アンドレア・カミッレ―リ『おやつ泥棒 モンタルバーノ警部』

8月7日(水)晴れ

 8月6日、アンドレア・カミッレ―リ『おやつ泥棒 モンタルバーノ警部」(ハルキ文庫)を読み終える。5月29日付の当ブログ「ミステリの地理」で触れた作品である。

 アンドレア・カミッレ―リ(1925-)はシチリア生まれで舞台やテレビの脚本家、演出家として活躍、1978年に小説家としてデビューしたそうである。最初はシチリアの想像上の町であるヴィガ―タを舞台にした一連の歴史小説を書いていたが、1994年にモンタルバーノ警部を主人公とする『水の形』を書いて成功、その後このシリーズを書き続けることにある。『おやつ泥棒』(il ladro di merendine, 1996)は『水の形』に続くシリーズ第2作であり、「訳者あとがき」によると、その後のシリーズにおいて重要な役割を演じることになるフランソワ坊やとクレメンティーナ・ヴァッジーレ・コッツォ夫人が初めて登場する作品でもあるという。こちらはこのシリーズを始めて読むので、そうしたことはこれから追いかけていくことにしよう。

 ヴィガ―タ分署のボスであるモンタルバーノ警部のもとに北アフリカのチュニジアの艦艇とイタリアの漁船のあいだに起こったトラブルの知らせが入る。銃撃でイタリア漁船の乗組員が死亡するが、彼は出稼ぎのチュニジア人であった。この事件とは別に、ヴィガ―タ分署管轄下のアパートのエレベターの中で刺殺された死体が発見される。被害者のもとに出入りしていたチュニジア人売春婦が関係しているらしい。彼女の身元を調べるうちに、その息子であるフランソワが「おやつ泥棒」を働いたことから、事件の真相が見え隠れしはじめる。

 北アフリカに近いという地理的条件もあって多文化的に変化しているシチリアの社会の姿が詳しく描かれているという意味でも、読めば読むほど新しい事態が展開し、思いがけない方向に物語が進んでいくという意味でも、食べることに強い関心を示すモンタルバーノの人物像が社会に溶け込みながらも個性的だという意味でも、読みごたえがある作品である。特に家庭料理でも外食でも、食事の場面の料理の描写が魅力的である。「カニのパスタには最高のバレリーナの優雅さが楽しめたが、サフランのソースを詰めたスズキには息が止まるほどに驚かされた」(292ページ)。主人公以外の人物もそれらしく的確に描き分けられている。

 アンドレ・ヴァノンシニ『ミステリ文学』(文庫クセジュ)はモンタルバーノ警部を「優雅で冷めた目をもつ人物」(同書、122ページ)と書き、その名前がカタルニャの作家マヌエル・バスケス・モンタルバン(Manuel Vazquez Montalbn,1939-2003)にちなんでいるだけでなく、カミッレーリにはモンタルバンからの影響が見られると論じている。モンタルバンの作品に登場する私立探偵カルバイヨがバルセロナに根をおろしているように、モンタルバーノもシチリアに根をおろしているのである(片方が私立探偵で、もう片方が警部というところに市民社会と犯罪の性格の違いを探究すべきであるのかもしれない)。

 モンタルバーノ警部ものは1990年代から日本に紹介されていたが、BSでそのTV化が放映されはじめたことで人気が出始めたようである。TV番組の方は見ていないが、そのうち見る機会も生まれるだろうと思う。最近上映された映画『海と大陸』を見ているとシチリアの海岸と移民をめぐる状況はこの小説の描いたものからさらに変化しているようである。シリーズの他の作品も読み進めていきたい。モンタルバーノをイタリア語で、カルバイヨをカタルニャ語で読めるようになればいいと思うが、イタリア語とは言ってもシチリア方言が交じっていては読みにくそうだし、カタルニャ語を勉強する機会はかなり限られているから、どうも夢に終わるだろうね。
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