ダンテ・アリギエリ『神曲 天国篇』(18-2)

5月3日(水)晴れのち曇り

 ベアトリーチェに導かれて天空の世界に旅立ったダンテは、月天、水星天、金星天、太陽天を経て火星天に達する。そこで彼は自分の玄祖父であるカッチャグイーダの魂に迎えられ、彼を待ち受けている運命とその中で彼の進むべき道について告げられる。彼は政敵によって故郷であるフィレンツェ市から追放され、仲間とも別れて孤独な亡命生活を送ることになる。その中で彼が見聞きした死後の世界の様子を人々、特に世の指導者となるような人々に語り聞かせることが彼の使命だというのである。地獄、煉獄、天国と遍歴した死後の世界の中で、ダンテは有名な人物、有力者の霊と逢ってきたが、それは彼が現世で出会う有名人、有力者たちへの影響力を強めるためであるという。カッチャグイーダの魂はダンテに火星で彼を迎えた魂たちを紹介する。

 ベアトリーチェの姿がさらに美しくなるのを見るうちに、ダンテは彼が移動したことを知る。
私は見た、そのユピテルの松明の中で
その場所にいた愛から発する火花が
我が目に向かって我らの言語を描くのが。
(274ページ) 「ユピテル」はローマ神話の主神、英語でいうジュピターであるが、ここでは木星のことを指している。火花は空中をとりのように飛びながら、文字を描いていた。中世では、鳥が空に描く文字はギリシャ文字であるとされていたが、ここでダンテが見たのはラテン語のアルファベット、つまりローマ字であった。ただし、後に出てくるように、その文字が描く言語はラテン語であって、イタリア語ではない。

そして、ちょうど川岸から飛び立った鳥達が
まるで餌をついばんだことをうれしがるかのように、
ある時は円形、またある時にはその他の形の列を自分たちで作るのにも似て、

光の中の聖なる被造物たちは
飛び回りながら歌いつつ、ある時は
D、またI、あるいはL字の形を自分達で作っていった。

最初、それらは歌いながら、歌の節に合わせて動いていたが、
二には、これらの文字の一つになるたびに
しばらく止まっては沈黙を守るのだった。
(274-275ページ) 

こうして彼らは7の5倍の
母音と子音の姿になった。そして私の前に言葉として現れた
そのままに、私は一つ一つの文字を記憶に書き留めた。

「DILIGITE IUSTITIAM (正義を愛せ)」が
描かれた全文の最初の動詞と名詞、
「QUI IUDICATIS TERRAM (地を統べる者達よ)」、それが最後の言葉だった。
(275ページ) 35とそのまま書かずに、7の5倍、文字と書かずに母音と子音と書くのが当時一流の数学者であり、詩人であったダンテの遊び心を含めた表現であろう。原さんの傍注によると、「正義を愛せ、地を統べる者達よ」というのは旧約聖書外典の『知恵の書』の冒頭部分だそうである。

 その後で、魂たちはMの字のままでしばらくとどまった。このMは、地を表すterramの最後の文字で、地上を示すと同時に、ローマ帝国を表すMonarchia=帝国の頭文字であることから、地上に正義を行きわたらせる統治の使命を神に担わされた帝国を示すものである。
 さらにそのMの字は鷲の形に変化し、その変化の途中でMの字は一時、百合の形に変化した。この変化をめぐって解釈は分かれているようであるが、鷲は神聖ローマ帝国、百合はフランス王国の紋章である。このように、ダンテは神意が木星の徳の力となり、それが地上に正義をもたらす当地として現れているとく。しかし地上ではその正義をもたらす統治の影響を遮る悪の煙が生じている。これは聖職売買をこととする腐敗した教会、あるいは教皇庁であるという。

 木星でダンテを迎えた魂たちは天空に文字を描くことで真意を伝えようとするが、彼らの素性はまだわからない。今年はルターが95か条の提題を掲出して、教会の腐敗を批判し、宗教改革の口火を切ってから500年になるが、さらにそのルターよりも200年ほど早く、ダンテが聖職売買をはじめとする教会の腐敗を批判していることが注目される。

 
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