張競『中華料理の文化史』

7月10日(水)晴れ、相変わらず暑い

 1997年に筑摩書房から出版された同名書に、時代の変化を反映した加筆を施して、ちくま文庫の1冊として刊行された書物。著者は上海生まれ。日本に留学。その後長く日本に住み、アメリカの大学に滞在したこともある。日常の食事としてまたごちそうとして中国の料理を食べてきたし、自分で料理もしてきた。中華料理についてかなり広い視野から見てきたし、語ることができる立場である。

 この書物は次のように書きだされている:
 中華料理と言えば、「四千年の歴史」がまくらことばのようについている。はたして四千年前の中国人は現在の「中華料理」を食べていたのか。テレビの料理番組、雑誌の記事や料理書ですっかり耳慣れたこのセリフを聞くたびに疑問に思わずにはいられない。(10ページ)

 著者自身が1994年に調査のため9年半ぶりに上海に戻った際に、料理や食生活の変貌ぶりに戸惑ったそうである。こうして「過去の長い歴史のなかで、異なる民族の食文化を吸収して形成してきた中華料理は多様性に富んでいる」(27~28ページ)という見地から、中国における料理の歴史を概観して、その変貌ぶりをたどったのがこの書物である。

 第1章「孔子の食卓――春秋戦国時代」は孔子の時代の食生活や料理法、食事のマナーなどを概観している。地方によってまた社会階層によって食生活が違うのは昔も今も同じである(その程度に違いはあるかもしれないが・・・)。「現在もっとも多く栽培され、庶民生活に欠かせない白菜、チンゲン菜、キャベツ、ほうれん草はどれもまだ登場していない」(42ページ)という。

 第2章「ラーメンの年輪――漢代」では麦栽培の増加、粉食の登場、さらには麺類の出現と普及が記されている。外食業が出現したのはこの時代であるという。

 第3章「食卓のビッグバン――魏晋・六朝時代」はこの時代に遊牧民族の影響で広まった「胡餅」の移り変わりと、中国における主食の転換が述べられている。

 第4章「犬肉を食うべきか食わざるべきか――隋唐時代」はそれまで食べられていた犬肉が、次第にいやしいものとして食べられなくなる過程がたどられている。この時代、西域から新しい食材が渡来し、食生活はますます豊かになる。

 第5章「羊肉VS豚肉――宋代」はこの時代、羊肉が重んじられたが、それが北方の民族の習慣であり、羊肉食がしだいに南下していったこと、当時の中国の料理が油をそれほど使わず、日本料理に近いものであったことなどを語っている。

 第6章「箸よ、お前もか――宋元時代」は日本では橋を横に置くのがふつうであるのに対し、中国では縦に置くが、中国でも昔は横に置くのがふつうであり、それがこの時代に変化したと述べている。

 第7章「ああ、フカヒレ――明清時代」はフカヒレに代表される珍味の発見や、唐辛子の登場によってもたらされた味覚の革命について述べられている。北京ダック、アワビ、ピータン、クラゲが広く食べられるようになったのも新しいことであるという。

 そして21世紀を迎えて中華料理は進化し続けている。特に変化が急速に訪れるようになった最近20年間を通じてみ書くの進化の早さと、それに適応する中華料理の柔軟な包容力が感じられるという。新しい食材が加わり、調理法が変化し、刺身や焼き肉が中華料理に加わっている。料理名や食器にも変化の波は押し寄せている。中華料理は変化し続けている。

 この書物の結論の1つは中華料理の特徴はその雑種性にあると言うことであるが、日本料理にもある種の雑種性はあり、そう考えてみると、雑種性を指摘するだけでは不十分なのかもしれない。豊富な逸話を含み、中華料理の変遷の概要をつかむのには便利な書物であるが、さらなる掘り下げも必要であろう。
 
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