語学放浪記(54)

5月4日(木)曇りのち晴れ

 5月2日付の『朝日新聞』朝刊の「折々のことば」を読んでいて、気になったことがあった。このコラムは哲学者の鷲田清一さんが、自分の心に残る言葉を選び出して、それについての感想を記しているもので、私が物を考えたり書いたリスるときの参考になることも多い。が、今回気になったというのは、鷲田さんが意識的に文の主題として主張していることではなく、文章の中に見え隠れしている潜在意識の方である。

 まず引用してみよう:
 Class is a state of mind,
not money. We are upper class.
       ある母親
 NHKラジオ講座「実践ビジネス英語」の米国人出演者は、幼いころ「うちは中流階級なの?」と母親に聞いた。彼女の答えは「階級は心の持ちようであって、お金ではないの。内は上流階級よ」。「よい人間」になるため知的な理解力を磨くのが上流階級だと。だが、長じて娘は、お金を使うこと、貯めることの意味をきちんと教えておくのも大事だと思うようになる。講座テキスト(3月号)から。
 
 ここで鷲田さんが引用しているのは、NHKラジオ『実践ビジネス英語』3月号の30ページから31ページにかけて掲載された”Talk the Talk with Heather Howard"の始めの部分である。念のために、テキストの該当する部分を引用しておくと:
「うちは中流階級なの?」と、母に一度聞いたことが確かにあって…
I did ask once if we were middle class, and I've always liked my mother's answer. She said, "Class is a state of mind, not money. We are upper class. If you try to be a good person, and dedicate youself to knowleddge and understanding, you are upper class." But a while back I read about one father's idea for helping children understand the concepts of spending and saving, and I think I'm going to follow in his footsteps.
その答えは、今でも気に入っている。母は、こういった。「階級は心のもちようであって、おかねっではないの。うちは上流階級よ。よい人間になろうとしていて、知識を得ることと理解することに打ち込んでいるなら、上流階級なのよ」と。でも、少し前に、お金を使うという概念と貯めるという概念を子供に理解させやすくする、ある父親の考えを読んで、私はその人を見習おうと思っている。

 自分がどのような階級に属するかということよりも、どのような人格形成上の努力をしているかの方が大事である。とは言うものの、やはり健全な社会生活を送っていくためにはお金も大事であるということで、両者の両立を図るべきだという意見には頷けるものがある(完全に同意しているわけではないが、それを書いていくと、話が長くなる)。
 ここで私が気になるのは、「米国人出演者」にはヘザー・ハワード(Heather Howard)という立派な名前があるということである。鷲田さんは、3月17日に突如、この番組を聞いて、この言葉に出会ったわけではなく、ずっと聴き続けていたはずであるから、余計に気になる。確かに、異文化に属する人たちの名前や個性を認識するのは、困難かもしれないが、番組をずっと聞いていれば、出演者の名前やその他の個性も次第に記憶に残ってくるはずである。特定の番組の外国人出演者というのは、いかにもその人間の人格や個性を無視した人間のとらえ方ではないかと思う。

 東京工大の教授で水道方式による数学教育の提唱者であった遠山啓にこんな逸話がある。彼は仲間の数学者と映画やテレビの話をするのが好きで、あの女優は数学ができなさそうだなどという話をして楽しんでいたが、仲間が女優の誰それがいいという話をしたところ、ぼくはモレシャンが好きだなぁといったという。その当時、テレビの『たのしいフランス語』のゲストをしていたフランソワーズ・モレシャンのことである。単に外国語の発音を学ぶための道具としてではなくて、もっと人格的な興味を寄せていたということであろう。そしてこれは、遠山だけのことではなくて、私の友人でも『やさしいドイツ語』のゲストであったクリスタ石井が好きだったので、ドイツ語が上達になったなどという人がいる。他にも同じような例は少なくないはずである。

 鷲田さんの書き方では外国人出演者を発音や「正しい」いい方を学ぶための道具としてみていないのではないかと受け取られてしまうところがある。異文化に属する外国人について、人格や個性よりも、外国人であることの方が判断に大きく影響してしまっているというのは、グローバル化時代に生きる哲学者としてはふさわしくないことではないかといわれて、反論は難しいだろう。あるいはヘザーさんは『朝日新聞』のライバル紙の『読売新聞』の記者を経て、現在は『ザ・ジャパン・ニューズ』に努めているということだから、ひょっとしてそんなことから遠慮しているのかもしれないと勘繰ったりしているのである。

 以前、池上彰さんが『実践ビジネス英語』を聴いているという話を書いたことがあるが、今回、鷲田清一さんもこの番組を聴いているらしいということを知った。他にどんな人が聞いているのか、知るのが楽しみである。
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