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浦島伝説の変遷

8月21日(火)晴れ、暑さが戻ってきた

 本日(8月21日)の『日本経済新聞』の文化欄に、苫小牧駒澤大学教授である林晃平さんの「浦島伝説 壮大な変遷」という興味深い論稿が掲載されている。浦島太郎の伝説をめぐっては、かなり多くの研究が積み重ねられていて、林さん自身も既に『浦島伝説の研究』(おうふう、2001)という著書を発表されている。この度、新たに『浦島伝説の展開』(おうふう)という書物を上梓されたそうで、600ページを超える大著だというから、年金生活者の私には手が出るような値段の書物ではなさそうで、この新聞記事の概要を見ていくことで我慢しておこう。

 浦島太郎はもともとは、亀ではなく、船に乗って竜宮に出かけていた。そもそも浦島太郎という名前になったのは、室町時代の御伽草子からで、古代の伝説の世界では水江(みずのえ)の浦島子であった。また行き先も竜宮ではなくて、常世の国あるいは蓬莱であった。その竜宮城も海底ではなくて、海上にあったという話もある。浦島太郎が開けた玉手箱から上がるのは白い煙ではなくて、五色の煙だったりする(『水鏡』では紫の煙である)。とにかく古代から現代にいたるまで浦島太郎の伝説は様々に語り伝えられてきた。

 そのような伝説の変遷を、主として御伽草子以後の展開に焦点を当てて研究してきたのが林さんであり、各種の絵巻物や絵本など、国内だけでなく海外に収蔵されるものまで探しながら、変化の様相をさぐり続けてきた。この論稿の中で強調されているのは、次の3点である:
 浦島太郎が亀にのって竜宮城に行くことになるのは、資料に基づく限り18世紀の初頭からである。同じ時期に「蓑亀」という長寿の象徴である亀の図像が流行したことと関係があるらしい。
 竜宮城は蜃気楼と関係が深い。北海道の小樽には以前、「竜宮閣」という遊園地があったが、このあたりから蜃気楼が見えることによる命名であったそうである。また幕末の錦絵には、当時蜃気楼の名所として知られていた四日市、桑名のあたりの伊勢湾と竜宮城を背景に浦島と乙姫を描いたものがあるそうである。
 浦島伝説は近・現代になっても語り継がれ、変容を続けている。太宰治が1945年に執筆した「浦島さん」などは、空襲にあった竜宮城を描いており、そうした変容ぶりの一例である。

 林さんとは別の角度から浦島太郎伝説に取り組んだ研究成果として、三舟隆之『浦島太郎の日本史』(吉川弘文館:歴史文化ライブラリー、2009)があるが、そこでも林さんの浦島が亀にのるようになったのは18世紀の初頭の文献からであるという見解が紹介されている。ただし、「蓑亀」の話は取り上げられていないから、「蓑亀」との関連は、その後の研究によって抱かれるようになった見解ということであろう。
 蜃気楼というと、むかしは大ハマグリ=蜃が気を吐いて、楼閣を描いたものと信じられていた。林さんが取り上げている伊勢湾岸の桑名はハマグリで有名な土地である。そこまで書いていないのは、話が荒唐無稽になるからかもしれないが、お伽草子には「蛤の草紙」という話もあって、浦島太郎と似ている点があるのが気になる。

 林さんはこの物語の多様な変遷ぶりを強調しているが、その点は三舟さんの研究も同様である。浦島についての情報(?)もしたがって錯綜しているが、ところどころ奇妙に詳しい。その結果として、ツッコミどころの多い物語になっている。たとえば、『日本書紀』によると、雄略天皇22年(478)に蓬莱国へ出かけたことになっており、奈良時代に『日本書紀』が成立した時点で彼が故郷に戻ってきたことも暗示されてはいる。『万葉集』の高橋虫麻呂の長歌も同様。ところがこれらよりも後に成立した『水鏡』では同じく雄略天皇22年の浦嶋子の蓬莱への出発を記すだけでなく、淳和天皇の天長2年(825)に浦嶋子が還ってきて、玉の箱を開けたところたちまち翁になったという話が出てくる。347年ぶりに帰って来たと記されていて、数字は合っている。『日本書紀』に浦嶋子のことが記されている理由については、神仙の記事を掲載することで史書としての体裁を整えようとした(現代の目から見れば、かえって歴史書としての価値が損なわれている)ものと言われるが、年代が詳しく記されているというのはどうも不思議である。
 また、浦島を迎えるのが乙姫であることも気になるところではある。乙姫というのは竜王の娘であるが、弟姫であって、兄姫(えひめ)はどうしたのだというツッコミが入ってよさそうである。竜宮というのは必ずしも一か所ではなく、俵藤太藤原秀郷の説話では琵琶湖の湖底にも竜宮があることになっていて、その家族構成も一様ではないかもしれない。

 林さんはかなり多くの絵画資料を収集し、また閲覧して研究をつづけたようで、図像の解析を通じて得られた知見も少なくないと思われる。私が突っ込んだところについても、著書の中で論じている可能性があるので、本屋で立ち読みをしてもう少し詳しく要点だけでもつかんでおきたいところである。
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