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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(5)

8月11日(日)晴れ、暑し
 
 19世紀初めのイングランド。ロンドンの北の方にあるハートフォードシャーのロングボーンの村に住んでいるベネット家には5人の娘がいた。長女のジェインは5人のなかでもっとも美しく、また気立てもよかった。次女のエリザベス(リジー、エライザ)は姉に次ぐ美貌で、頭がよく、茶目っ気があって、父親のお気に入りであった。3女のメアリーは、姉妹の中では一番容姿に恵まれていなかったので、才芸と学問の習得に励んでいた。4女のキャサリン(キティー)と5女のりディーは浮ついた性格であったが、姉妹のなかで一番背が高いリディーは、それをいいことにいっぱしのオトナ気取りであった(年齢はジェーンが22歳くらい、エリザベスが20歳くらい、…リディーが15歳くらいということになっている)。そしてベネット夫人はそんなリディアを一番かわいがっていた。
 ベネット家の財産は、先祖代々のしきたりで男系相続になっていたので、ベネット氏が死ねば、その遺産は遠縁のある人物(この後で登場する)に相続されることになっていた。だから、5人姉妹の少なくとも誰か一人が、裕福な男性と結婚することがベネット夫人の一番の望みであった。
 折よく、ロングボーンの近くにあるネザーフィールド邸を、北イングランドの金持ちであるビングリーという独身男性が借りることになった。彼が引っ越してきてから、この地方の中心都市であるメリトンで開かれた舞踏会で、ビングリーはその明るい、社交的な性格で人々を惹きつけたが、彼がいちばん魅力を感じたらしい女性は、その一座で一番美しいとだれもが認めるジェインであった。一方、ビングリーと一緒にやって来たダーシーという男性は、ビングリー以上の財産の持主だということで人々の注目を集めたが、その高慢で不愛想な態度で、人々の不評を買った。エリザベスが、踊りの合間に休んでいると、それを見たビングリーがダーシーに彼女と踊るように勧め、ダーシーがまあまあだけれども、踊りたくなるほどの美人じゃないねえと言ったのを、聞きつけたエリザベスが、それを冗談めかして言いふらしたことで、ダーシーの不評はますます広まった。ジェインはビングリーに恋しはじめたが、それを表立って表現することは控えていた。エリザベスはそんな姉の態度を好ましく思っていた。
 ベネット家の隣人であるルーカス家の当主サー・ウィリアム・ルーカスは爵勳士に任じられた元メリトン市長で、ロングボーンに住むようになっていたのであるが、その一家とベネット家は親しく付き合っていた。ルーカス夫人とベネット夫人は同じくらいに頭が悪く、その娘のシャーロットとエリザベスはそれぞれ頭がよかったので、親しかったのである。(先祖代々の地主であるベネット家と、商人からの成り上がりであるルーカス家とでは、その奥底には火花が散るような対立関係があったことも想像できる。) ジェインのビングリーに対する態度をめぐっては、シャーロットはエリザベスとは反対に、ジェインはもっと自分の気持ちをビングリーに伝えるように努力すべきだと考えていた。(シャーロットはジェインやエリザベスに比べて年長で、彼女たちほどの美貌に恵まれていなかった)。その一方で、いったんはエリザベスのことを踊りたくなるほどの美人ではないといったダーシーであったが、いつの間にか彼女の悪戯っぽい眼や軽やかな動作に魅力を感じ始め、彼女に興味を抱き始めた。しかし、エリザベスはそんなこととは知らず、愛想のいい態度をとろうとはしない。
 ビングリーの姉妹であるハースト夫人とミス・ビングリーとは、ジェインと仲良くなろうとして、彼女をネザーフィールドに招待する。ところが、出かける途中でにわか雨にあったジェインは風邪をひき、そのままネザーフィールド邸に留まることになる。姉のことを心配したエリザベスは、雨上がりの泥だらけの道を歩いて、姉のもとにかけつける。ネザーフィールド邸の一同はびっくりするが、彼女を受け入れ、しばらくの間エリザベスも邸に留まることになる。

 エリザベスは姉を看病していたが、ハースト夫人とミス・ビングリーも様子を見ていた。晩餐の席で、姉の容体をビングリーが心配していることを、エリザベスは心強く思ったが、その一方で、彼の姉妹たちが、姉のことについて表面的な好意しか見せていないことも見抜いていた。晩餐の席のなかで彼女は場違いな闖入者でしかないことを自覚していたが、ビングリーの気持ちだけはありがたかった。ミス・ビングリーはダーシーのご機嫌取りに専心しており、ハースト氏は食べることに夢中であった。

