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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(7)

8月25日(日)晴れ、暑し。

 19世紀の初めのイングランド、ロンドンの北に位置するハートフォードシャーのロングボーンという農村の地主であるベネット氏にはジェイン、エリザベス、メアリー、キャサリン(キティー)、リディアという5人の娘がいた。この家系は男系相続の制度をとっていたので、ベネット氏の死後、一家の財産は近親の男性(コリンズと言って、間もなく登場する)に引き継がれることになっていた。それもあって、ベネット夫人にとっては自分の娘たちの1人を裕福な男性と結婚させることが望みであった。
 ロングボーンから近いところにあるネザーフィールドの邸宅をビングリーという北イングランド出身の裕福な男性が借りることになったので、ベネット家を始め、近隣の人々は色めき立った。この地方の中心の町であるメリトンで開かれた舞踏会に参加したビングリーはその社交的な性格のために、人々の人気を集めた。一方、この舞踏会に参加したビングリーの親友だというダーシーは、ビングリー以上に裕福だという評判にもかかわらず、その高慢な態度が人々の反感を買って、敬遠されてしまった。
 ジェインはこの舞踏会に参加している令嬢のなかで一番の美人だといわれ、ビングリーが2度、自分の相手に選んだのは彼女だけであった。一方、ビングリーからエリザベスと踊るように勧められたダーシーは、いっしょに踊りたくなるほどの美人ではないねと拒否したが、その発言を近くにいたエリザベスに聞かれてしまった。
 ジェインはビングリーに好意を持ち、ビングリーもジェインに関心を持つが、ジェインは自分の気持ちをはっきりと表明することを控えるようにする。エリザベスは、そんな姉の態度を好ましく思うが、エリザベスの親友でベネット家の隣家の令嬢であるシャーロットは、もっとはっきり自分の気持ちを出したほうがいいという意見である。エリザベスの容姿にけちをつけたダーシーであったが、彼女の表情や態度に魅力が潜んでいることに気づき、彼女に興味を持ちはじめる。そんなことにはきづかずに、エリザベスはダーシーに反感(あるいは偏見)を抱き続ける。
 ビングリーの姉妹たちと仲良くなったジェインはネザーフィールドに遊びに出かけ、その途中雨にあって風邪をひき、しばらく滞在しなければならなくなる。心配したエリザベスは服を泥だらけにしながら歩いて姉を見舞いに行き、そのままネザーフィールドに留まる。ビングリー姉妹、とくに妹のミス・ビングリー(キャロライン)は、ダーシーとの結婚を望み、またダーシーがエリザベスに関心を抱きはじめていることを知っているので、なんとかその関心を断ち切ろうとする。表面上の親しさ、礼儀正しさとは裏腹の駆け引きが展開される。(以上、第1部第10章の途中までのあらすじ。)

 エリザベスが人間の性格を研究することに興味があるということから始まった会話は、ビングリーとダーシーの間の友情の性格にまで発展し、ビングリーの発言にダーシーがちょっと気を悪くしたように思われたので、エリザベスは笑いを抑えた(このあたりに、エリザベスが賢明な女性であることが見てとれる)。ミス・ビングリー(キャロライン)は兄の不用意な発言を責める。
 こうして会話は終わり、人々はその前に取り組んでいた仕事に戻る。それが一段落すると、ダーシーはミス・ビングリーとエリザベスに向って、音楽を聞かせてほしいという。まず、ミス・ビングリーがピアノを弾き、その姉のハースト夫人が歌ったが、その間、楽譜をながめているエリザベスにダーシーが視線を向けていたので、エリザベスは不思議に思う(まさか、彼が彼女に関心を寄せているとは思っていないのである)。

