片平孝『サハラ砂漠 塩の道をゆく』(2)

7月18日(火)曇り、午後になって雨が降り出す

 2003年12月、写真家である著者は、トゥアレグ族のガイドであるアブドラをコック兼通訳、ベラビッシュ族のガイドであるアジィをラクダ使いとしてキャラバンを組み、マリ共和国のかつての”黄金の都〟トンブクトゥを出発し、岩塩の産出地であるタウデニ鉱山へと向かう。途中で運よくアジィの知り合いである同じベラビッシュ族のムスタアーファが率いるアザライ(トゥアレグ語で「塩を運ぶキャラバン」という意味)に出会う。親族だけで構成されているこのアザライのリーダーであるムスターファは見知らぬ旅人との同行を嫌がるのだが、とにかく同行することができ、19日目にタウデニに到着することができた。750キロ余りの砂漠の旅の末のことである。

 タウデニはサハラ砂漠の中にある太古の塩湖が干上がった後の盆地で、「金鉱のように一獲千金を夢見る生臭い場所だ。さまざまな事情を抱えた男たちや犯罪者が国中から集まり、身を寄せる場所でもあった」(92ページ)。人々は「アゴルコット」と呼ばれる集落に住み、採掘が盛んな(比較的涼しい)時期には400人近い男たちが生活すると言われる。住居は塩の混じったブロックを積み上げてラクダの皮をかぶせて屋根にしたもので、室内は150センチくらいの高さしかなく、立ち居ができないという。女性が1人もいない、男たちだけの世界である。

 物騒なので一人歩きをするなと固く戒められていた著者はアブドラとともに、岩塩の採掘場を訪問する。約3メートルほどの縦穴を掘って、そこで岩塩層を見付けてそこから岩塩を採掘しているのである。
 5月から10月までタウデニで働く人々はみなトンブクトゥに引き上げるのだが、その中でアルバという中年の男だけは居残り続けるという。彼は借金を返すために、10年間の年季奉公を続けてきたとのことである。その彼が、まったくの外国人として労働者たちの間で孤立している著者を守ろうとするやさしさに、著者は大いに感動する。

 縦穴の中では小型のツルハシを使って岩塩をはがしていく。岩塩の大きさは手と足で測る。重さ100キロ前後ある原石が職人たちによって削られて、重さ30から35キロの「バー」と呼ばれる塩の板になる。
 足と手が物差しになって塩を掘り出す採掘法は、タウデニよりも前に塩の供給地であったタガザの岩塩鉱山における採掘と同じ方法といわれ、古代の岩塩鉱山の採掘法を知る手掛かりになっている。
 タガザの町はタウデニの160キロほど北にあり、8世紀から16世紀まで塩を供給し続けた。当初はガーナ王国、14世紀前半からはマリ帝国に管理され、15世紀末からはソンガイ帝国の支配下にあった。1580年代にサード朝のモロッコ軍に占領されたが、当時すでに岩塩鉱山は枯渇しかかっていて、塩を掘りつくした後は廃墟となってしまった。その後、キャラバンの宿営地としてわずかに利用されていたが、今はアルカイダ系テロ集団の隠れ家となって近寄れない。

 タウデニ鉱山はソンガイ帝国がタガザの代わりに16世紀末から採掘を開始して、それ以後ずっと同じ方法で塩を掘り続けている。現在、土地を管理しているのは、トンブクトゥやアラワンのベルベル系とアラブ系の塩商人で、毎年自分たちの採掘場に契約した労働者を送り込んでいる。また彼ら自身も数か月間タウデニに滞在して、塩の掘り出しと出荷状況を管理している。

 採掘場で働く黒人の労働者たちは、召し使い、フリー、見習いの3つの階級に分けられている。召使は給金はないが、7日間で掘り出した塩の2日分がもらえて、家族の面倒も見てもらえる。フリーの大半は借金のために働いている出稼ぎ労働者で、2日分の塩を手にする権利と給金をもらえるが、家族の面倒は見てもらえない。見習いは寝る場所と食べ物を与えられるだけで何ももらえないが、いずれは塩の切り出しの作業に着くことができる。
 岩塩の原石を「バー」と呼ばれる塩の板にするアラブ人とトゥアレグ族の職人たちは、給金はなく家族の面倒も見てもらえないが、塩の板4枚につき1枚の権利をもっている。

 タウデニでは、「バー」がお金の役目を果たしている。労働者と食料を乗せてやってくるトラックが、町から様々な物資をいっしょに運んでくる。タバコやお茶、コーヒーのほか、ヤギやニワトリ、毛布や衣類などありとあらゆる物資がバーで手に入る。まるで古代のようである。

 ムスターファたちのキャラバンでは、モハメッドが自分のラクダ12棟分の岩塩を確保できたが、他の連中はまだ手に入れていない。イブラヒムは急に鉱山で働くと言い出し、ムスターファとラミィのグループは34頭のラクダに積むべきバーの半分しか確保していない。しかもムスターファが左手を化膿させていて、出発もおぼつかない様子である。
 それでも出発を延ばして、タウデニに予定していた以上の日数滞在して、アブドラが食料と金を「使い込む」という事件も起きたが、どうやらムスターファのアザライもバーが確保できて、出発ができる状態になった。

 今はまた足を踏み入れることができなくなってしまったというタウデニ鉱山と岩塩の採掘の様子が貴重な報告となっている。足と手を物差しにして岩塩の大きさを測るというやり方が昔から続いているというところに、歴史の流れによっても失われない、人間の知恵を感じることができた。この後、砂漠の炎暑の中でのトンブクトゥへのきわめて過酷な帰還の旅が始まる。それがどんなものであったかは、また次回に譲ることにしよう。アブドラは頼りにならないし、アジィは英語ができないので細かい意志の疎通がむずかしい。ムスターファはけがをしている。帰り道も前途多難である。
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