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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(6)

8月18日(日)薄曇り、暑し。

 19世紀の初めのイングランド、ロンドンから少し北のハートフォードシャーのロングボーンという村の地主ベネット氏には5人の娘がいた。この家は先祖代々、男系相続であったので、ベネット氏の死後はその財産は、遠縁の男性(コリンズ氏と言って、間もなく登場する)に継承されることになっていた。そのこともあって、ベネット夫人にとっては、娘たちのだれか1人が裕福な男性と結婚することが最大の望みであった。
 ロングボーンから遠くないところにあるネザーフィールド・パークという邸宅を、北イングランド出身のビングリーという裕福な独身男性が借りることになったというので、夫人を始めベネット一家は色めき立つ。ビングリーは社交的な性格の好青年で、この地方の中心であるメリトンの町で開かれた舞踏会では人気を集めたが、彼が2度踊ることを申し込んだのはベネット家の長女であるジェインだけであった。一方、この舞踏会に参加したビングリーの親友だというダーシーという青年は、ビングリーよりもさらに豊かな財産の持主であったが、その高慢な態度が災いして人々から敬遠された。ベネット家の次女であるエリザベスは、ビングリーから彼女と踊るようにと勧められたダーシーが、踊るほどの魅力的な相手ではないねと断ったのを聞いてしまい、この人物に悪い印象を抱くことになったのである。しかし、そのように彼女を悪く言ったダーシーの方は、次第に彼女の魅力に気づきはじめ、好奇心を抱くようになっていた。
 ビングリーの姉であるハースト夫人と、妹のミス・ビングリーはジェインと親しく付き合うようになり、ある日、その正体でネザーランドに出かけたジェインは、途中で雨にあって風邪をひいて寝込んでしまう。姉の身を案じたエリザベスは雨上がりのぬかるみ道を急いでネザーフィールドに出かけ、泥だらけになって到着する。ビングリーとダーシーは、エリザベスの姉思いの姿に感心するが、ダーシーとの結婚を願い、また彼がエリザベスに好奇心を抱きはじめていることも知っているミス・ビングリーは機会をとらえては彼女のことを悪くいう。(以上第1巻第8章まで)

 エリザベスの見たところでは、ジェインの体調はだいぶ回復してきた。しかし、母親に見てもらって病状を判断してもらう方がいいと思ったので、ロングボーンに手紙を届けてもらい、その結果、ビングリー家の朝食が済むとすぐに、ベネット夫人が下の娘2人(キャサリン=キティーとリディア)を連れてやって来た。
 ジェインの病状が改善されていることがわかってベネット夫人は安心したが、その一方で、ジェインとビングリーとの結婚を策している彼女にとって、すぐに帰宅させることは好ましいこととは思われなかった。それでジェインはロングボーンに帰りたがったのだが、まだしばらく滞在したほうがいいと言い、ちょうど同じころにやって来たジョウンズ医師も同意見だったので、ビングリーにもう少し滞在させてくれるように頼んだ。
 
 ルーカス夫人はビングリーがネザーフィールドに長くとどまるつもりかそれとなく聞こうとしたが、その話がそれて、エリザベスが人間の性格の研究に興味を持っているというはなしにになり、性格研究には地方よりも都会の方が都合がよい、というのはそれだけ多くの人々に出会えるからだという風に展開する。ベネット夫人はダーシーが地方よりも都会の方が優れていると思っていると考えて、熱弁をふるいかけるが、エリザベスが話題をほかに向けようとして、ベネット家の隣人であるルーカス家の人々の消息をたずねる。ベネット夫人はサー・ウィリアム・ルーカスのことをほめたり、その娘のシャーロットのことを話したりするが、どうしても、ルーカス家の娘たちよりも、自分たちの家の娘たちの方が美人であるということに話題をもっていきがちである。
 ベネット夫人が用件を済ませて帰ろうとすると、末娘のリディアがビングリーにネザーフィールドで舞踏会を開いてほしいと頼む。母親のお気に入りである上に、伯母のフィリップス夫人のもとで士官たちにちやほやされてきたために、怖いものなしになっているのである。
 「ベネット夫人と二人の娘はやがて帰っていった。エリザベスは、自分と身内の振舞に関しては、ビングリー姉妹とミスター・ダーシーの批判と悪口に委ねることにして、すぐさまジェインの許へ戻った。しかしミスター・ダーシーは、ミス・ビングリーが美しい瞳を種にいくら揶揄っても、エリザベスの非難にだけはどうしても加わろうとしなかった。」(大島訳、88ページ)

 翌日、ジェインはさらにわずかではあるが快方に向かったので、エリザベスは夕食後、みなと一緒に過ごすことにした。ダーシーは妹あてに手紙を書いており、ミス・ビングリーはその様子を見守り、ハースト氏とビングリーはピケットというトランプのゲームをしており、ハースト夫人はその様子を見守っていた。〔ピケットpiquetというのは32枚の札を使うゲームだそうだが、詳細は不明。まあ、知らなくても済むことである。〕 

