清岡智比古『エキゾチック・パリ案内』

12月14日(金) 清岡智比古『エキゾチック・パリ案内』(平凡社新書、2012)を読む。

 著者である清岡さんはラジオ・テレビのフランス語の時間の講師として知られている。レナ・ジュンタさんとのコンビで放送されていたラジオの「まいにちフランス語」の時間は、お二人のおしゃべりが楽しすぎて、肝心の勉強がおろそかになるほどであった(これは困るね)。

 そのフランス語の時間でも強調されていたのが、フランスの内外で多様な文化と歴史をもつ人々の間のコミュニケーションの言語として使われているフランス語の役割。フランス語は生きた、変わりつつある言語であるということ。

 この書物は一般のガイドブックでは取り上げられないパリの側面を
  Ⅰ 歴史の痕跡に耳を澄ます――ユダヤ人街…
  Ⅱ イスラーム文化を味わう――アラブ人街…
  Ⅲ 混沌の街を歩く――アフリカ人街…
  Ⅳ アジアから遠く離れて――アジア人街・インド人街
 の順に探索している。
 多文化のフランスについて歴史的に考える場合に(フランスに限らないが)、ユダヤ人問題は避けて通ることができない。フランス革命がユダヤ人たちに市民権をあたえ、東欧における迫害を逃れたユダヤ人たちをフランスが迎え入れたという歴史が一方にあり、ドレフュス事件やナチス占領下でユダヤ人たちが収容所に送られた歴史がもう一方にある。ユダヤ教の信者たちがいる一方で、信じていないユダヤ人もいる。最近では北アフリカから移住してきたユダヤ人が増えているという事実もある。清岡さんの記述は努めて客観的で映画作品を引き合いに出して、読者が視覚的に問題を理解できるように工夫を凝らしている。
 北アフリカからはもちろんアラブ人たちもやってきている。ここでも清岡さんは映画の細部にこだわったりして読者の問題への理解を促している。戸塚真弓さんの『パリの学生街』で触れられているセーヌ河岸のアラブ世界研究所も登場する。未来は「ある混沌、混成のうちにしか存在し得ない・・・過去と向き合う…姿勢こそが来るべき混沌を豊かにする」(88ページ)という指摘は示唆に富む。
 アフリカ人街について触れる中で、清岡さんはパリのハイチ人たちの問題も取り上げている。ハイチはカリブ海に浮かぶイスパニョ―ラ島にあるが、その住民はもとはと言えばアフリカから連れてこられた人々の子孫である。「帰路の切符をもたぬ旅だけが/家族、血縁、/狭い愛郷心からぼくらを救うことができる。…」(ハイチ系モントリオール人ダニー・レフェリエールの『帰還の謎』の一部/小倉和子訳、136ページ)都市の空気は「自由」にするという中世の格言が現代では別の意味をもっていることがわかる。フランスとアフリカをめぐる歴史的な問題とともに、音楽や料理の話題も盛り込まれて別の興味も誘っている。
 アジアと言っても、中国文化圏とインド文化圏では大きく異なるし、その間に位置する東南アジアのインドシナはフランスの旧植民地であった。そして中国もインドもフランス語は古く長い結びつきをもっている。英国の中華街についての想い出をもっている私にとって中華街の記述が特に興味深かった。
 文献だけでなく、映画や音楽、料理にも目を配りながら一般のガイドブックには出ていないパリの姿を興味深く描き出している。
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はじめまして。

お読みいただき、ありがとうございました。
また、ラジオ放送でも趣旨を感じていただいたようで、
嬉しく思いました。
一言お礼をお伝えしたくて、
ここにコメントさせていただきます。

Merci beaucoup !
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