ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(25-1)

8月3日(木)曇り

 ベアトリーチェに導かれてダンテは地上楽園を飛び立ち、月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天を訪問した。彼は、それぞれの世界で彼を出迎えた魂たちと、政治と宗教、ローマ帝国と教会の歴史、これからの世界と彼の運命などについて会話し、政治と宗教についてこれまで以上の知識と理解を得ることができた。こうして自らを高めた彼は、至高天から土星天へと降りてくるヤコブの階段を登って、恒星天に達し、そこでキリストとマリアの凱旋の様子を見る。さらに聖ぺトロから3つの対神徳の1つである信仰についての試問を受ける。これに対してダンテは神の本質は知性であり、人間の知性によっては神を直接認識することができないから、その知の代わりに信仰があると答える。さらに天上の完全な調和と美は、その神の知に従う「愛」と「希望」により地上にも反映されるべきであると答え、聖ペテロの承認を得る。

もしも万が一、この聖なる叙事詩、
天も地も手を貸して助け、
それがため、長年の間に私の骨身を削らせたこの詩が、
(374ページ)と、ダンテは自分の作品である「聖なる叙事詩」について口にする。彼は互いに争う暴力的で貪欲な人々「狼ども」に憎まれ、「美しい古巣」である祖国フィレンツェを追放されたのであるが、預言としての彼の詩が祖国を正しい道に導いたならば、フィレンツェに帰還し、聖ジョヴァンニ(ヨハネ)洗礼堂で詩人としての栄誉を承けたいと述べる。なぜなら預言を歌う詩人ダンテは信仰に入ったからこそ予言をえられたのであり、聖ジョヴァンニ洗礼堂こそは、彼が洗礼を受けた場所だったからである。

 聖ペテロはダンテの傍を離れて光の輪の中に戻り、また新たな光が現われる。ベアトリーチェは
・・・「見よ、見よ、ここに、
その人のために下界で人々がガリシアを訪れる領主がいます」。
(375ページ)と、この光が十二使徒の一人、大ヤコブのものであることを告げる。彼はイベリア半島西北部のガリシアのコンポステラで布教し、後にエルサレムで殉教したが、彼の遺体はガリシアに運ばれて葬られた。彼が葬られたサンティアゴ・デ・コンポステラは今日に至るまで、重要な巡礼地となっているのである。
 ベアトリーチェは大ヤコブの光に、ダンテと希望について討論するよう求めた。大ヤコブは「希望を体現する」(377ページ)存在だからである。依頼を受けた大ヤコブは、ダンテに語り掛け、
「・・・
さあ、答えよ、希望とは何か。答えよ、汝の知性がその花で
どのように自らを飾っているか。答えよ、それがどこから汝のもとに来たのか」。
このように、さらに第二の光は続けたのだった。
(378ページ) すると、ベアトリーチェがダンテに代わって、「汝の知性がその花で/どのように自らを飾っているか⇒ダンテが希望という徳をどれほど持っているのか」について答え、彼は地上の教会に属する信者のなかで最も希望を抱き、そのために、生きたまま天国に昇ってきたのだと言った。

 この後で、ダンテはこの希望とは何かを語った。
「希望とは――私は言った――将来の栄光への
豊かな期待です。それは神の恩寵と先立つ功績が
生みだします。
(380ページ) 希望は賢明・剛毅・中庸・正義という4つの枢要徳が人間に生まれつき備わっているものであるのに対し、信仰・愛とともに対神徳であるから神から与えられるのである。そして希望は善をなしたことを知ることにより生まれるという。

 ダンテは続いて、希望がどこから彼のもとにやってきたかを答える。
この光は、数多の星々から私のもとにやって来ました。
しかし私の心に最初にそれを注ぎ込んだ方は、
至高の総帥に仕える至高の歌い手でした。
(同上)という。「至高の総帥」は神、「至高の歌い手」は詩編の作者であるダヴィデを指す。古代イスラエルの王ダヴィデは旧約聖書詩編の詩の作者と考えられていた。
 次にダンテは新約聖書の大ヤコブが書いたと当時信じられていた「手紙」により、その希望をさらに豊かなものとしたという。さらに
あなた方からの慈雨を私が人々に注ぎ込みます」
(381ページ)とこの答えを結んで、自分の書く叙事詩『神曲』が地上に希望の徳を広める役に立つようにすると決意を語る。

 ダンテの希望の向かう先は、天上の永遠の生命であり、そこに彼の中世的な世界観が現われていることはよく指摘されてきたことであるが、そのように『神曲』を書き続けながらも、彼が地上、特に彼の祖国であるイタリアとフィレンツェの政治事情を忘れていない様子であることも見落としてはならないと思う。実は、地上の政治のゆくえにも希望を捨てないでいるダンテの姿も『神曲』には見え隠れするのである。
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