ジョン・ガスパード『秘密だらけの危険なトリック』

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 4月22日、ジョン・ガスパード『秘密だらけの危険なトリック』(創元推理文庫)を読み終える。

 この作品のもともとの表題はBullet Catchで、銃から撃たれた弾丸を口で受け止めるというマジックである。「外套の奇術師」という名で知られたマジシャンのテリー・アレクサンダーは零落の果てにエクアドルでこのブレットキャッチを演じている時に死んだ。他殺であったか、事故であったか、謎が残っている。テリーの生涯を描く映画の製作が企画され、撮影中であるが、低予算の地味な映画で、そう簡単にヒットする可能性はない。しかし、主人公が撃たれて死ぬ場面で、それを演じていた主演俳優が本当に死んだら… テリーを演じている若手男優のジューク・ノースは誰かが本当に彼を殺そうとしているのではないかと不安を感じ、ハイスクールの同窓生であったマジシャンのイーライ・マークスに助けを求める。既に何人かのマジシャンにマジックのコーチを受けているが、イーライに同窓生のよしみでコーチをしながら、自分の身を守ってもらおうというのである。

 物語の語り手で主人公であるイーライは、ミネソタ州のミネアポリスで暮らしている(テリーの伝記映画は製作費が安くつくミネソタ州で撮影中なのである)。2年近く前に地方検事補である妻のデアドレが殺人課の刑事であるフレッドと不倫関係に陥ったために離婚、半年前には連続殺人事件の容疑者になり、担当であったフレッドに追い回された。いまは親代わりに自分を育ててくれたおじのマジックショップの3階に寝起きする生活。今のガールフレンドである”気の雑貨店”の経営者ミーガンとは”お休み期間”中。それだけでなく、目下、深刻な高所恐怖症に悩まされ、セラピーを受けている。

 ジェークに誘われてハイスクールの同窓会(厳密にいえば同期会)に出席したイーライはハイスクール時代の片思いの相手であったトリッシュに出会う。彼女は自分からイーライに近づいてきて、同じく同窓生のディラン・ラサールと結婚したという。「悪い男」に弱いとトリッシュはいうが、だとするとディランと結婚したことは、「悪い男の大当たり」を引いたことになるとイーライは思う。

 大騒ぎの翌朝、ハリーの店に出たイーライは、もとの妻の夫である殺人課の刑事フレッドの訪問を受ける。彼はディラン・ラサールが殺されたと告げる。ただの強盗事件ではない可能性があるという。
 ジェークが主演している映画の撮影現場に出かけたイーライは旅をしながら記事を書いているジャーナリストのクライヴ、スタンリー・キューブリック気取りの監督のウォルター、自分の脚本を切りさいなまれて不満たらたらの脚本家のスチュアート、以前に会ったことがあるメイク師のローレン、脚本家の元ガールフレンドで主演女優のノエル(役が付いてから、相手を次々にかえている)、プロデューサーのアーノルドらに出会う。皆一癖も二癖もある人物で、何かが起きても不思議はない雰囲気である。アーノルドは映画の結末を複数用意しているとまで言う。

 撮影現場に立ち会ううち、イーライは飛び入りだという仕事の依頼を受ける。指定された場所では予想していたようにパーティーが開かれていたわけではなくて、ハリー・ライム(映画『第三の男』でオーソン・ウェルズが演じた謎の男の名前)と名乗る男が待っていただけであった。彼はディランの事件に興味があるらしい。映画好きらしく、事件に関係する人物に彼がつけたニックネームはすべて映画がらみのものである。大抵のニックネームの由来はわかったが、ディランのことをフランシスと呼ぶのがどうもよくわからない。

 ディランの殺人事件の捜査と映画の撮影が進行する一方で、第2、第3の殺人事件が起きる。どれがどう関連しているのかもわかりにくい展開の中で、トリッシュのためにイーライは高所恐怖症にもかかわらず事件の真相に迫ろうとする。ディランの死亡している現場写真を見たイーライはあることに気付く。・・・ 殺人事件、あるいは未遂事件が絡み合って、誰がどのような動機で事件を起こしたのか、まったくわからない。警察と検事局よりも、「ハリー・ライム」の方が事件の核心をつかんでいるように見えるところが不気味である。これまでの経緯があるからイーライは警察が信頼できない。(そのため、余計な危険にさらされることになったりする。) 

 本当に銃から撃たれた弾丸を口で受け止めることができるわけがないのはわかり切ったことで、それを本当らしく見せるトリックが仕掛けられているのだが、それはマジシャンのみが知ることで、読者は仕掛けについて想像することしか許されない。ハリー・ライムがなぜディランを「フランシス」と呼ぶか、イーライが気付いたあることとはなにかは読んでのお楽しみ(ただ、『第三の男』のハリー・ライムが引き合いに出されることで、察しがつく方もいらっしゃるだろう)。事件の真相に迫っていく過程もさることながら、映画とマジックの話題満載で、マジックについての知識があまりないのを残念に思うほどであった。なお、解説によれば、作者ジョン・ガスパードには低予算映画の製作についての著書があるそうだから、ここで映画製作の様子が詳しく描き出されているのも当然であろう。これがシリーズ第2作だそうで、すでに刊行されている第1作『マジシャンは騙りを破る』(創元推理文庫)も探して読んでみたくなった。 
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