 ミス・ビングリーはイタリアの歌曲を何曲か弾いた後、趣を変えて軽快なスコットランドの歌曲を弾き始めた。すると、ダーシーがエリザベスに向って、リール(reel :スコットランドのハイランドの軽快な舞踏)を踊ってみるつもりはないかとたずねる。エリザベスは返事をしなかったが、もう一度聞かれて、あなたが自分の趣味を軽蔑するつもりでそのようにおっしゃるのならば、軽蔑なさって結構ですが、自分はリールを踊るつもりはありませんと断る。この返事にダーシーが鄭重に対応したので、エリザベスはかえって戸惑う。エリザベスの態度には人のよさとか、茶目っ気といったものが含まれていて、はっきりと断られても、ダーシーは気を悪くしなかった。むしろ、彼女の親戚筋の身分が低くなければ、これは危険なことになるかもしれないなどと考えていた。
 このダーシーの心中を見抜いたのか、あるいは勘ぐったのか、エリザベスに対する嫉妬心をつのらせたのがミス・ビングリーである。

 翌日の朝、ミス・ビングリーはダーシーと2人だけで散歩に出かけ、ベネット家の悪口、ベネット夫人が下品であること、下の2人の娘(キャサリンとリディア)がメリトンに駐在している連隊の士官たちを追いかけていること・・・などを強調する。
 And, if I may mention so delicate a subject, endeavour to check that littlle something, bordering on conceit and impertinence, which your lady posesses. 「それから、たいへん微妙なことを申し上げてよろしければ、あなたの奥様のあの思い上がりと生意気と云ってもいいようなところを何とか押さえていただきたいですわ。」(大島訳、98‐99ページ) 「あなたの奥様」はエリザベスがダーシーの妻になったと仮定して、そう言っているのである。conceitは「自負心」とか「うぬぼれ」、impertinenceは「出しゃばり」とか「生意気」。会話の際にやたら自分の意見をさしはさむのは感じのいい態度ではないが、かといって、発言をなんでも肯定するのもつまらない。飽くまで程度問題である。

 ダーシーがもっとほかにいうことはないのかというと、ミス・ビングリーはなかなか面白いことをいう。ダーシーのペムバリーの邸宅には一家に関係する様々な人物の肖像画が飾られているが、判事であったダーシーの大叔父と、地方都市の事務弁護士であるフィリップス氏(エリザベスたちの伯父)は2人とも法曹関係の人物であるから、その肖像画を並べて飾るべきである、ダーシーが賞賛するエリザベスの目の美しさは、どんな画家も再現できないだろう・・・

 と、そのとき、2人の目の前にミス・ビングリーの姉のミス・ハーストと、ほかならぬエリザベスが現れる。エリザベスは3人と離れて、一人で散歩を続ける。もうすぐ自分の家に帰れるかと思うと、それが楽しみであった。ジェインはだいぶ回復していて、夕食後には、皆の前に顔を出せるようになりそうだということで、これもエリザベスにとってはうれしいことであった。

 夕食後、エリザベスは姉と一緒に客間に出かけた。ビングリー姉妹はジェインを愛想よく迎えたが、それ以上に喜んだのはビングリーであった。部屋が寒いために、ジェインの風邪がまたもや悪化してはたいへんだと、しばらくの間暖炉の火を燃やすことにかかりきりだったほどである。そのうち、ビングリーとジェインがネザーフィールドで開く舞踏会の話をしていたのを聞きつけたミス・ベネットは、ありきたりの舞踏会ではなくてもっと知的なものにすべきだなどと主張する。

 ミス・ビングリーはダーシーの注意をひこうと、部屋のなかを歩きまわるが、ダーシーは読書中の本から目を離さないので、エリザベスを誘う。そして、目を上げたダーシーに自分たちと一緒に部屋のなかを歩こうというと、ダーシーは断る。二人が秘密の相談をしているのならば、そのなかに加わるのは迷惑だろうし、歩いている姿が魅力的だと思っているのであれば、ここで座ってみている方がはるかに楽しいという。ミス・ビングリーはその回答に腹を立てるが、どのように復讐していいのかわからないという。エリザベスは、そう思うのならば、ダーシーをからかってやればいいというが、ミス・ビングリーはそんなことはできないという。誰からもからかいの対象にならないという特権を持つ人間がいるのかとエリザベスは反論する。

