ヘーゲル『歴史哲学講義』

8月13日(日)曇り

 19世紀ドイツの哲学者であるG.W.F.ヘーゲルの『歴史哲学講義』(Vorlesungen über die Philosophie der Geschichte)の長谷川博さんによる翻訳(岩波文庫)を手掛かりに歴史について考えていることを書き連ねていこうと思う。ヘーゲルの歴史観はいかにも観念論哲学者らしく、理性が世界史を支配し続け、自由を実現していく過程であるというものである。私はそんなことを信じてはいないが、自分で勝手に歴史について書き散らすよりも、体系としてまとめられた歴史論を論評するという形で議論を進めたほうが自分の考えをまとめやすいと思い、あえてこの本に取り組んでみる次第である。それにこの本は、ヘーゲルが大学で学生を相手に講義した内容をまとめたものなので、わかりやすく書かれており、さらに翻訳者もこのことを理解してかなりわかりやすい日本語に移し替えている。

序論
 序論は歴史的についてのヘーゲルのとらえ方と、これから展開される内容の予告を述べている部分であり、A「歴史のとらえ方」、B「歴史における理性とはなにか」、C「世界史のあゆみ」、D「世界史の地理的基礎」、E「世界史の時代区分」という5つの分から構成されている。

A 歴史のとらえかた
 初めに講義の狙いが、哲学的な世界史、つまり世界史そのものを対象とする哲学であるとかたられる。哲学的な世界史のとらえかたとはどういうものかを知るためには、そうではない世界史との比較対象が必要だというところから議論が始まる。
 歴史の見方には一般に以下の3種類の方法があるという。
 (a) 事実そのままの歴史
 (b) 反省を加えた歴史
 (c) 哲学的な歴史

(a) 事実そのままの歴史
 <事実そのままの歴史>というのは、記者が、「自分たちが目のあたりにし、自分たちがその同じ精神を共有できる行為や事件や時代状況を記述し、もって外界の事実を精神の王国へとうつしかえた」(11ページ)歴史であるという。ご本人はわかっているつもりなのかもしれないが、どうもわかりにくい。これを「歴史的記録」たとえば、日記や手記のようなものと考えればわかりやすく、ヘーゲルがそう考えている節も見受けられるが、そうでもないようなことも書いていて、はっきりしない。

 このような歴史の例として、ヘーゲルはヘロドトスや、トゥキュディデスの例を挙げているのだが、彼らの歴史はむしろ、ヘーゲルの分類でいう「反省を加えた歴史」に属するのではないか。ヘロドトスはその『歴史』の初めのところで、ペルシャ戦争がなぜ起きたかの原因を調べたのがこの書物であるというようなことを書いている。ただ、彼が自分で旅行して調べた部分については歴史的な事実と考えて差し支えないが、旅行中に伝聞した伝承や説話には信頼のおけないものが少なからずあるというのが一般的な評価である。そういうことも考えると、ヘーゲルがヘロドトスの歴史を<事実そのままの歴史>に分類したのは、かなり乱暴に思われる。
 次にトゥキュディデスの場合であるが、彼はアテナイとスパルタの間のペロポネソス戦争が起きた時に、これは重大な事件で、恒星また同じようなことが起きた場合に(歴史は繰り返す)、参考になるようにとその詳しい記録を残そうとした。同時代の記録という意味では、確かにヘーゲルの言うような<事実そのままの歴史>といえるのかもしれないが、後世の参考になるようにという姿勢はむしろ、<反省を加えた歴史>の方に属するのではないか。

 トゥキュディデスについて考える時に、凄いなぁと思ってしまうのは、彼がペロポネソス戦争が重大な出来事だと認識したことである。彼の同時代に大勢の人々がいて、戦争の時代を過ごしていたのだけれども、その記録を残そうとした人はほかにどれだけいたのだろうか。私自身の人生をふりかえっていると、いちばん大きな出来事というのは、おそらく、高等教育の大衆化(さらにはユニバーサル化)ということで、自分自身がその間、一時は学生として、また大学・短大の教師としてそれにかかわっていたのだけれども、事態を一向に重大なものだと考えてこなかったように思う。それが重大なことだと思うようになったのはごく最近のことである。

 それから、もう一つ考えていいのは、日本における歴史記述の推移を辿ってみると、<六国史>があり、その後、貴族や寺社の「日記」が一方で、もう一方で「鏡物」などの歴史物語が現われている。正史の方が先に来て、私的な記述の方が後から発生しているというのは、どういうことか考えてみる必要がありそうである。

 以上、書いてきたことから、ヘーゲルの議論は歴史を門外漢の目で見ている議論で、ヨーロッパ中心に偏った見方をしており、具体性を欠く部分も少なくないのだが、それでも歴史とは何かを考える上での手掛かりとしてはなかなか役に立つものであることがわかると思う。これから、ゆっくり、のんびりと彼の議論を辿っていくつもりなので、お付き合いのほどをよろしくお願いしたい。

 このブログを始めてから、読者の皆さんからいただいた拍手が25,000を越えました。お礼申し上げるとともに、今後ともご愛読のほどをよろしくお願いします。
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

tangmianlaoren

Author:tangmianlaoren
FC2ブログへようこそ!

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR