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ラブレー『ガルガンチュワ物語』(13)

8月23日(金)曇り、時々雨

 ガルガンチュワはグラングゥジェ王とその妃ガルガメルの間に生まれ、誕生後まもなく「のみたーい! のみたーい! のみたーい!」と泣き喚いたためにこの名がついた。もともと巨大な体躯の持主であったが、牛乳と葡萄酒を飲んですくすくと育ち、ますます大きく育った。しかもなかなか聡明な子どもだったので、父親は詭弁学者を家庭教師として勉強させたが、成果が上がらなかったので、新しい学問と教育法を身につけたポノクラートという教師の下で勉強するために、パリに送り出された。今度は、彼はしっかりと勉強し心身ともにたくましく、知恵も豊かな王子に成長した。
 グラングゥジェの隣国はピクロコルという王が治めていたが、その領民であるレルネの町の小麦煎餅売りたちが、グラングゥジェの領内を通る時に、葡萄畑の番をしていた羊飼いたちと騒動を起こし、けがをした。小麦煎餅売りたちは、自分たちの非は一切隠したままでピクロコル王に自分たちの被害を述べたので、ピクロコル王は激怒し、軍隊を招集、グラングゥジェの領内に侵攻し、略奪をほしいままにした。突然の侵略に驚いたグラングゥジェは、ガルガンチュワを呼び戻す一方で、使者を派遣して、ピクロコルに和平・停戦を求めたが、ピクロコルは耳を傾けなかった。さらにグラングゥジェは小麦煎餅売りたちに対する補償の金品を送ろうとしたが、ピクロコル王はそれらを取り上げて、使者を追い返したのであった。

第33章 何人かの顧問官たちの早計浅慮がピクロコル王を最悪の危難に陥れたこと(司令官たちの速断が、ピクロコルを最悪の危機に陥れる)
 渡辺が「顧問官」、宮下が「司令官」と訳している語の原文はgouverneursで、辞書によれば、「司令官」であるが、Thomas Urquhart and Pierre Le Motteu による英訳ではstatesmen(特に指導的な「政治家」)と訳されており、前後の関係から見ても、ただの司令官ではないように思われる。「最悪の危難」がどのようなものかは、物語の展開を追っていけばわかる。

 なんとか和平をもたらそうと、グラングゥジェが送ってきた小麦煎餅を奪い取ってしまうと、ピクロコル王の前にduc de Menuail (渡辺訳では弥久座公爵、宮下訳ではムニュアーユ公、上記英訳ではthe duke of Small-trash)、comte Spadassin (渡辺訳 刺客伯爵、宮下訳 スパダサン伯、英訳 the Earle of Swash-buckler)、capitaine Merdaille (渡辺訳 雲子弥郎隊長、宮下訳 メルダーユ隊長、英訳 Captain Durtailleの3人がやって来た。
 彼らはピクロコルを、マケドニヤ王アレクサンデル(アレクサンドロス、アレクサンダー)以来の大征服者とする計画を立てたという。もともと小麦煎餅を売るか売らないかといういざこざから始まった村と村との間の対立であるが、この3人はそれをきっかけに大征服戦争を企画する。ここから彼らは「壮大」な世界征服の計画を展開する。それは古代の風刺文学作品を参考にして書かれたものであるが、トマス・モアの『ユートピア』のなかにある作戦会議中のフランス国王にいくら賢明な策を進言してもむだだというヒュトロダエウスの言葉に対する回答となっているという説もある由である。さらに、当時のフランス王=フランソワⅠ世の宿敵である神聖ローマ・ドイツ皇帝カールⅤ世の世界制覇政策をかなり具体的に風刺する内容ともなっているという。ばかばかしくもおかしい大計画であるので、できるだけ丁寧に紹介していくことにする。

