FC2ブログ

フローベール『感情教育』(5‐5)

2月9日(金)晴れ

これまでのあらすじ
(第1部:1から4まで)
 フランス七月王政下の1840年、大学入学直前の若者フレデリック・モローは故郷であるノジャン=スュル・セーヌ県に戻る途中の船の中で画商だというアルヌーという男と知り合い、その美しい夫人に恋心を抱く。
 モロー家は没落しかけた休暇で母親は一人息子のフレデリックの未来に希望を託している。フレデリックにはシャルル・デローリエという同じ高校で学んだ友人がいて、公証人のところで書記をしている。夢想家で芸術に興味があるフレデリックと現実主義者で努力家のでローリエは育ちも性格も違うが親友である。2人は、いずれパリで共同生活を送ろうと約束する。
 パリに出たフレデリックは、同郷の有力者ダンブルーズや船の中で知り合ったアルヌーのもとを訪問するが、軽くあしらわれる。大学の講義には興味を覚えないが、同じ高校の同窓生のマルチノン、おとなしい貴族のシジーのような友人ができる。
 1841年にパリで暴動が起きた際に警官に拘束されたデュサルディエという同年輩の青年を助けようとしたことから、フレデリックは同じ法科大学に学ぶユソネという演劇に関心を持つ青年と仲良くなり、彼の手引きでアルヌーのもとに出入りするようになる。アルヌーの家での晩さん会でアルヌー夫人に再会した彼は、夫人への恋心を募らせる。
(5)
 パリに出てきたデローリエはフレデリックがアルヌー夫人に熱を上げているのを心配して、友人たちを集める。出世主義者のマルチノン、世間知らずのシジー、アルヌーのもとに出入りしている画家のペルラン、デローリエの友人で社会主義者のセネカル、さらにユソネがデュサルディエを連れてくる。
 なかなか勉強に集中できずにいたフレデリックはデローリエの応援にもかかわらず、二度目の試験に落第する。一方マルチノンは合格して、輝かしい未来への道を歩もうとしている。
 試験を再受験するという名目でフレデリックはパリに残るが、アルヌー夫人への思いは募るばかりで、鬱々として楽しまない。そんな彼をデローリエは(アルハンブラ)という踊り場に連れて行く。2人にはユソネとシジーとデュサルディエが同行する。さまざまな男女が相手を求めて集まってきているが、ユソネが雑誌の仕事や小劇場関係の出入りで知っている女性が少なくないようである。彼は知り合いの女性の家で、ちょっとした集まりを開こうと持ちかけるが、見渡してみると、フレデリックがどこかへ消えている。

 フレデリックはアルヌーの声を聞いたような気がして、その方角に女性の帽子が見えたので、そちらのほうに歩いて行ったのである。案の定、彼はアルヌーと彼の愛人のヴァトナ嬢を見つける。(このヴァトナ嬢は女優のような絵画のモデルのような仕事をしていて、すでに何度か登場しているのだが、物語の大筋に関係がないと判断して、その個所は省いてきた。) 
 どうもアルヌーは彼女に急用ができて、ここへやってきたような様子である。
 人々の踊りが中断され、《表情歌手》のデルマが歌いだす。アルヌーは、ヴァトナ嬢がデルマに思し召しがあるのだろうという。
 フレデリックを探していた連中が、彼らのところにやってきて、ユソネが彼らを紹介する。アルヌーは葉巻を配り、氷菓(ソルベ)をご馳走する。

 「ヴァトナ嬢はデュサルディエを見てぽっとあかくなった。すぐ立ち上がって、手をさし出した。
 「あたしを思い出さないこと、オギュストさん?」
 「きみどうして知っているの?」フレデリックがきくと、
 「同じ家ではたらいていたことがあるんで」と、先方はこたえた。
 シジーが袖をひいて、二人はまた出ていった。その姿が消えるとすぐヴァトナ嬢はデュサルディエの性質をほめはじめた。あの人は《ひとの心のわかる人》とさえ言った。」(120ページ)
 貴族のシジーと労働者のデュサルディエが仲良くしているのは微笑ましいが、ヴァトナ嬢の発言を含めて、ここでは民衆の代表者のような存在であるデュサルディエが好ましい人物として描かれているところに興味が持たれる。ヴァトナ嬢もその出自はそれほど高くはなく、だからデュサルディエとは心が通じ合うと実感しているのである。

 それから一同はデルマの話をはじめ、さらに文学や演劇をめぐる議論が続く。「アルヌーが有名な女優を幾人か知っているというので、青年たちは身をのり出して話を聞いた。だが、その言葉は音楽の騒音でしじゅう消されていた。」(同上) にぎやかな騒ぎはさらに大きくなり、やがてそれも終わって人々は帰り支度を始める。「フレデリックとデローリエは人ごみの中を一足ずつゆっくり歩いていた。とひとつ目についたことがあって立ちどまった、マルチノンが雨傘預り所で、釣銭をうけとっている。そして、五十くらいの、醜い、華美な身なりをした、身分のはっきりせぬ女がかたわらにいた。/「奴は案外、食えない男だ」デローリエがいった。」(121ページ) マルチノンはこういうところにやってくるとはだれも考えていなかったから、誰も誘わなかったのである。ところが得体のしれない女性と一緒にいる(もっとも、近くにいるだけで、何も関係がないのかもしれない。私は近くにいる人間の夫にされたり、縁者にされたりすることがよくあるので、この種の誤解が少なくないと思っている。ただ、「アルハンブラ」にマルチノンがやってきていたという事実は消えない!)

 デローリエはシジーがどこにいるかをたずねる。デュサルディエの指差す方向には「中世騎士の末裔が、ばら色帽子と並んで、ポンスの盃にむかっているのが見えた」(同上)。シジーもどうやら相手を見つけることができたようである。ユソネの腕には若い娘が寄り添っている。ヴァトナ嬢はデュサルディエに送ってくれと頼む。アルヌーは君には一緒に帰る女性はいないのかとフレデリックをからかう。自分が恋しているのはアルヌー夫人だとは言えないフレデリックはどぎまぎする。その夫人のもとにアルヌーは馬車を呼んで帰っていき、フレデリックとデローリエが取り残される。

 1840年代の初めごろのパリの風俗の一端をとらえた場面で、若者たち一人一人の個性が描き分けられているのも興味深い。その多様な個性を持った若者たちに、どのような運命が待ち受けているのだろうか。翻訳者である生島遼一が書いているように、フローベールが若者たちを見る目は、それぞれの長短を描き分けてはいても、同時代を生きた人間としての温かさに満ちている。付け加えれば、ヴァトナ嬢はこれからも姿を現し、物語をかき回すことになる。 
スポンサーサイト



コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR