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トンマーゾ・カンパネッラ『太陽の都』(12)

8月15日(木/終戦の日)曇り、今にも雨が降りそうな空模様が広がっていたが、とうとう雨が降り出した。

 世界一周の航海を終えたジェノヴァ人の船乗りが、マルタ騎士団の団員に、航海の途中で立ち寄った「太陽の都」の人々の暮らしの様子と、社会の制度について語る。
 それは太平洋に浮かぶ島の中心部の平原のなかに建設された都市で、丘の周囲に同心円状に城壁をめぐらして建造されている。都市を支配しているのは「太1陽」と呼ばれる神官君主で、すぐれた学識を持つ形而上学者が選ばれてその任に当たる。彼は軍事を司る「権力」、科学を司る「知識」、生殖・教育・医療を司る「愛」の3人の高官によって補佐されている。
 これらの高官を含めて役人は子どものころからの教育を通じて見いだされた能力・適性に応じて選ばれるのである。子どもたちは3歳になると、集団で組織的な教育を受ける。「太陽の都」の神殿の外壁や城壁には様々な事物の画や見本が描かれたり置かれたりして、教育の仕事を助けている。
 都市の人々は全体が1つの家族と考えられており、集団で生活し、衣類は配給制であり、共同で食事をし、また住居は割り当てによる。男女はそれぞれの体の特徴を主な手掛かりとして、計画的に結び付けられ、生殖をおこなう。私有財産というものはなく、全員が能力に応じて働き、必要なものを受け取っているのである。

 マルタ騎士団員は、次に戦争について話してほしいという。
 「太陽」を補佐する3人の高官の1人である「権力」は歩兵指揮官、砲兵指揮官、騎兵指揮官、工兵指揮官を従えている。そしてそれぞれの指揮官も、兵たちを訓練する教官たちを従えている。
 若者たちは12歳以前にもレスリング、競走、投石などの初歩的な訓練を受けているが、12歳を過ぎると、戦法や戦術、剣や槍の使い方、弓術、乗馬術、追跡法、撤退法、隊形の組み方などを教えられるようになる。男子だけでなく女子も実際の戦闘に備えて訓練を受ける。
 彼らはきわめて勇敢であり、人は死ぬと、現世での行ないに応じて来世で賞罰を受けると信じているために、死を恐れない。「そして人間として価値のない理性の敵対者を打ちこらすのにちゅうちょしません。」(坂本訳、36ページ) 〔これは、むしろ恐ろしさを感じさせる。〕

 2か月ごとに閲兵式が行われるだけでなく、彼らは毎日野原での騎馬演習、屋内演習、あるいは軍事講義に参加する。軍事講義ではハンニバルやスキピオなどによる、古代の軍事行動を記した歴史書が読まれる。読んだ後で、参加者全員が自己の意見を述べ、それに対し教官が講評を下す。

 マルタ騎士団員は、「太陽の都」の人々はいったい誰と戦争をするのか、それほど幸福に暮らしているのになぜ戦わなければならないのかと質問する〔これは的を射た質問だと思う〕。
 これに対し、ジェノヴァ人は「かれらはたとえ戦争がなくても、怠け者にならないためといつの日にか起るかも知れぬ事態に備えて、武芸と狩猟にはげんでいるのです」(坂本訳、37ページ)と答える。
 それに、この都市のある島の4つの国々がなにかと口実をつけては、侵略を意図しているという。領土上の紛争、宗教上の理由、あるいは過去の歴史的な経緯など、その口実はさまざまである〔なかなか真に迫っている〕。
 「太陽の都」の人々は、戦争が起きそうな事態に立ち至ると、会議を招集し、「法廷代理人」と呼ばれる神官を相手国に派遣して交渉にあたらせ、交渉がうまくいかないと宣戦を布告して戦争を始めるという。

 戦争がはじまると、「権力」が独裁的な指揮官となる。彼は重要な問題がある時だけ、「太陽」、「知識」、「愛」という他の高官に相談をする。そして市民全員が参加する代表議会が開かれて、戦争が正義の戦いであることが明らかにされた後に、戦闘が行なわれる。

 『太陽の都』はあらゆる種類の武器を武器蔵に所蔵しており、しかも市民たちはそれらの武器の使用に模擬戦を通じて親しんでいるという。彼らの戦術は大砲を生かしたもので、戦場に運んでいける野砲もたくさん装備している。カンパネッラは実際に戦争に従軍した経験はなかったはずで、戦争と戦闘についての記述はどうも空想的であり、実際的とは言いかねる。
 「征服されたり、進んで彼らの支配に入った国々は、ただちに、全財産を共有にし、太陽の都の役人と守備軍を迎え、次第に自分たちの指導者となった太陽の都の習慣に同化され、自分たちの子供を勉強させに太陽の都に送りますが、この場合、何の費用も払う必要はありません。】(坂本訳、42ページ)

 モアの『ユートピア』では彼自身が外交交渉にもかかわった経験から、国際紛争を(できるだけ戦闘を避けるために)外交によって解決すべきことが説かれていて、この点はカンパネッラの「法廷代理人」の選出・派遣というくだりと一致するが、モアのほうが自分自身の経験を踏まえての議論であるだけに詳しく、説得力がある。さらに、モアは血なまぐさい戦闘を避けるために、敵を欺く戦略や諜報戦を重視しているが、カンパネッラもスパイの果たすべき役割は重視する。しかし、彼はこの仕事に就く人間が生まれながらの適性や(いかにも、彼らしいのだが)生まれた時の星座などを考慮して決められているという点を重視して語っている。力点の置き方の違いに注目すべきである。

 最初に書いておくべきであったが、マルタ騎士団は正式名称をロドス及びマルタにおけるエルサレムの聖ヨハネ病院独立騎士修道会といい、十字軍に関連して結成されたカトリックの騎士修道会である。現在は国家ではないが、この『太陽の都』が書かれた時代には、主権国家としてその名の通り地中海のロドス島、マルタ島を領有していた。だから、団員が『太陽の都』についていろいろと質問するのには、自分たちの領土の支配・経営に役立てようという意図があったと考えられる(それを計算に入れて、カンパネッラはこの対話を構想しているということである)。
 
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