 先ず隊長の1人に少数部隊をつけて、現在ピクロコル王の軍隊が占領しているラ・ローシュ・クレルモーの城を守備させる。それから全軍を2隊に分け、そのうち1隊をグラングゥジェの軍勢と戦わせる。攻撃を始めるや否や、グラングゥジェ軍は壊滅状態となるであろう。そして、グラングゥジェが集めてきた金銀財宝が手に入るだろうという。「かくして殿は、山と積まれたる金銀財宝を入手されまするが、何しろかの土百姓めは、現なまでざくざく持って居りまする。敢えて土百姓めと申しますしだいは、高潔なる君主は鐚(びた)一文も持たぬのが定法だからでござる。勤倹貯蓄などは土百姓のやることでござります。」(渡辺訳、158ページ) これは注目すべき発言である。念のために、宮下訳で同じ個所を引用すると:「金銀財宝が山ほど見つかりますぞ。/下人めは、現ナマをざくざっくと持っておりまするぞ。下人と申しますのも、君主は貴人にして、びた一文もたぬのが世の定め、蓄財などは、下人のなすことではござりませんか。」(宮下訳、258ページ) 
 渡辺が「土百姓」、宮下が「下人」と訳しているのは、vilainという語で、ふつう「見苦しい」とか「みっともない」とかいう形容詞として使うのだが、歴史上の用語として「(中世の農村に居住する)自由平民」という意味もあるそうである。なお、上記英訳ではClown (道化役者、ばか、古い意味として田舎者)と訳されている。
 ここで暗示されているのは、グラングゥジェが蓄財にはげんでいるのに対し、ピクロコルはそうではない、フランスの歴史の中では、蓄財によって裕福になった地方領主や商人がそれによって貴族にのし上がっていく(「法服貴族」とか「商人貴族」)現象がみられたが、そういう道を歩む地方人と、そうでない人々との対立があったということではないかと思う。

 さて、ピクロコル王の出兵のそもそもの目的はグラングゥジェの領民が自分の領民に加えた暴行に報復することであったのだから、グラングゥジェを討伐すればそれで話は済むはずであるが、3人の取り巻きたちは、勝つか負けるかわからないグラングゥジェとの戦いに勝ったつもりになって、それ以外にも、別の一隊を派遣して世界征服の戦いを始めさせようというのである。
 そのもう一方の別動隊は、フランス西南部の町村を侵略してまわる。そして海岸に出て船を徴発し、その船に乗って「海岸地方をば悉く攻略してリスボンヌに着き、征服者にふさわしき装備を更に整えるしだいと相成ります。笑止なる哉、イスパニヤの国は軍門に下ること必定でござるが、この国の奴どもは、たかが薄のろの土百姓どもにすぎませぬぞ!」(渡辺訳、158ページ)
 渡辺はなぜか「リスボンヌ」と記しているが、宮下はもちろん、「リスボン」と書いており、ポルトガルの首都である。この時期、「無敵艦隊」を擁して、世界に覇を唱えていたスペインを「たかが薄のろの土百姓」というのは、元気が良すぎる。

 そしてジブラルタル海峡を渡り、ヘラクレスの柱をしのぐような記念碑を立てることになるという。ヘラクレスの柱というのは、ギリシア・ローマ神話によれば、ジブラルタル海峡にそびえるアビラ山(アフリカ)とカルペ山(スペイン)はもともと1つの山だったのを強力の英雄ヘラクレスが2つに分けたといい、この2つの山を指す。さらにこの海峡を「ピクロコル海」と名付けることになるだろうという。ここまでくれば、当時アルジェを本拠として活躍していたオスマン・トルコの提督赤髯(Barberousse バルブルウース)太守も降参するだろうという。赤髯太守は、神聖ローマ帝国皇帝でスペイン・フランドル・オーストリア(とさらに多くの国・地方)の君主であったカールⅤ世と戦っていたが、1535年7月にカールⅤ世軍に敗れた。このあたり、この歴史的な事実を踏まえているという説もあるそうである。

 「とらぬ狸の皮算用」というのは、フランス語では何というのであろうか。(フランスにはタヌキはいない。) とにかく、戦争を始める前から、買った時の算段ばかりして妄想を膨らませていく。次回以降、さらに妄想が膨らんでいくので、行き先はどんなことになるのか、ご注目ください。 
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