ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(19-1)

5月10日(水)雨が降ったりやんだり

 ベアトリーチェに導かれて、天空の世界へと旅立ったダンテは、月天、水星天、金星天、太陽天、火星天を経て、木星天に達する。それぞれの世界で彼を出迎えた魂たちとダンテは政治と宗教をめぐる会話を続ける。火星では、彼の玄祖父であり、十字軍に加わって戦死したカッチャグイーダの魂から彼の今後の運命と、この旅行で見聞きしたことを帰還後に地上の人々に伝えるという彼の使命について告げられる。木星でダンテを迎えた魂たちはDiligit Iutitiam qui iudicati terram (正義を愛せ、地を統べる者達よ)という文字を天空に描き、その後、Mの文字を描いたが、このMは地を表すterramの最後の文字で、地上を示すとともに、ローマ帝国を表すMonarchia=帝国の頭文字であり、地上に正義を行きわたらせる統治の使命を神に担わされた帝国を示すものである。さらにそのMの文字は鷲の形に変じた。

私の前に現れていたのは、翼を広げた
美しい形象、魂たちはさわやかな喜びを味わいながら
組み合わさってそれをうれしげになしていた。

それぞれの魂はどれもみな
太陽の光線が中で烈しく燃え上がる美しい紅玉の姿をし、
我が目の中で太陽が反射しているかのようだった。
(282ページ) 「美しい形象」は鷲の姿を示し、「さわやかな喜び」は神を思う喜びである。太陽は神を象徴しており、紅玉はルビーのことである。鷲の嘴の部分が言葉を発し、それは一人称複数ではなく、一人称単数で話した。これらの魂は神の恵みの光を直接見て、それを言葉にしてダンテに伝えていることが暗示されている。鷲の姿を形作っているのは、様々な時代の様々な統治を統治を担った君主たちの魂であるが、彼らが一人称単数で話すことは、正義を実現するための統治は神の名のもとに一つであるというダンテの思想を示すものであると翻訳者である原さんは注記している。

 ダンテは神を見ている鷲が、自分が心に抱いている疑問を見通しているはずだと語りかけ、その疑問への解答を求める。しかし鷲は、それへの返答をすぐにはせず、創造主と被造物との関係から、神と地上の事物や人間の能力との関係を説明する。
・・・「円規(コンパス)を回して
宇宙の果てを区切り、その中に
多くの隠れた事物や明らかな事物を区別された方だが、

ご自身の力を全宇宙へと刻印するにあたり、
その御言葉がそれらを限りなく超越することがない、
などということはあり得なかった。
(286ページ) コンパスを回す神は無限だが、そのコンパスによって区切られた宇宙(被造物)は有限である。それらの被造物に神は自身と同じ完全を与えたことはないというのである。

そのことを証明するのが、第一の高慢
被造物の中で頂点に立っていた者が
光を待たなかったために熟さず失墜したことである。
(同上) 魔王ルシフェルは、謙虚に神の恩寵の光を受ければ独力では理解できない真理を理解できたはずであるが、神の光を拒否して神と並び立とうと競ったため天国から地獄に堕とされた。その姿は『地獄篇』第34歌に描かれている。
つまりここに明らかになっているのだ。
限界をもたず、自らで自らを図るあの善にとっては
自らより大通るあらゆる被造物は不足する器であることが。
(同上) 神は無限であり、無限であるがゆえに比較できる対象は無限である自分自身しかいない。(わかったようでわからない議論である。) 

生来の性質ゆえに能力には限界があり、
その源泉を見通せはしないのだ、それはお前たちの視力に
明らかであるものをはるかに超えているからだ。
(287ページ) 被造物の理解力(視力)は不完全なために神より劣り、人類が神意「永遠の正義」の完全な理解に達することはないのである。

 そして、鷲はいよいよ、ダンテが心の中に抱いている疑問に対して答えようとする。
生ける正義がおまえに隠してきた奥の間が
今やお前に対して大きく開かれている、
それについておまえはあれほど頻繁に疑問に思ってきたが。
(288ページ) それはダンテが地獄のリンボを訪問した際に、ウェルギリウスやアリストテレスが天国から排除されていること、あるいはウェルギリウスが煉獄で、天国に行けないことを引け目に思っているのを感じた時に覚えた疑問である。これはある意味で、『神曲』全体を通じて最大の疑問であり、ダンテが古典古代とキリスト教の関係をどのようにとらえていたかを考える鍵となる問題でもある。と、気をもたせて、答えとなる部分は次回に取り上げることにしよう。 
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