 食事が済むと、エリザベスはまた姉の看病に戻った。すると、すぐにミス・ビングリーがエリザベスの悪口を言いだした(ミス・ビングリーはダーシーと結婚しようと考えており、ダーシーがなぜかエリザベスに魅力を感じ始めているのを知っているので、彼女の悪口を言い募るのである)。
 先ず非難されたのは、姉の見舞いのために徒歩でやって来て、衣服を泥だらけに汚していたことである。ビングリーはそれは姉を思ってのことだといい、ダーシーは、たしかに衣服を泥だらけにするのはいいことではないが、彼女が姉のために歩きつづけてきたことで、彼女の美しい瞳は運動のためにいよいよ輝きを増していたという。
 この方面での攻撃がうまくいかなかったことで、ミス・ビングリーは今度はベネット姉妹の家柄の低さについて攻撃を始める。ベネット家は代々の地主であり、ビングリー家は父親の代に財をなした成り上がりであることは棚に上げて、姉妹の母親が事務弁護士の娘であることをあげつらうのである。

 さて、ジェインの看病からエリザベスが戻ってくると、一同はトランプをしていた。エリザベスはトランプが好きではなかったので、一座に加わらず、そこにあった本を読むことにした(どうもオースティンはトランプが好きではなくて、それがヒロインの好みにも反映していたのではないかと思う)。
 ビングリーは自分の蔵書が乏しいことを弁解し、ミス・ビングリーはそれに乗じて、ダーシーのペムバリーの邸の蔵書が立派であることをほめる。そして兄(ビングリー)が同じように立派な屋敷を構えるようにとそそのかす。ビングリーは笑って取り合わない(妹たちの言うほど、それが簡単なことではないとわかっているからであろう)。
 それから話題は、ダーシーの妹のミス・ダーシー(ジョージアナ)のことに移る。ミス・ビングリーは彼女がきれいでしとやかであると賞賛し、さらにさまざまな才芸を身につけていると指摘する。そこから、話題は才芸のことに移る。ここで注意しておいてよいのは、オースティンの原文には「才芸」に相当する単語はなくて、accomplishedという語がつかわれていることである(そういえば、第3章でベネット家の三女のメアリーがthe most accomplishedだと噂されて喜んでいた。もちろん、この作品中にはaccomplishments=才芸という語も用いられている)。

 ビングリーが最近の若い女性は実によく才芸を身につけているというのに対し、彼の姉妹たちは反論する。そして彼女たちにとって心強いことに、ダーシーが、本当に才芸を身につけていると思う自分の女性の知り合いは6人くらいだという。例によって、ミス・ビングリーがそれに同意するが、エリザベスは
”You must comprehend a great deal in your idea of an accomplished woman."
「あなたの考える才藝を身に附けた女性というのは相当に程度が高いですわ。」(大島訳、76ページ)という意見をさしはさむ。
 これに対し、ダーシーは、程度が高いという意見を肯定する。ミス・ビングリーが、ダーシーの意見に補足するつもりで、必要とされる才藝を列挙するのに対し、ダーシーは「そういうものはみんな身に附けたうえで…しかもさらに、幅広い読書によって精神の向上をはかり、より本質的なしっかりとしたもの(something more substantial)を身に附けなければならない」(同上)というので、エリザベスは、そんな女性が6人もいるというのは信じられないという。
 ダーシーは、あなたは自分の同性に対して厳しいのですねと言い、(自分たちがその6人に入っている思っているのであろうか)ビングリー姉妹も大声で抗議しはじめたので、ハースト氏がうるさいから話をやめてくれと言い出し、話が途切れ、エリザベスはまた姉の看病に戻る。

 "Eliza Benett," said Miss Bingley, when the door was closed on her, "is one of those young ladies who seek to recommend to the other sex, by undervaluing their own; with many men, I dare say, it succeeds. But, in my opinion, it is a paltry device, a very mean art. 「エライザ・ベネットって」と、エリザベスが部屋から出て扉が閉まると、ミス・ビングリーが云った。同性を貶めることで自らを異性に売り込もうというあの手の女の一人ね。それがまた結構上手くいくのよね、多くの男に。でもそういうのは、私に云わせればけちなけちな小細工だわ、ひどく卑しい手口よ。」(大島訳、78ページ)

 これに対して、この言葉の主な対象であったダーシーは、その通りだというが、その言い方は、「同性を貶す」エリザベスを貶すミス・ビングリーに向けられているようでもあったので、ミス・ビングリーも黙ってしまった。

 エリザベスが戻ってきて、ジェインの容体があまりよくないといったので、ビングリーはジョウンズ先生を呼びに行こうといい、翌朝早く、医師を呼びに行くことになった。皆が、落ち着かない気分でその夜を過ごした。

 第8章が終わる。同床異夢というか、それぞれが別の思いを抱いて、ネザーフィールド邸での一夜を過ごす。この後の物語の展開を考慮に入れると、余計にオースティンの小説づくりのうまさが理解できる個所である。第9章では、娘の容体を心配したベネット夫人が見舞いにやって来る。彼女はできるだけ、ジェーンをネザーフィールド邸において、ビングリーとの仲を親密にさせたいという腹積もりなのであるが、事態はそれほど簡単ではない。
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