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ジェイン・オースティン『高慢と偏見』(4)

8月4日(日)晴れ、暑し。

 18世紀の終わりから、19世紀の初めにかけてのイングランド。ロンドンの北の方にあるハートフォードシャーのロングボーンという村の地主であるベネット氏にはジェイン、エリザベス、メアリー、キャサリン、リディアという5人の娘がいた。ベネット夫人にとって、この5人の娘たち(長女のジェインが22歳くらい、末のリディアが15歳くらい)の結婚が最大の関心事であった。
 だから、ロングボーンの近くのネザーランド・パークという邸宅をビングリーという北イングランドの大金持ちの青年が借りて住むようになったという情報を得ると、ベネット夫人は娘たちの1人をその妻にしようと張り切り始めた。
 この地域の中心地であるメリトンの町で開かれた舞踏会に、ビングリーは結婚している彼の姉(ハースト夫人)、その夫(ハースト氏)、未婚の妹(ミス・ビングリー)、親友だというダーシーという人物を連れて参加した。気さくなビングリーは、人々の人気を集めたが、あまり人とうちとけないダーシーは、ビングリーよりも家柄がよく、裕福だという噂にも関わらず、不評を買った。ビングリーはジェインと2度踊り、二人は互いに好意を抱き合ったようであったが、ダーシーは、エリザベスが1人で踊らずにいるときに、彼女と踊るようにビングリーに勧められて、踊りたくなるほどの美人ではないと断ったのをエリザベスに聞かれてしまった。
 ジェインはエリザベスにビングリーを愛していること、彼の姉妹たちも好感の持てる人びとであると思っていることを告げるが、エリザベスはジェインのビングリーへの愛情を喜ぶが、彼の姉妹たちの他を見下すような姿勢を見ると姉の意見には同意できなかった。彼女は、ジェインがビングリーへの思いを伝えることに慎重であることを喜んでいたが、彼女の親友で隣人であるシャーロット・ルーカスは、もっと積極的に思いを打ち明けた方がいいのではないかという。エリザベスは姉とビングリーの恋のことで頭がいっぱいだったが、彼女の知らないところで、もう一つの恋が始まろうとしていた。彼女が踊りたいほどの美人ではないといったダーシーが、その後で、彼女の眼の美しさやその表情に魅力を感じ始めていたのである。
 そこで彼は機会をとらえては、彼女がどのような人物であるかを知ろうとしたが、最初に受けた侮辱で心を硬化させていたエリザベスは、彼に容易に心を開こうとはしなかった。ダーシーはミス・ベネットにエリザベスの美しい瞳について話してしまうが、そのため(ダーシーとの結婚を思い描いている)ミス・ベネットはエリザベスに敵意を燃やし始めたのである。(第6章まで)

 ベネット氏は年に2000ポンドの収入のある地主であったが、その地所は、限嗣相続のために、ある遠縁の人物(第13章から登場するコリンズ氏)の手に渡ることになっていた。ベネット夫人の父親はメリトンの町で事務弁護士(attorney)を開業していたが、娘のためには4,000ポンドの遺産を残したのみであった。ベネット夫人には姉と弟があり、姉はフィリップスという父親の事務弁護士の仕事の後継者と結婚して、メリトンに住み、弟はロンドンのシティーに住んで商人をしていた(弟のガードナー氏とその夫人は、物語の公判で重要な役割を演じることになる)。
 イングランドでは弁護士は法廷弁護士と、事務弁護士とに分かれ、上位裁判所で当事者のために弁論できるのは法廷弁護士だけである。オースティンの時代には、法廷弁護士はsergeantあるいはbarristerと呼ばれており、事務弁護士はコモン・ロー裁判所の場合にはattorney,衡平法裁判所の場合にはsolicitor,海事・宗教・検認・離婚裁判所の場合にはproctorと言ったが、1873年の裁判所法で、すべての事務弁護士をsolicitorとよぶようになった。(法廷弁護士の方もbarristerに統一された)。法廷弁護士になるには、法曹学院(Inns of Court)の一つで教育を受け、資格を授与される必要がある。これに対して事務弁護士になるには一定期間(通常5年)実務修習生として勤め、その後、事務弁護士協会の課する試験に合格しなければならない。物語の中でも触れられているように、両者の間には大きな階級的な差異があった。(現在ではそんなことはないようである。) とにかく、ビングリー姉妹は、ベネット姉妹の伯父が事務弁護士であるということで、彼女たちが上流の紳士と結婚する資格がないと考えている。もっとも、物語を詳しく読めば、ビングリー姉妹も、ベネット姉妹とたいした階級的な格差がないことがわかるはずである。
 ベネット夫人の義兄と弟は、自分の実力で社会的な地位を上昇させているミドル・クラスに属する人々であるが、ベネット夫人がそのような階級的自覚から縁遠い人物であることも注目しておいてよい。この前後で、彼女は軍人やその軍服姿にあこがれるが、この時代(ヨーロッパ大陸ではナポレオンが活躍していた時代)の英国の軍隊での出世は、その人間の出自と有力者の保護のあるなしによっていた。

