サックス・ローマー『骨董屋探偵の事件簿』

6月15日(土)晴れ

 6月11日にサックス・ローマー『骨董屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)を読み終える。サックス・ローマーSax Rohmer(1883-1959)は英国の作家(両親はアイルランド人)で、義和団事件の巻き添えで欧米の軍隊に妻子を殺された復讐のために白人社会に災いを成す怪人フー・マンチュー博士を創造した作家として知られるが、他にも多くの作品を残しており、この短編集もその1つである。

 語り手であるサールズは友人マーティン・コラムが館長を務める博物館で起こった怪事件の際にモリス・クロウを知りあった。ロンドンのイースト・エンドの1区画ウォッピングに店を構え骨董を商うクロウは、現場で眠れば犯罪の決定的な場面を脳内に再現できると述べ、犯罪は周期的に起こるとの持論を展開する。サールズは彼の言動に魅せられ、調査に同行して彼が携わった事件の詳細を書きとめるようになった。サールズだけでなく、スコットランド・ヤードのグリムズビー警部補も奇怪な事件が起きるとクロウを当てにするようになる。

 クロウの店には「古い家具特有の匂いとともに、鳥類と爬虫類と齧歯類の混ざりあったなんとも言えない臭気」(74-5ページ)がたちこめ、サールズとグリムズビーの来訪に対して、耳障りなキーキー声でオウムが「モリス・クロウ! モリス・クロウ! 悪魔ガアナタヲ迎エニ来タヨ」(75ページ)と告げる。クロウの「肌は汚れた羊皮紙めいた色合いで、頭髪ともじゃもじゃの眉とまばらな口髭はすっかり色が抜けて、元の色がわからない。古めかしい茶色の山高帽をかぶり、金縁の洒落た鼻眼鏡をかけて、黒い絹のスカーフを巻いている」(19ページ)。この不思議な素人探偵には不似合いにも美しい、「クレオパトラもかくやと思わせるしなやかな立ち居振る舞いと妖しい魅力を備えた」(77ページ)娘イシスがいる。この豊かな美的センスをもつ女性は、父親を尊敬してやまない。{彼女の髪を第1話では「黒髪」(23ページ)、第3話では「ブルネット」(77ページ)としているのは作者の記憶の誤りであろう。}

 骨董屋探偵らしく、収録されている10編の短編の多くがさまざまな来歴をもつ骨董の名品にまつわる事件とその解決を描いている。既に述べたことからも明らかなように怪奇的な要素が強く、事件の解決に至る捜査の手法も必ずしも科学的なものとは言えない。ローマーはオカルトの信奉者だったというが、スピリチュアリズムにのめり込んでいただけでなく、怪奇的な作品も多く残していたコナン・ドイルがホームズものに限ってはそのような要素をできるだけ排除している(とはいえ、怪奇色は残っている)のとは対照的に思われる。それから怪奇色に加えてオリエンタリズムの要素が強いのも指摘されてよい点であろう。その一方で、ホームズの活動範囲がロンドンだと西の方を主な舞台としているのに対し、クロウはイースト・エンドに本拠を置いているというのが独学で執筆活動に入ったローマーの履歴と合わせ興味深い。ドイルはパブリック・スクール(ストーニーハースト校)を出て、エディンバラ大学を卒業しているだけでなく、ホームズの住まいはベーカー・ストリートであって、全体として紳士探偵の雰囲気を保っているのに対し、クロウは階級から超然とした態度を見せているように思われる。

 個人的な感想としてはモリス・クロウ物は作品の仕掛けや雰囲気を楽しむ小説という印象をもつのであるが、別の感想もあるかもしれない。 
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とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
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