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『太平記』(287)

11月5日(火)晴れ、温暖

 貞和4年(南朝正平3年、西暦1348年)、楠正成の子正行が、父の13回忌に際して挙兵し、8月に河内藤井寺で細川顕氏の軍を破った(史実としては、前年の貞和3年の出来事である。以下同じ)。11月に正行はさらに、住吉、天王寺で山名時氏、細川顕氏の軍を破った。事態を重く見た京都の幕府は12月に高師直・師泰兄弟を楠討伐に向かわせた。死を覚悟した正行は、吉野に赴いて後村上帝に謁し、如意輪堂の壁板に一族の過去帳を書きつけた。
 正月5日、正行は四条隆資を大将とする別動隊を本隊と見せかけて相手の目を幻惑し、みずからは3千騎の精鋭を率いて高師直の本陣に迫った。しかし、その動きを察知した県下野守の率いる白旗一揆の軍と衝突、これを退けると、甲斐源氏の武田信元の軍勢と戦い、これも斥けるが、前陣と後陣とが分断され、後陣は小旗一揆に攻撃された後で、佐々木道誉の軍に襲われて四散してしまう。
 正行の率いる前陣の兵は300余騎になってしまっていたが、あくまで高師直の本陣をめがけて突撃しようとした。そして足利一族の細川清氏、同じく仁木頼章、さらに千葉貞胤と宇都宮貞泰・貞宗兄弟の連合軍を撃退する。正行の軍が休憩をとって決死の覚悟を決めているのを見た幕府軍は、包囲の一角を開けて、楠軍が落ち延びやすくしたのだが、正行の気持ちは変わらなかった。
 そこで細川頼春らの7千の兵が正行の軍を包囲して襲いかかったが、楠軍の反撃によって四散させられた。

 正行の率いる軍勢の決死の勢いにたじろいで、高師直が一歩でも退こうものなら、そのまま勢いに押されて京都までも敗走するところであったが、師直もさるもの、踏みとどまって大声で、逃げるな、留まって戦えと叫んだ。味方は大勢、敵は小勢、師直はここに踏みとどまっているぞ。もしおまえたちが、京都にまで逃げもどったら、将軍尊氏にどのような顔を合わせるのか。「運命天にあり。名を惜しまんとは思はざらんや」(第4分冊、223ページ、運命は天にある。名を惜しもうとは思わないのか)と目を怒らせ、歯噛みをして命令をし続けた。こう言われたので、恥を知るほどの武士たちはなお、師直の周辺に控えていた。

 そこへ(光厳院に不敬を働いたことで処刑された)土岐頼遠の弟の土岐頼明(周済房=すさいぼう)の部下の兵たちが三山に打ち負かされ、頼明自身も膝頭に傷を負って血にまみれ、師直の前を挨拶もせずに退いていこうとしたので、師直が「おまえは日ごろ大口をたたいていたくせに、何とも見苦しいありさまである」と言葉をかけられ、どうしてそんなことがあろうか、討死するまで勇戦して見せようと馬を引き返し、敵の中に駈け入って討ち死にした。これを見て紀州の武士である雑賀次郎(和歌山市雑賀町出身の武士)も敵陣に駆け込み、戦死した。

 そうこうするうちに、すでに楠と師直の間は、わずか半町(約100メートル)あまりとなり、もう少しで楠の宿願であった師直を討ち果たしてその首級をあげることも目の前に見えてきたのであるが、(源頼朝の重臣であった)大江広元の子孫である長井一族の武士である上山左衛門が師直の前に立ちふさがり、八幡太郎義家殿以来、源氏に代々執事として仕えて、武功隠れもない高武蔵守、ここにありと名乗って、討死し、その間に師直は遠くへ逃げてしまい、楠はその本意をかなえることができなかった。

 師直の軍勢中には多くの武士がいた中で、上山一人が師直の身代わりになって戦死したのには理由があった。もともと上山は楠が急襲してくるとは思わずに、師直とおしゃべりをしようとその陣営を訪れたていたのだが、敵襲に会い、自分の陣営に戻って物の具を身につけるだけの時間があろうとは思われず、そこで師直のもとにあった物の具を借用に及んだのである。 師直のそばに仕えていた武士が、それは大将師直のものだと制止したのであるが、師直は、自分の身代わりになって命を捨てようという覚悟のできている武士に対しては、いくら高価な鎧でも与えるのが当然であると上山の行為を認めた。そのことに感激して上山は命を捨てたのである。その一方で、鎧を惜しんだ若党は、敵襲に際してまっさきに逃げたとのことである。

 『太平記』の作者はこの後、秦の穆公が腹を減らしたために自分の馬を食べた三百人の家臣のものの罪を許し、かえって薬酒を与えたところ、楚の三百人が感激して穆公が危地に陥ったのを助けだしたという故事を紹介し、武将がその士卒に温情をもって接すれば、士卒も感激してその恩に報いるのだと論じている。〔ここでは師直の行為が肯定的に描かれていることにも注意しておく必要があるだろう。〕

 楠はもう少しのところで、師直を討ち取ることができなかった。軍勢は減っており、楠自身も戦いに疲れている。さて、どうなるか、それはまた次回に。


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