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トマス・モア『ユートピア』(13)

8月8日(水)雨、深夜に風雨が強くなるという予報である。

 1515年にフランドルを訪問したトマス・モアは、ピーター・ヒレスからラファエル・ヒュトロダエウスという世界中を旅してきた人物を紹介される。彼の経験と知識とに感心したピーターとモアは、どこかの王侯に顧問として仕えて、その政治を助けるように勧めるが、王侯の関心は戦争と蓄財だけであり、その取り巻きは追従をこととしていて諫言とは無縁であることを知っているラファエルは同意しない。彼はヨーロッパ諸国、特にイングランドの直面している社会問題に対して、もっともよい解決例を示しているのは新世界にあるユートピアという国の諸制度であるという。ピーターとモアの要請にこたえて、ラファエルはユートピア島のあらましとその諸制度について語りはじめる。
 ユートピアはもともとアブラクサという半島であったのを、ユートプスという指導者が現れてこの土地を本土と切り離し、新月(三日月)型の島にした。島はユートプスに因んでユートピアと呼ばれるようになった。島には54の都市があり、それぞれが同じくらいの規模で、程よい距離を保って位置している。島のほぼ中央にあるアマウロートゥムが各都市の代表者たちが集まって重要な問題を協議する場となっている。
 都市の周辺には農村が広がり、人々が交代で農業に従事するが、農業が好きなものはずっと農村にとどまってもよい。農産物は計画的に生産され、余ったランキング作物は無料で必要とする者に分配される。
 ユートピアの都市はどこも同じようなものなので、首都であるアマウロートゥムについて説明すれば全体の説明になる。アマウロートゥムはアーニュドルス川(ロビンソン訳ではアニュダール川)という川に面しており、それはロンドンとテームズ川の関係に似ている。アマウロートゥムは城壁で囲まれ、水道が完備し、よく整備された道路が通じている。人々は3階建ての立派な住まいに住んでいるが、10年ごとに住居を交換し、プライバシーというものはない。また住居には庭がついていて、人々はその手入れに夢中になっている。

 30世帯が1単位で毎年一人の役人を選ぶ。彼らの古い言葉でこの役職はシフォグラントゥス(長老)、新しい言葉ではフィラルクス(部族長)と呼ばれる。ロビンソン訳ではSyphograngrant, Philarch, 平井訳ではシフォグラント(意味は明瞭ではない)、フィラーチ(家族長)、ターナー訳ではStyward, Discrict Controller (地区取締)となっている。〔Stywardという語は辞書に出ていないが、Stewardの変形と思われる。Stewardは執事、家令、財産管理人など、「兵隊の位」で言えば下士官相当の役職で、世話役くらいが適当な訳であろうか。私の住んでいる地域の自治会に当てはめてみると、会長と班長の中間くらいの存在に思われる。〕

 さらに部族長10人ごとに昔はトラニボールス、今はトラニボールス(部族長頭領)と呼ばれる役職がある。そして200人余りいる部族長たちは、公益上最適任と考える人物を選ぶという宣誓をした後で、民衆が彼らに対して指名した4人の候補者の中から、秘密投票によって一人をプリンケプス(都市頭領)に選ぶ。このプリンケプスはラテン語で指導者という意味であるが、ロビンソン訳はprince(君主)と訳しているが、ロビンソン訳に基づいている平井訳はここでは市長とロビンソンの誤解を訂正している。ターナー訳もMayor(市長)と訳している。4人というのは、都会の4つの区(パルス)から各一人ずつ計4人が候補者として、セナートゥス(長老会議)に推薦されるからである。ロビンソン訳ではparsではなくquarterという言葉が用いられている(大した意味の違いがあるわけではない)。
 このセナートゥスはローマの元老院や、アメリカ合衆国の上院と関連する言葉であるが、唐突に出てきていて、部族長の会議であるのか、都市頭領の会議であるのか、あるいは別の組織なのか、はっきりしない。ローマの元老院は基本的には貴族の代表、アメリカの上院は各州から2人ずつ選ばれる議員で構成される。ローマの場合、貴族ではない騎士階級や平民も政治的発言力を持っていて、いわば二元的な政治体制であり、アメリカも下院は人口に応じて各選挙区から選ばれる議員によって構成されるという二元的な制度が採られている。モアが一元的な代議員制度をよしとしたのか、二元的な代議員制度をよしとしたのか、あるいはどちらとも決めかねていたのかはわからないが、決めかねていたからこのようなあいまいな表現をしていると受け取ることもできる。

 都市頭領≂市長の職は彼が僭主制を目指しているという疑いで失格にならないかぎり、終身のものである。僭主というのは、古代ギリシアの歴史で、都市国家を暴力によって支配した独裁者、あるいは寡頭政権の頭領たちである。これに対して、他の役職は1年任期で交代する。〔都市頭領≂市長になるのは老年者だから、それほど長くこの職を務めずに世を去るだろうという思惑があるのかもしれない。〕
 (部族長)頭領たちは3日おきに集まって会合を開くという。このようにできるだけ時間をかけて重要な問題を議論しようとしていて、立法を急ごうとはしない。重要な問題は、部族長頭領たちだけで決めずに、部族長会におろして議論され、さらに長老会議、時には全島会議が開かれることもある。
 長老会議には、動議が提出されたその日のうちにそれを議論しないで、次の会議まで待つという風習がある。これは軽率な提案をそのまま議論するのではなくて、少し考えてから議論しようという意図からであるという。『澤田さんは「動議」と訳しているが、「法案」とか「決議」などの「提案」と考えるほうが妥当であろう。

 ユートピアの地方組織は住民組織と結びついて考えられ、段階的に構成されているが、選挙に基づく民主的に選出された役員によって運営されていることが特徴的である。現在の日本でも住民の自治組織と、地方行政の組織の関係は単純なものではないが、民主主義の根幹にかかわるこの問題があまり表面化しないのはどういうことであろうか。
 中世から近世にかけてのヨーロッパ諸国には身分制の議会が設けられていて、英国の場合それが今日の国会の原型になっているのであるが、貴族(Lords、英国の上院はHouse of Lordsと呼ばれる)と平民(Commons, 英国の下院はHouse of Commonsと呼ばれる)の対立は、それぞれが相手をチェックするという効果も持っていたわけで、そのような二元的な制度をモアがどのように評価していたかも知りたい気がする。モアはヘンリーⅧ世という絶対君主に仕えながら、内心では民主制をよしとしていたわけで、彼が最後に反逆罪で処刑された本当の理由はこのあたりにあるのかもしれない。

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