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トマス・モア『ユートピア』(15)

8月22日(水)晴れ、暑い。

 1515年、イングランド国王が外交交渉のためにフランドルに派遣した使節団の一員であるトマス・モアは交渉の中断中にアントワープに赴き、その市民であるピーター・ヒレスと親しく付き合った。ある日、そのピーターからモアはラファエル・ヒュトロダエウスという人物を紹介される。ラファエルは新大陸の国々を歴訪して、セイロン島からヨーロッパへと戻ってきたという。ラファエルの経験と知識とに感心したピーターとモアは、彼にどこかの王侯の顧問としてその経験と知識とを実際の政治に生かすように勧めるが、ラファエルは王侯たちは戦争と自分たちの財産を増やすことにしか関心を持たず、その取り巻きたちはその鼻息を窺ってばかりいるので宮仕えはしたくないという。そしてヨーロッパの諸国、とりわけイングランドの社会の矛盾や問題について話すうち、それらの解決のための手掛かりとなるような国が新世界にある、ユートピアであるという。ピーターとモアは、ラファエルにそのユートピアについて話すように頼む。
 ユートピアは54の都市からなる島国で、もとは半島であったのが、ユートプスという指導者が出て掘削工事を行って大陸から切り離された。54の都市は適当な距離を保っており、都市間の土地争いは起きていない。そこではすべての人々が働き、特に都市の周りの農地では全員が交代で働くことになっている。住居は10年ごとにくじ引きで交換し、役人は経験豊かな市民たちの間から選挙でえらばれる。重要な事柄は、各都市の代表が島の中心部にあるアマウロートゥムという都市に集まって決めるが、必要があれば全島会議に諮られることもある。すべての人々がなにかの職業に従事することになっていて、農業が主な職業であるが、その他いくつかの職業に従事する人々がいる。

 ユートピアでは性別、既婚未婚の別がわかるようになっているほか、すべての人々が同じ形の服を着ているので、服を仕立てる専門の職業は見られず、各人がそれぞれの家庭で自分たちの衣服をつくる。農業以外にいくつかの職業があるが、その技能のうちのどれか一つを男女の別なくすべての人間が習う。女性は弱者として軽い仕事を選ぶことになるので、羊毛織か亜麻織を選ぶことが多い。一般には父親の職業を習うことが多い。「というのは多くのひとは自然の性向で父親の職業につきたがるからです。」(134ページ)しかし、もし子どもが父親の職業以外の仕事を習いたいと思えば、その仕事をしている家庭に養子として加わることができる。その際、できるだけよい養父を選ぶように実の父親も役人たちも配慮する。一つの職業を習い覚えた後、また別の職業を習うことも認められている。そうして2つ以上の職業につくことができるようになったものは、その片方が特に社会にとって必要だという場合を除き、自分のより強く希望する職業を選ぶことができる。

 30世帯からなる住民単位から選ばれた部族長の主な仕事は、一方では怠けて仕事をしない者がいないか見張ることであり、もういっぽうでは、働きすぎて疲れきっている者がいないかと注意しながら、働きぶりを監督することである。「そのような(働きすぎの)労働は奴隷的酷使よりなお悪いからです。しかし、それが、ユートピア人以外のほとんどすべての労働者の生活状態なのです。」(134‐135ページ) 
 ユートピア人たちは夜も含めて1日を24時間に等分し、そのうち6時間を仕事にあてる。そのうち3時間は午前中、昼食のために1時間休憩し、その後また3時間働いて、それから夕食の時間となるという。ちょっとわかりにくいが、実は彼らは1日の最初の時間を正午から数えるので、我々の時間で言うと正午から3時間働いて昼食のために1時間休み、それからまた3時間働いて夕食をとるいうことである。それで我々の時間で言うと午後8時ごろに就寝することになる。睡眠は8時間とる。(ということは、翌日の午前4時ごろに起きるということになる。)

 仕事と睡眠、食事の間の時間は、各人の自由裁量に任されている。たいていのユートピア人はこの時間を学問(リテラエ)のために使っている。(午前4時から正午までの時間は自由に使えることになるから、このようなことは可能である。) 毎日、早朝に公開講義が行われ、それは学問研究のために選抜された人々だけでなく、興味のある人々も参加できるようになっている。
 多くのひとが指摘しているように、またこのブログでも述べているように、ユートピアは実在のイングランドから夢想された世界である。イングランドは日本に比べて緯度が高いので、夏には午後8時くらいまで(サマータイム制をとっているので、実際には午後9時くらいまで)明るいのである。勉強好きなモアは、6時間働き、8時間睡眠をとって、(おそらく)3時間は食事のために休み、残りは勉強するというユートピア人たちの姿を描いているが、現実の英国人はテニスをしたりして体を動かしている例が少なくないようであった。逆に冬になると、日照時間は日本よりもはるかに短くなる。

 「夕食後の1時間を彼らは夏なら庭で、冬なら食事をとる共同ホールで遊んで過ごします。そこで彼らは音楽を奏でたり、会話を楽しんだりします。」(136ページ) だからユートピア人は、まるで遊ばないというわけでもないのだが、スポーツよりも盤戯が好まれているようである(この辺がモアの趣味なのであろうか)。

 6時間労働では十分な生産をあげることができないのではないかという疑問に答えて、ヨーロッパでは多くの人々が働いていないという現状を指摘して、すべての人間が労働に従事するようになれば、労働時間は現状よりもはるかに少なくなるはずだという。ここには権力の末端にいたり、権力に寄生したりして、怠惰に生活している人々へのモアの怒りが感じられる。さらに、日常生活で必要とされない贅沢品のために、多くの労働が浪費されているという現実も指摘される。
 部族長たちには、自分たちが模範となって他の市民の勤労意欲を掻き立てることが求められている。労働から免除されるのは、学問研究に専念することを認められた人々だけである。彼らがもし、その期待に背けば職人に戻されるが、逆に職人の中で学問研究で頭角を現す人が出れば、彼らは学者のグループに昇格することもある。そして公職への被選挙権があるのは、これらの学者グループに属する人々だけである。(一種の哲人政治である。)
 ユートピアでは建造物は絶えず補修され、また改修のための準備が行き届いているので、巨額の建築費をかけて新たに建築物を建てるということはほとんどなく、また衣類についても贅沢をしないので、費用は掛からない。
 彼らは全員が有益な仕事に携わっており、無駄やぜいたくが省かれているので、労働時間は少なくて済む。社会の目的が「公共の必要という点から許される限り最大限の時間を、肉体労役分から解放し、精神の自由と共用(来るとぅす)のために確保すること」(141ページ)であるので、余計な労働を強いることはない。精神の自由教養こそが人生の幸福であると彼らは信じているからである。

 モアの時代は、各国で農民の反乱がおきた時代であり、それは富の偏在とともに、労働の偏在が誰の目にも明らかであったからである。古代の哲学の知識と、同時代の社会の観察を組み合わせて、そのような社会の抜本的な改革を論じている点が注目されるのである。
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