 エリザベスは針仕事をしながら、ダーシーとミス・ビングリーの間の会話にならない会話を聞いて内心で楽しんでいた(この時点で、ダーシーがエリザベスに興味があることに、エリザベスの方では気づいていない。一方、ミス・ビングリーはダーシーの関心の行方を知っているのである)。ミス・ビングリーは筆跡がきれいだとか、行がそろっているとか、いろいろと褒めるのだが、ダーシーの方はそんなことにはまったく気をとられない。ミス・ビングリーは、自分のことも手紙に書き添えてほしいと頼んだり、鵝ペンを削ってあげようと言ったりする。
 How can you contrive to write so even?
 「どうしたら、そんなにきれいに行を揃えて書けるのかしら?」(中野康司訳、83ページ)
 「どうしてそんな風に行を綺麗に揃えて書けるのかしら?」(大島訳、90ページ)
 長い手紙をすらすら書くのはどうしてかといわれたダーシーは、自分はむしろ書くのが遅い方だといい、近くでやはり聞いていたビングリーもダーシーは手紙を書くのが自分よりも遅いという。ミス・ビングリーは、ビングリーは早いかもしれないが、書き方がぞんざいだといい、ビングリーはそれは自分の考えの展開が速いので、手の方が追いつかないためであると弁解する。自分で書いたことが、自分でもあとで読み返すとわからなくなることさえあるという。〔考えたことをそのまま文字に写していくと、書いている手が考えに追いつかず、字が汚くなって、あとで見てもわからなくなるというのは、身に覚えのある人が少なくないと思う。少なくとも私はよく経験することである。そこで、どのようにして思い付きをきちんとした記録にとどめるか…というところが問題なのである。〕

 自分の手紙がどのような思考の表現であるかが、自分でもわからなくなるというビングリーの発言を謙遜(humility)と受け取ったエリザベスが次のようにいう。
 ”Your humility, Mr. Bingley," said Elizabeth, "must disarm reproof."
 「ビングリーさん」とエリザベスが言った。「そんなに謙遜されたら、悪口をいえなくなりますわ」(中野康司訳、85ページ)
 「ビングリーさん」とエリザベスが云った、「ご自分からそんなふうに謙遜なさったのでは、誰も非難のしようがありませんわ。」(大島訳、91ページ)

 これに対してダーシーが意見をさしはさむ。
 「見せかけの謙遜ほど欺瞞的なものはない」とダーシーが云った。「それはしばしば自説があやふやだからそういう態度をとるだけのことで、ときとして裏返しの自慢のこともある。」(大島訳、92ページ) 〔ビングリーの発言の解釈として、より適切なのは、ダーシーの発言の方であろう。エリザベスの発言の方が主観が入りすぎている。〕

 これに対して、ビングリーは自分の発言はどちらなのかと質問する。すると、ダーシーは裏返しの自慢のほうだといい、自分の字が乱暴だということと抱き合わせで、暗に自分の思考の回転が速いと主張しているのだと指摘する。さらに、朝、彼がベネット夫人に向かって言った自分は決断したら行動に移すというのも一種の自慢であるという。〔この辺に、ダーシーの頭のよさが表現されていると言えそうである。〕
 ビングリーは気を悪くして、自分は嘘偽りのないところを述べたのだというと、ダーシーは、そんなことはない、君は結構人の影響を受けて自分の決心を変えることは多い人物だという(物語の展開の中で、このダーシーの指摘は大きな意味を持つ。実際問題として、ビングリーはダーシーの影響を受けやすい人物として描かれている。)
 一座の人物たちの中で、ビングリーにだけ好意を抱いているエリザベスは、このようなダーシーの指摘にもかかわらず、ビングリーの性格と行為について善意に解釈する。

 「ダーシーさんの今の言葉で判ったことは・・・ビングリーさんは御自分の性質の真価を正しく示さなかったということですわ。ダーシーさんは、ビングリーさん御本人がなさったよりもはっきりとビングリーさんのよさを見せてくださったわけです。」(93ページ) ビングリーは、エリザベスのこの言葉に感謝しながら、彼女がダーシーの発言の真意をとらえていないのではないかと問い返す。
 ダーシーは、ビングリーが友人の説得に応じてすぐに自説を曲げるのはいいというわけではない、少なくとも方針を変更するにあたってはそれなりの理由が必要であるという。議論が白熱して来て、ビングリーもダーシーも少し感情的になってきたかもしれないと思い、エリザベスは自制する。
 ビングリーとダーシーとの会話は、親友同士の遠慮のないものであるが、その中に割り込んで自分の意見を論理的に展開するエリザベスの知性は相当なものである。どのようにして、ダーシーに気に入られようかと考えながら、結局、うるさがられているミス・ビングリーとは頭のよさにおいて格段のちがいがあるように思う。

 まだ第10章の途中であるが、今回はここで打ち切ることにする。暑さのため(だけでもないが)、生活が不規則になって来ていて、書いているうちに眠ってしまうというようなことがあるので、あまり無理はしないことにした。そういうわけで、皆様のブログの訪問も不本意ながら休ませていただくことにした。あしからず、ご了承ください。
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