べ、ジェインもすぐにそれに加わった。
 ようやく事態を呑みこんだベネット夫人は大いに腹を立て、エリザベスとは1週間ほど口を利こうとせず、ルーカス夫妻に礼儀正しく接することができるようになるのに1か月ほどかかり、シャーロットをどうにか許せるようになるのには数か月を要した。

 これに比べると、ベネット氏の方は落ちついた態度でこの知らせを聞いた。そしてシャーロットは頭のいい女性だと思っていたが、自分の妻と同じくらい馬鹿で、エリザベスよりもはるかに馬鹿だということが分かったと皮肉な感想を述べた。〔ベネット氏は地主(上流階級に属する、といってもその最底辺に近い方にいる)、事務弁護士(中流階級に属する)の娘である現在の夫人とその美貌に惹かれて結婚したのだが、その結果は決して幸福なものではなかった(まったく不幸なものでもなかった)ということが、事態の推移と関係している。〕
 ジェインはこの結婚を喜び、二人の幸福を願い、エリザベスがそれは無理な話だといっても聞く耳を持たなかった〔他人の悪い面、否定的な面に目を向けないのが、ジェインの特徴で、オースティンはそのことをあまり肯定的に見ていないが、それはそれでいいことではないかと、私は思う〕。
 キャサリンとリディアはコリンズが牧師であり、軍人ではないので、噂話のタネ以上には、この婚約を受け取ることができなかった。〔メアリーのことが書かれていないのには、作者の計算があるのだろうか?〕
 「ルーカス令夫人は娘に良縁を得たことが嬉しくて、その喜びをベネット夫人に見せつけてお返しが出来ることに勝利感を覚えずにはいられなかった。」(大島訳、226ページ) それでいつも以上にベネット家を訪問することになり、そのたびにベネット夫人から嫌味を言われるのだが、そうされても一向に訪問をやめようとしないくらいに有頂天になっていた。
 エリザベスとシャーロットの間には、一種の気まずさが漂い、これまでのように親友同士として接することが難しくなった。エリザベスはその分、姉のジェインを力強い身内と感じるようになったのだが、そのジェインはビングリーの去就に心を悩ませていた。ジェインがミス・ビングリーに宛てて出した手紙に一向に返事が届かなかったからである。

 コリンズからベネット氏宛に礼状が届き、結婚についてド・バーグ令夫人の賛同を得たので、できるだけ早く結婚式を挙げるつもりで、そのためにまた訪問することになると知らせてきた。ベネット夫人はコリンズの再訪に対して不機嫌な態度をとり、ビングリーの話題が出るとき以外は、その態度をとり続けたのである。ビングリーについてメリトンの町では、この冬にはもうネザーフィールドには戻らないといううわさが飛び交っていたが、ベネット夫人としてはその噂は信じたくないものであった。この噂には、エリザベスも心を痛めていた。彼女としてみれば、ビングリーのジェインに対する気持ちを疑いたくはないのだが、彼を取り巻く環境が彼の足をハートフォードシャーへと向けさせないのではないかと思ったのである。
 しかし、それ以上に心を痛めていたのは、不安定な状況に置かれているジェインであった。彼女はそういう自分の苦しい気持ちを他人に見せようとしなかったが、困ったことに母親がやたらとビングリーのことを話題にするので、それによって余計に心を痛めたのである。それでもなんとか、切り抜けたのはジェインの温厚な性質(steady mildness)の賜物であった。

 結婚式を挙げるためにコリンズがまたロングボーンに戻ってきたが、彼がシャーロットと睦まじそうに話しているのを見るたびに、ベネット夫人は自分をこの屋敷から追い出そうとする相談をしているのではないかと邪推する始末であった。第23章は、次のようなベネット夫妻の会話で終わる。
"If it was not for the entail I should not mind of it."
"What should not you mind?"
"I should not mind any thing at all."
"Let us be thankful that you are preserved from a state of such insensibility."
(Penguin Classics Edition, p.128)
「限嗣相続なんてものがなければ、私も何とも思わないんだけれど。」
「何を何とも思わないって?」
「何もかもまったく何とも思いません。」
「それならお前は限嗣相続のおかげでそんな認知不全症に陥らなくてすんでいるわけだから、感謝しなくては。」
(大島訳、231ページ)

 ここで「限嗣相続」と訳されているentailは権利者の直系卑属のみに継承される相続の形式であり、ベネット家の場合、そのなかの男系相続(tale male)を採用しているから、コリンズが相続することになるのである〔この件については、以前にも書いた。大島訳の121ページの注はこの点では不十分である。〕 だから「限嗣相続」だけを問題にするのは十分な理解とは言えない。これはベネット夫人の理解不十分を描いた箇所なのだが、ひょっとすると、オースティン自身が十分に理解していなかった可能性もある。
 こうして、ベネット夫人のいらだちと、不安定な状況に置かれたジェインの心労を描いて、この小説の第1巻は終わる。コリンズはシャーロットと結婚することになったが、ジェインの恋の行方はどうなるのか、エリザベスはどのような運命をたどるのか、さらに妹たち3人の動きも気になるところで、物語は第2巻へと続いていくのである。

 シャーロットは27歳だという設定だから、コリンズよりも年長のはずである。一方、エリザベスは、作中でも年齢を明かそうとしないが、20歳だから、この2人が親友だというのはちょっと無理があるという気がしないでもない。とにかく、年齢の違いを反映して、結婚についての考え方が違うというのもうなずけるところである。それにしても、(姉のジェインほどではないにしても)美人のエリザベスに断られた後、不美人のシャーロットに求婚するというコリンズの態度は、焦っているとしか言いようがない。もっとも、就職が決まって有頂天になっているような場合には、そういうこともありがちなのかもしれない。何度か触れられてきたように、シャーロットは頭がいいので、それなりの計算をして、コリンズの求婚を受け入れたのであるが、心からコリンズを尊敬できるとは思っていないところが問題である。 
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