 ミス・ビングリーは自分のことを過大評価しているとダーシーは言う。しかし、どんなにすぐれた人物でも、他人を茶化すことを第一義と考えている人間にかかれば、からかいの対象になるだろう。エリザベスは、確かにそういう人はいるが、自分はそうではない。”I hope I never ridicule what is wise or good. Follies and nonsense, whims and inconsistencies do divert me, I own, and I laugh at them whenever I can. " 「私は賢いものや優れたものを揶揄ったりは致しませんもの。人間の愚行や馬鹿げたところ、気紛れや矛盾が私には面白くて仕方がないんです。ですからそういうものに出会ったときはいつでも笑わせていただきます。」(大島訳、107‐108ページ) しかし、そういう欠点はダーシーとは無縁なようだと付け加える。

 これに対してダーシーは、欠点は誰にでもある。しかし、その欠点のためにせっかくの理解力が物笑いの種になってしまうような欠点は避けたいという。
 そういう欠点の例として、エリザベスは虚栄心(vanity)とか、自負心(pride)が挙げられるのだろうかと問い返す。
 これに対し、ダーシーは次のように答える:
 ”Yes, vanity is a weakness indeed. But pride -- where there is a real superiority of mind, pride will be always under good regulation."「そう、虚栄心は確かに弱点です。でも自負心は――本当にすぐれた知性の持主であれば、常に自負心を抑えているものです。」(大島訳、108ページ) エリザベスは笑い出しそうになったので、それを隠すために顔をそむけた。
 この物語の表題が”Pride and Prejudice"であり、物語を通じてダーシーの”Pride"が問題になるのだから、このやりとりは意味深長である。

 ダーシーに対する人物調査はどんな結果だったかと、ミス・ビングリーは問う。エリザベスはダーシーにはまったく欠点がない、ご本人がそういっているのだから間違いないと答える。
 ダーシーはそれは誤解だという。自分にはいくらでも欠点があるが、理解力(understanding)に欠陥があるとは思われたくないのだという。他の部分については、融通性がなくて、世間の流儀に都合よく合わせることができない。「他人の愚行や悪行がなかなかすぐには忘れられないし、自分の感情が害されたときもそうです。…たぶん執念深い気質なんでしょうね。――僕はいったんあいつが嫌いだとなると永久に嫌いなんです。」(大島訳、108-109ページ) 〔ダーシーのこの性質の「被害者」となる人物が間もなく登場するので、ご注意ください。〕

 これに対して、エリザベスは執念深い性質というのは笑いの対象とするわけにはいかないといい、「私に関する限りダーシーさんは安全でしてよ」(大島訳、109ページ)と結論する。
 「僕が思うに、どんな気質にもその気質特有の悪しき傾向があるんですよ、生まれつきの欠点というか、どんな立派な教育をもってしても直せないような。」
 「だとするとあなたの欠点は人間を嫌おうとする傾向ですわ。」
 「あなたのは」とダーシーは笑いながら応じた、「すべての人間を故意に誤解しようとするところだ。」(大島訳、109ページ) はっきりとは表現されていないが、ダーシーの「高慢」(あるいは「自負」)に対するエリザベスの「偏見」が指摘されている。物語の骨組みが示される。

 仲間外れにされたミス・ビングリーが少し音楽を楽しもうといい、ダーシーも賛成した。「エリザベスに少し気を遣い過ぎている危険を感じ始めていたのである。」(大島訳、109ページ)

 物語はジェーンとビングリーの恋愛を描くと思わせておいて、次第にエリザベスとダーシーの2人を前面に押し出し、作者自身の人間観察や人生観の断片をこの2人を通して語っていく。この丁々発止の対話のなかで物語の概要が見えてくる(まだ、これから登場する人物は少なからずいるが…)。機知に富んだ会話は、ダーシーを次第にエリザベスへの深い思いに引きずり込みそうになる(もちろん、社会階層のちがいを考えて自制する、もう一人のダーシーもいる)。さて、物語はどのように展開していくのか…。
  
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