ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(21-1)

6月8日(木)曇り、一時雨、昼頃から晴れ間が広がる

 神学の象徴であるベアトリーチェの導きによって、地上から天上の世界へと旅立ったダンテは月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天を歴訪し、彼らを迎えた魂たちと地上の世界における正義と平和の実現、宇宙と神をめぐって話し合った。そして、彼らは土星天に達した。〔ダンテが依拠したプトレマイオスの宇宙論では土星が地球の周囲をめぐる最遠の惑星であった。〕

すでに私は我が貴婦人の顔に
再びじっと目を留めていた。そして心もそれに従い、
その他のあらゆる関心から離れていた。
(314ページ) 地球から遠ざかり、本来の天国である至高天に近づけば近づくほど、ベアトリーチェはダンテの目に美しく見えた。しかし、彼女は、土星に到着しても、これまでのように微笑はしなかった。それは神の光を受ける彼女の輝きがさらに激しくなって、もはやダンテの肉体の目が純粋に神的なその微笑に耐えられないからであった。これは、人間には神の姿は不可知であり、それを見ることができるなどと思い上がってはならないことを表現していると考えられる。

 ダンテはベアトリーチェの先導に従って天上の世界を旅行していることを喜び、土星の世界を眺める:
その中に、光線が反射して黄金に輝いている、
私の光る目では追いきれないほど高く高く
上に伸びる一本の階段を見た。

そしてまた、その階段を無数の輝きが降りてくるのも
見た。そのため、空に現れているあらゆる星は
そこから撒き散らされているのかと私は思った。
(316-317ページ) ダンテの目に、階段の頂が見えないことは、その階段を上っていくダンテが<私>という個人であることを辞め、永遠の中で神と合一することを暗示していると解説されている。「また観想を意味する天国への階段に、イスラーム文化圏から当時の西欧に伝わり、ダンテも参照した可能性が指摘されている『階段の書』の影響を指摘する意見もある」(603ページ)と翻訳者である原さんは解説で述べている。
 その階段を伝って土星天に降りてくる無数の魂たちの輝きをダンテは見た。それはある段にぶつかると、はじけて様々な動きを見せた。これは、神を観想しようとしている魂が、肉体的・物質的な世界を離れ、鳥のように軽くなって瞬時に様々な場所に想念を飛ばせるようになることを意味しているとされる。

 そして一つの魂の輝きがダンテたちの傍に来てひときわ激しく輝いたので、ダンテの心にこの魂に質問したいという気持ちが生まれる。彼がベアトリーチェの許しを得て質問したのは、この魂がなぜ来たのかということと、それまでの諸天空で聞かれた魂たちの合唱が、なぜここでは響いていないのかということであった。
「おまえの必滅の者ゆえの聴覚はその視覚と同じ。
――私に答えた――ゆえにここではだれも歌わぬ、
ベアトリーチェが微笑まなかったのと同じ理由で。
(320ページ) 魂は、ダンテの2番目の問いの方から答える。神に近いこの圏の魂の声は強すぎて肉体の聴覚をもっているダンテには耐えられないものだからだという。ベアトリーチェの微笑がダンテの視覚には耐えられないものになっているのと同じだというのである。次回に取り上げることになるが、この21歌の最後で魂たちは歌い、その歌声にダンテは圧倒されてしまう。今道友信(2004)『ダンテ『神曲』講義 改訂普及版』(みすず書房)では「ここで、音が聞こえなくなるとか、見えなくなるということは、ある意味で、さらに高次のものが理解されるときの臨時のくらやみの状況だと考えなければいけない」(今道、497ページ)と論じている〔「ある意味で」という語句は余計ではないかと思うのだが…〕。原さんによると、またこの沈黙は瞑想の沈黙を意味しているという。つまり土星天には、沈黙しながら神を観想し、神からの像や声を聞こうとした魂たちがいるのであると述べている。これも次回に明らかにすることであるが、ダンテに語り掛けてきた魂が何者であるのかということとも関連する。

我がこの低きまで聖なる階段を
下りてきたのは、ただ言葉と我を包む光によって
おまえを祝福するためである。

より大きな愛ゆえに我が先んじて来た訳ではない。
というのもここより上では我より大きな、また同等な愛が燃えているがゆえ、
炎がおまえに明らかにしているように。

しかし高き慈愛が、我らを、
世界を統べる決定の忠実なる従者となし、
おまえが見分けているようにここでの任を与えている」。
(320ページ) 最初の質問に対する答えは、神の定めに従ってここに来たのであって、ダンテとそれ以外のつながりはないというものである。そこでさらにダンテは質問を試みるが、それはまた次回ということにしよう。 
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