カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』(2)

6月9日(金)晴れ

 トルコ人との戦争に従軍したテッラルバのメダルト子爵は、勇敢(無謀)にも敵の大砲の真正面に立ちはだかってその砲弾を浴び、その体を吹き飛ばされてばらばらにされたが、軍医たちの巧みな手術のおかげで右半分だけの人間になって先祖代々の領地であるテッラルバに戻ってきた。テッラルバ(夜明けの土地)は、深い森に覆われた山が海岸のすぐ近くにまで迫っている美しい土地であったが、(カトリックが支配的なイタリアでは例外的な少数派であるユグノー:フランスのプロテスタント信者)の集落や、癩患者が暮らしているきのこ平のように、ほとんど/めったに/まったく、村人たちが訪れないような場所もあった。
 故郷に戻ったメダルド子爵は人間にも動物たちにも冷酷な人間になっており、父親の子爵は失望して死に、母親代わりに彼を育ててきた乳母の年老いたセバスティアーナは悲嘆にくれた。父の死後、彼は領地内を歩いては、見るもの触れるものをすべて2つに切断し、領民に対しては厳しい裁判官として大目に見るべき犯罪に極刑を課し、領内だけでなく自分の宮殿にさえ放火して、癩病とは別の病気で顔にできものが出来ていたセバスティアーナをきのこ平に追いやった。
 語り手である少年はこの子爵の甥(姉の子)であり、両親もいないし、その育ちから主人の側にも使用人の属さない自由な立場で、クック船長とともに世界を就航してきた船医であるトレロニー博士の研究の助手をしていた。博士は医者の仕事をほったらかしにして、巻貝の化石や人魂を集めて研究にふけり、すぐに飽きて、また別の新奇な研究対象を探していたのである。

 メダルド子爵はある日羊飼いの娘パメーラが牧場でヤギと遊んでいる姿を見て恋に落ちる。「正午の帰り道に、牧場のひなぎくが一本残らずまっぷたつにされ、その矢車形の花弁の半分がむしり取られているのを、パメーラは見つけた。≪まあ恐ろしい≫彼女は心のなかで叫んだ。≪谷間にはたくさん娘がいるのに、よりによって、あたしの身に降りかかるなんて!≫子爵が自分に思いを寄せていることを彼女はさとった。まっぷたつにされたひなぎくを一本残らず摘みとって、家に持ち帰り、彼女はミサの本のページにはさんだ。」(75ページ) 子爵はパメーラを追い続け、彼女は森に逃れる。子爵の執拗な脅しに、彼女の両親は結婚に同意する。ぱめーらは一番の仲良しのヤギとアヒルを連れて、森の中に逃れる。彼女の居場所を一人だけ知っている語り手が、彼女に食料を届けている。ある日、語り手がトレロニー博士と畑の中を歩いていると、子爵が突然現れ、「少し長く歩くと、その後で、亡くなった片足がつかれているみたいな気がするのだ。これはどういうことだ?」(86ページ)と質問する。博士は、しきりに考えにふける。「彼が人間の体の問題にこれほど深い関心を示したことは、かつてなかった。」(87ページ)

 きのこ平にセバスティアーナをを訪ねた語り手は、彼女は本当は病気ではなくて、身を守るために病気のふりをしていること、さまざまな病気によく効く薬を知っていることを知る。その帰りに、森の中で、彼は毒蜘蛛に手をかまれた叔父に逢う。いつもと違ってやさしく親切な様子の叔父の傷を治そうと、語り手は再びセバスティアーナのもとに向かう。セバスティアーナは、毒蜘蛛に手をかまれたのが叔父の左手であるといった語り手の言葉を聞きとがめるが、薬を渡してくれる。日が暮れた頃、オリーヴの林の中で語り手は叔父に出会う。彼はスズメバチの大軍を語り手にけしかけるいたずらをする。その後、トレロニー博士に逢うと、彼は赤い蜘蛛に手をかまれた子爵の傷を治したばかりのところだという。語り手は訳が分からなくなる。

 そのうちにメダルドの二重の性格についての噂が広がり始める。あちこちに悪いメダルドだけでなく、善いメダルドが出現し始めたのである。噂を確かめようとパメーラは自分の近くにやってきた子爵に話しかけた結果、自分の目の前にいるのが別の半分だということに気付く。「お城に住んでいる子爵、あれが、悪い半分。そしてあなたが、別の半分。戦争でこなごなになってしまったと思われていたのが、いま帰ってきた」(107ページ)というのである。
 彼女がメダルド(の別の半分)から聞き出したのは、次のようなことであった。実は大砲の玉は彼の体の残り半分をこっぱ微塵に吹き飛ばしたのではなく、彼をまっぷたつにしたのであった。味方の負傷者収容班が見つけたのは半分だけで、残る半分は戦死者の死骸の山の下に埋もれていた。それをキリスト教徒とトルコ人たちの中立地帯に住んでいる2人の隠者が見つけ、自分たちの住処に連れ帰って、手厚く秘法の香油と軟膏とを塗って、ついにその命を救ったのである。そしてこの残った半分も松葉づえで片足を引きずりながら、何年も、何か月もかかって、キリスト教徒の諸国を越え、みちみち善行で人々の目を瞠らせながら、自分の城へと帰ってきたのである。

 半分の体になったことで自分が不完全な存在であったことに気付いたというメダルドの別の半身も、パメーラに恋をする。そして彼女の両親たちの仕事を手伝いに出かけるというが、パメーラはそれに賛成しない。
「いっしょに善い行いをすること、それが私たちの愛の唯一の方法なのだ」
「残念だわ。あたしはもっと別の方法があると思ってきたの」(111ページ)
 1人になったパメーラは、自分の傍にいる動物だちにたずねる。「どうしてあたしのところに来るのは、ああいう人たちばかりなのかしら?」(112ページ)
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