 ロングボーンの村とメリトンの町の間の距離は2キロほどだったので(原文ではonly one mileとあるから、もっと短い)、ベネット家の姉妹は、このメリトンに住む伯母(フィリップス夫人)のところに、週に3・4回ほどは顔を出していた。特に、頭の空っぽな下の2人、キャサリンとリディアが熱心であった。
 ナポレオンに率いられたフランス軍が、いつイングランドに侵攻してくるかわからなかった時代なので、イングランドでは義勇軍が組織されていた。その義勇軍の連隊がメリトンに本部を置いて、この一帯に駐在することになった。フィリップス伯父が、この連隊の士官たちと近づきになったために、キャサリンとリディアは、士官たちの情報をたくさん仕入れることができ、そのことで2人の話題は独占されていた。ベネット氏は、そんな2人の娘をたしなめようとしたが、下の2人の娘たち、とくにリディアに甘いベネット夫人がそれを妨げた。

 ベネット家でそんな会話が交わされているときに、ジェインのもとへ、ミス・ビングリーから招待の手紙が届いた。退屈なので、訪問してほしいというのである。ジェインはネザーフィールド・パークまで馬車で行こうとしたが、ベネット夫人は騎馬で行かせようとした。もし雨が降れば、引き留められ、その結果としてビングリーと親密になる機会が増えるだろうという考えからである。
 その通り、ジェインは騎馬で出かけ、途中で雨に降られたので、ベネット夫人は自分の計略が図に当たったと喜んだが、ジェインは訪問先で風邪を引いて寝込んでしまった。そのために、ネザーフィールドで引きとめられたのだが、ベネット夫人はむしろそれを喜んだのである。

 風邪をひいたというジェインからの手紙を受け取ったエリザベスは、彼女の様子を見に出かけようとする。彼女は姉と違って馬に乗れないので、歩いて出かけようとする。わずか3マイルなので、その日のうちに行って戻ってくることはできるという。キャサリンとリディアがメリトンまで一緒に出掛けるというので3人はそろって出かけ、メリトンで2人と別れて、エリザベスはネザーフィールドに向かう。
 朝早く、衣服を泥だらけにしてエリザベスが現れたので、ネザーフィールドの人々は驚くが、彼女を迎え入れる。ビングリー姉妹は彼女の行動を軽蔑しながらも、いんぎんな態度で彼女を迎えた。ビングリーは姉思いの妹の出現を好意をもって迎え、思いやりの表情を浮かべた。ダーシーは運動で上気したエリザベスの表情の美しさに見とれながらも、わざわざこんなことをする必要があるのかといぶかっていた。朝食のことしか頭にないハーストは何も感じなかった。

 ジェインの容体はあまり好ましいものではなかった。やがて薬剤医師がやって来てひどい風邪であると診察した。エリザベスは姉の看病をつづけたが、3時になったので帰ろうとした。ミス・ビングリーが自分たちの馬車を出そうというので、彼女はその申し出を受け入れようとしたのだが、ジェインが心細がり、ミス・ビングリーもエリザベスに屋敷に留まるように勧めないわけにはいかなかった。エリザベスは深く感謝して、この申し出を受け入れ、召使がロングボーンに向かって、この旨を伝え、エリザベスの着替えを持ち帰ったのであった。

 第1部が23章、第2部が19章、第3部も19章、合計61章というこの長編小説の第1部第7章までやっと読み終えたことになる。ネザーランド屋敷に泥だらけで現れたエリザベスの姿はかなり異様なものであったはずだが、姉のジェインを愛しはじめているビングリーは姉思いの妹の姿を受け入れ、そのエリザベスに興味を持ち始めているダーシーは、彼女の上気した表情に魅力を感じてしまう(そういう女性の表情をそれまで見たことがないためでもあろう)。ビングリー姉妹はエリザベスの異様な姿を嘲笑するが、どうも効果は乏しいようである。ということで、物語はまだまだどこに行き着くかわからない展開を始め、しかも、これからまだ新しい登場人物が現れて、ますます複雑になっていくのである。
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