語学放浪記(2)

5月14日(火)晴れ

 昨日の映画『ブルーノのしあわせガイド』の論評の中で、イタリアの教育(制度)には時代遅れの不適切な部分が多々見出されるということを書いたが、日本についてみた場合、高等教育における「第二外国語」を再考する必要があるのではないか。千里の道も一歩よりはじまるというが、一歩歩いただけで千里を踏破したつもりになってはいけない。ある進学塾では学習の到達度を55段階で評価しているというが、これは自分の学習を客観的に見つめさせるという意味で適切なやり方である。大学で「第二外国語」を勉強したことは、習得することとは別のことである。普通まずはじめに勉強する「外国語」である英語の場合、人によって違いはあるが少なくとも4歩か5歩、学校の授業以外にもいろいろ工夫したりして努力した人はもっと多くの距離を稼いでいるはずで、それに比べると出発が遅れた「第二外国語」の場合、それ以上の努力をしないと追いつくことは期待できない。

 努力というのは自発的なものであるから外から働きかけてうまくいく性格のものではないが、それでも「外国語」の学習については教師の影響力がかなり大きいと思う。その一方でどういう先生がいい先生であるかという定義が難しいのも事態をさらに複雑にしている。

 大学に入学したときに「第二外国語」の履修についてのガイダンスをされたのが、塩谷饒先生であった。先生曰く、ドイツ語と英語ができると、その中間のようなオランダ語もできるようになるので面白い。先生はドイツ語もオランダ語も教えられているほどに両言語に通じていらしたからそういうセリフがはけるのだけれども、大学に入学したての右も左も分からない学生にこんなことをいってもまごつくだけである。ご自分の特殊な事情を普遍的なものとして語ってくれては困る。それにオランダ語ができることにどういう意味があるのか・・・ということも説明の必要があったはずである。(それを言うと、ドイツ語でもそうだし、英語だってそういうことになる。)

 世界的にみると、ドイツ語が重視されている国・地域は偏在していて、日本がその1つであるのはかなり有名な話のようである。江戸時代の特に後半に日本では蘭学が発展したが、オランダ語とドイツ語は(塩谷先生が言われたように)近縁性があり、明治の初めの岩倉使節団が米欧を視察した中で急速に富国強兵を達成した(何せ普仏戦争の直後であった)ドイツに注目したのはかなり自然の成り行きであった。しかし、その後の歴史をみると、第一次世界大戦、第二次世界大戦を経てドイツ語の国際的な地位はかなり下がって来たのでドイツ語を過度に強調することは不適切になって来たことも否定できない。確かに現在においてもドイツは世界第4の経済大国であり、世界の主要国の1つであるからドイツ語を学ぶこと自体の意義はあるが、ドイツ人とごく普通に交流するだけならば英語で話が通じるので、その分英語をしっかり勉強する方が確実である。多くの人々が少しだけドイツ語をかじるよりも、ドイツ語がよくできる少数の精鋭がいる方がはるかに実利はあると思われる。

 日本在住のあるドイツ人の先生がこんなことをいっていた。日本の大学のドイツ語教授はヨーロッパの学校のラテン語の教授に似ている。言語を死んだ言葉として教えている。その意味について考えると、ドイツ語教授の主な内容は、あるテキストを読むこと、解釈することに重点が置かれている。既存のテキストを読み解くことだけに教授の焦点を当てれば、それは言語をそこに既にあるもの、変化しないものとして教えることになる。言語は変化している。文脈によってそのあり方を変える。そんなことを示唆しようとしたのであろう。ドイツ語に限らないが、「外国語」のいい先生というのは、その言語を学ぶことの意義を自問自答し、学習者によく説明できる先生、その言語の生きた姿を知り、その言語とともに生きている先生である。ただ、そのような先生であっても、学習者がその努力や誠意を受け止めるとは限らない。いい先生の定義が難しいというのはそういうことである。それに生きた言語という言い方をすると、ラテン語や古典ギリシア語、サンスクリットやパーリ語の教師の場合はどうなのか・・・という話にもなる。当ブログに何度かその逸話を書いてきた水野有庸先生には、学会で相手かまわずラテン語で話しかけて嫌がられた(嫌がる方にも問題はある)という逸話がある。先生にとってラテン語は生きた言語であったように見受けられる。過度に熱意を押し付けられて辟易する場合もあるので、その点のバランスのとり方に工夫が必要であろう。

 私自身について言うと結局のところ、大学時代を通じてドイツ語よりも中国語を、大学を出てからはスペイン語を勉強した時間の方が多いので、ドイツ語はいわば「第四外国語」になっている。ゴルフのハンディ―に譬えると、英語が14、中国語が30、スペイン語が32、ドイツ語が33、フランス語とラテン語が34、イタリア語が35、古典ギリシア語が36、ロシア語が問題外というのが今のところの自己評価である。
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